社友のお便り

2019年02月13日 社友のお便り

カサブランカ  “Café Américain”の幻 
ベリーダンサーの現(うつつ)

庄司 龍平 (1960年入社)

パンナム機の前で

 1997年、中過・小過を重ねながらも無事に定年退職。その時点で、私にとって大切な小物が3個残った。
 1)退職記念の金杯2)ダンヒルのライター、3)パンナムのバッグ。だが現在、手元には、ダンヒルのみ。
 3)のバッグは、若い頃、海外出張にしばしばお供してくれたので、形見として捨てるに捨てられずにいたが、昨春、大学に上がった孫に譲ろうとしたら、「イラナイ」と言うので、泣く泣く年末に廃棄。ところがすぐに悔やまれることになった。

 お正月早々、テレビ「兼高かおるの世界の旅」の兼高さんが、90歳で逝去されたとの報せ。この番組は一般に海外旅行が自由化された1970年には、すでにスタート以来10年余りが経っていて、冒頭に、パンナムの「ボーイング707」の離陸する画面が大きく映し出され、彼女が遠隔地から素晴らしい笑顔を届けて海外旅行への憧れを大いに盛り上げていた。

 お恥ずかしい話だが、私の商社就職への動機にはあのボーイングのジェット機で世界を飛び回ることが夢のひとつ。ペルシャの王様と商談し、「メーカー、作れ!」、「銀行、金貸せ!」、「船会社、運べ!」という幼稚な発想もあった~~~。


1970年当時の欧・阿出張の際のLUFTHANSA航空チケット

 さて、そんな1970年の4月、私は初めて、欧州・アフリカの13カ国、2か月余りの出張に出る。「欧阿の歴史関係を探り、ビジネスチャンスを発掘せよ」とのモーレツ部長の指令。今ならこのような出張に喜び勇んで出かける社員がいるかどうか?
 
 今、その時使ったルフトハンザのチケットを見ると、旅程の変更が多く、継ぎはぎだらけで厚さが9mmにもなっている。料金が2,462米ドル。当時は1ドル360円なので、約88万円!私のお給料の25倍くらい、約2年分と言う次第!


カサブランカにて フランス会社シュノー氏と代理店のオヤジ (1970年4月28日) 

 旅程は、「Osaka~Hamburg~Bruxelles~Paris~Casa Blanca」、さらにアフリカ大陸を反時計回りに飛び、「Cairo~Hamburg~Osaka」となっている。最初のアフリカが、カサブランカ! 私は胸が膨らんだ。4月27日(月)、「エールフランス2007便」カラベル機に、フランス会社から同道の繊維部長シュノー(Chenault)氏と搭乗。ホテルの近所に、映画「カサブランカ」で、ハンフリー・ボガートがボスになって出ている酒場“Café Americain”を模したバーがあるというのだ。イングリッド・バーグマンが入店して来て、ピアノで名曲「As Time Goes By」が流れる酒場。着いた日の夜から件(くだん)の酒場に行きたいと主張したが、折しも、京都産の高額「金銀糸(ダンサーのドレス等に使う)」商談の山場にあり、代理店のオヤジは商売第一、先ずはベリーダンサーの衣装を見てからにしろと言う。オヤジは最高のフロア席を取ってくれていた。ショーが盛り上がり、売り物のプリマドンナ?の踊りが始まった。ベリーとは“お腹”のこと。こんな動きをするとは?~長い髪~両手の上下左右に均整のとれた動き~ドラムの見事なリズムに乗って、やがて幽玄の世界に~ややあってプリマは私の椅子の後ろを通過するようだ。幸い辺りが薄暗いので、臀部の激しい動きに目のやり場に困ることはない?すると後ろに回った瞬間椅子が前のめりに衝撃を受けた!


 振り返ると腰で椅子を蹴り上げたようだ!かすかに笑いを浮かべた丸っこい目に視線が行った。目が合ったのは、おそらく100分の1秒?古代女の謎の目?遊女も兼ねる“巫女”の笑み?でも現世の喜びとかを超えた崇高な笑み!「Youはまたアフリカ、来るよ」と読める。ホントかね?

 不思議な一瞬でながいこと深く脳裏に残った。

 ところで翌日の酒場行きは止めになった。
 突然予想もしない安値オファーが競合先から入り、
 商談に悪雲が漂い始めたのだ~~~。

 紙幅が無いのでこの続きは、またの機会に。

 でも、ちょっとだけ記すと、その後の8か国は不潔、疫病、非効率、賄賂の支配する治安の悪い大変な国々。旅程は予定通りには行かず、仏語圏と英語圏では生活の快適さに大きな差異はあるものの、概して“瘴癘(しょうれい)の地”と言われる訳が、身に染みて分かった。

  最後にカイロに出てホッとする。ホテルは「ナイル・ヒルトン」と洒落込む!部屋に掛かった大きなエジプト壁画の「横顔の巫女」の大きな目だけがこちらを向いていて、「Youはまたアフリカ、来るよ」ホントかね? 


大蛇もなついてくれました?コンゴにて

 夜は、またもやベリーダンスへ!好きですねえ?いえいえ、脂ぎった顔のカイロ所長氏が言うのでした。「これを見ないで帰るのは余程おめでたい奴だ」と。

 帰りの機中、バッグが私に語りかける。「この大陸にはもう来たくないね?」と。

 それがです。何年かするとまた行くのでした!一度ならず二度も駐在に!アフリカ巫女のお目目は慧眼ものでした!そしてやはり、住めば都!アフリカの夜空に架かる満天の星座は大宇宙としっかり繋がっていて、なぜ人類の起源がここにあるのかが良く分かるようでした。


 


アビジャンのゴルフ場にて
南アを除けばアフリカでは最高のゴルフ場と言われている

 
 リアルのお話に戻ります。

1)の丸紅金杯ですか?

有難いことに数年前に売却させていただき、一族郎党総勢11名でその冬、ミニバスをチャーターして1泊の北陸蟹旅行!
大いなる家内平和に繋がり、族長として面目を施させていただきました。誠に有難うございました!


2)のダンヒルは、今新品購入となると8万円ほど。

 売るとなるとナンボになるか分かりませんし、処分は我が家の次世代以降の知恵に任せるつもりでございます。

 人生はシナリオのない、何処から来て何処に行くのか分からない旅とよく言いますが、「#MeToo(編集部註)」のようでございました。

 “巫女(かんなぎ)に 今なお恋の 星月夜”

(しょうじ りゅうへい・1960年入社・兵庫県神戸市在住)


 

編集部註:  
「私も」を意味する英語にハッシュタグ(#)を付したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)用語。  
セクシャルハラスメントや性被害の被害体験を告白・共有する際にSNSで使用される。ここでは、単純に「私も同じ」の意味で使われている。



 

庄司様の過去の記事はこちら


【特別企画:昭和の流行歌】 2016年4月 珠玉の演歌3曲
https://www.marubeni-shayukai.com/letter/special/entry-279.html


【特別企画:往年の銀幕スター】2015年12月 ジャンヌ・モローと「死刑台のエレベーター」
https://www.marubeni-shayukai.com/letter/special/entry-323.html


2012年11月 パリは 憂鬱?
http://marubenishayukai.world.coocan.jp/hiroba/tayori/tayori-2012-11-1.html


2011年7月 「私と外国語」
http://marubenishayukai.world.coocan.jp/hiroba/tayori/tayori-2011-07.html


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