新春企画

2024年01月01日 新春企画

竜虎雑感

朱牟田 静雄 (1964年入社)

 辰年の龍に虎まで登場させた題名としたのは、深い意味はなく、タイガースファン(いわゆるトラキチ)の年男の駄文であるということの表明にすぎません。昨シーズンは虎たちが岡田監督のいう「アレ」を実に38年ぶりに達成し、この新春は老トラファンの年男としては誠にめでたい気分で迎えております。
 84歳の年男の生まれた昭和15年は西暦1940年で、それぞれ5の倍数、10の倍数という「きりのよい」年ですが、さらに、戦後は使われなくなった「皇紀」という、神武天皇の即位を元年とする(ということは、科学的な歴史ではない、伝説・神話に基づく)紀元ではちょうど2600年というさらにきりの良い年に当ります。当時の日本では神話と歴史が混同されていたので、「紀元は2600年」という歌まででき盛大に祝われた年、当時の日本では大いに祝福されて生まれてきたのです。今年は皇紀元2684年になるわけで、昭和15年生まれの特技は(全然役には立たないけれど)今年は皇紀何年か即座に言えることです(今年自分が何歳になるか分かればそれに2600を足せばよい)。この年は太平洋戦争開戦の1年前で、日本は中国大陸で中国と戦争中というきな臭い時代です。同年生まれの男子の名前には、この紀元の「紀」の字のほか「武」「勇」「勝」など勇ましい字が多く見られ、世相を感じさせます(筆者の名前の静のような平和な字は珍しいのです)。小生は、大戦中の連合軍(米軍と言っても良い)による非戦闘員たる無辜の市民に対する無差別爆撃を、軍事目標を標的にした真珠湾攻撃とは全く異質であり、許せないものと思っていましたが、その後、小生の生まれたまさにその年に旧日本軍は重慶市を無差別爆撃して多くの無辜の市民を殺りくしたことを学び、米軍の無差別爆撃を一方的に非難できないことを知って、先輩方はなにをしてくれたのか、と失望し落胆したものです。


筆者近影

 1940年は、東洋で初めてオリンピック開催が予定されていたのですが(ちなみにその直前のオリンピックはヒトラー統治下のベルリン)、戦争の気配が強くなって中止が決まった年です。東京オリンピックが改めて実現するのは1964年のこれまた辰年、小生が生まれてから2回り目の辰年です。偶然ながら、この1964年もタイガースが村山投手などを擁してセ・リーグ優勝を果たしたいわば竜虎の年でもあったのです。
 上記のごとく、きな臭い時代に生まれた84歳の辰年生まれは、戦争とそれに続く、貧しい戦後日本の記憶を持つ一番若い世代でもあります。昭和20年3月の神戸大空襲で、当時御影にあった我が家を焼かれ、父が勤務中だったこともあり母に守られ手を引かれながら姉弟4人が大火災の中を逃げ惑った恐怖が、人間としての最初の記憶です。小学校入学は昭和22年(1947年)、いわゆる民主教育を幼時から受けた、いわば民主教育の申し子のような生い立ちです。怖かった空襲の記憶と相まって、多くの同世代とともに根っからの平和主義者でもあります。ウクライナやガザの空襲などの報道に接すると、耳の奥に残っている空襲警報のサイレンの音が蘇ってくるように思われます。戦後の食糧難の時代に幼少年期を送った者として今の豊かな食生活を有難いと思うに付け、絶対に幼少年期に味わった空襲はもとより、戦中戦後の飢餓の時代にも絶対に戻ってほしくありません。

 五回り目の辰年はこれまた極めてきりの良い西暦2000年に当たりました。もう、これ以上きりの良い年に巡り合うことはありません。西暦3000年の日本やわが子孫が幸せで平和な生活に恵まれていることを願うのみです。取りあえずは今年の辰年がトラの連覇で終わることをささやかに、しかし熱烈に願っておきます。

 最後に蛇足を加えさせていただければ、タイガースの岡田彰布監督の陽子夫人は、丸紅OBの故・大関宣典氏令嬢で、1970年代の一時期、カナダ会社モントリオール出張所長として、小生の上司だった方、まだ中学生ぐらいだった「陽子ちゃん」を含め(小さな所帯だったこともあり)家族ぐるみのお付き合いをさせていただいた方です。岡田選手(当時)との結婚披露宴にも出席させていただき、当時のスター選手(江川投手との交換で入団したばかりのハンサムな小林繁投手など)がきら星のごとく並んでいてうれしかったものです。そういえば大関氏も1928年生まれの辰年でした。

(しゅむた しずお・1964年入社・東京都在住)

朱牟田さんの過去のご寄稿はこちらのURLからご覧いただけます

「『テレワーク連句』で遊ぶ」 (2020年9月)
 https://www.marubeni-shayukai.com/letter/special/entry-615.html

「丸紅の明るさを社会に ~ 2012年を迎えて ~」 (2012年1月)
 http://marubenishayukai.world.coocan.jp/general/goaisatsu/goaisatsu-014.html

「大震災のお見舞いを申し上げます」 (2011年5月)
 http://marubenishayukai.world.coocan.jp/general/goaisatsu/goaisatsu-00.html

「青葉会(俳句同好会) 月例会300回に到達!」 (2011年6月)
 https://www.marubeni-shayukai.com/group/aobakai/entry-102.html


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