特別企画

2015年12月01日 特別企画

ジャンヌ・モローと「死刑台のエレベーター」

庄司 龍平 (1960年)

「死刑台のエレベーター」のCDを手に

 2011年のことだが、パリで仏高級装飾品を日本向けにネット販売していた友人Aの会社から、「パリの街という事で想い出す曲を1曲挙げてください」とアンケート・メールが来たので、迷うことなく「シャンゼリゼの夜(Nuit sur les Champs-Elysees)」と返事した。

 この曲が演奏されるのは、「死刑台のエレベーター」という1957年の仏映画で、社長夫人(ジャンヌ・モロー)が 自分の夫を殺害して戻ってくるはずの愛人(モーリス・ロネ)を夜のシャンゼリゼで待ち呆ける場面。愛人は社長室での社長殺害の帰り、エレベーターに閉じ込められ、一方、夫人はそうとも知らず、不安な思いで夜の街を彷徨う。不倫と殺人の色濃い退廃的シーン。その間、5分24秒。モノクロ・フィルムに映えるモローの美しさ。そこでバックに流れるのが、モダン・ジャズの帝王マイルス・デイヴィスのトランペット。ミユートを使って時折音色を押し殺す独特のアドリブ奏法で、モローの不安と焦燥を一層募らせる。このメロデイーは世界の耳目を集め、25歳の若き監督ルイ・マルは一躍有名に!ヌーヴェル・ヴァーグの夜明け!手持ちカメラで夜のシャンゼリゼを映し、そこにアメリカのジャズ。それはうまく溶け合っていて、斬新な演出の生誕を思わせた。その年(2011年)、この映画のニュープリント版が日本全国で公開されるとあって、1957年12月4日に、パリのスタジオで録音された26曲収録のCDを買ってきて、雨の降る夜、何度も聞いた。何度聞いても素晴らしい。溜息が出るほどに。

 モローは今や87歳。シャンゼリゼのアパルトマンに一人暮らす。「“孤独”は神さまが私に恵んでくれた最高の贈り物なの」と、にこやかな表情のフォトを、昨年週刊誌で拝見した。

 実は、私はこの映画のせい(?)でコワイ目に遭ったことがある。2012年4月、フランスへの一人旅。私のヴェトナム人教え子で、今やパリのTV局に勤めるP嬢の勧めで、パリの宿は16区のメトロ「ジャスマン(Jasmin)駅」近くの7階建ステュディオの屋根裏。エレベーターが6階までで、後は階段。パリの夜は楽しくて、帰りは午前様!チョー静かな時間帯に、一人エレベーターに乗る。ところが、これがまたチョー遅い。動いているのかどうか?やっと6階に到着。ズズーンと低い音がして停止。静寂…。それでもドアがなかなか開かない。多分5-6秒か。ふと不安になって、エレベーターのメーカーを確認する。一気に酔いが醒めた。シンドラー社製!もし、故障だったら、朝までここに?モローの愛人の顔が、一瞬頭を過った。気持ちも分かる。

 結局、程なくエレベーターからは解放されたが、もうコリゴリと、翌朝早速、上述の友人A氏に宿の斡旋を依頼、仏女流デザイナーのアトリエを紹介されて、そちらに移った。その時の話については、2012年11月に、このコーナーにて別途報告した。


(しょうじ りゅうへい・1960年入社・兵庫県神戸市在住)


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