特別企画

2016年04月25日 特別企画

「昭和の流行歌」元気の源、昭和の流行歌

小口 良三 (1954年)

 私が生まれた昭和6年に作曲された「丘を超えて」、大戦直後の昭和24年に映画の主題歌として流行った「青い山脈」など、昭和前半の歌謡曲には、若者に希望を持たせるような内容のものが沢山ありました。また、これらの歌を、背筋をピンと伸ばし大きな口を開けて歌っていた、藤山一郎さんの健康的な歌い方は今でも目に浮かびます。

 これらの歌謡曲には、昭和4年〜6年に亙る戦前日本の最も深刻な恐慌の後で、「♪俺は河原の枯れすすき〜」などの退廃的な旋律が多く流れていた世相やあの悲惨な大戦直後という時代背景の中で、何とか若者には夢を持たせたいという、作詞家・作曲家たちの意図が感じられます。昭和も段々遠くなって来ましたが、今思えばこの時代は大変内容の濃い歌詞や素晴らしい旋律に支えられた歌謡曲が数多く世に出されました。

 また、昭和の時代は、日本の流行歌だけでなく、ほとんど四大陸全てから多数の外国製の流行歌が入って来た時代でもあります。「♪あなたの過去など知りたくないわ〜」と、哀愁に満ちた旋律を菅原洋一さんが歌い、これが日本産の流行歌だと思い込んでいる人が多いようですが、実はこれ作詞者(H.Bernces)、作曲家(Don Robertson)共に米国人の、米国の流行歌です。原語の歌詞も「How many arms have held you〜」、「How many lips have kissed you〜」から始まり、「But I really don’t want to know」で結ぶ邦訳の歌詞と殆ど同じ内容です。  


 また輸入された後に、曲はそのままで歌詞だけ原語の内容と全く異なった内容の詞が付けられ、流行歌として流行ったものも数多く見受けられます。皆さん既にご存知とは思いますが、その幾つかを挙げてみますと。ロシアから輸入されて、「♪走れトロイカ朗かに鈴の音高く〜」と愛唱されていた「トロイカ」、実は成金の男に自身の恋人を横取りされた馭者の失恋の悲しい調べでした。「♪何にも要らない貴方が帰れば〜」と日本で恋歌にされた、韓国の「水車の来歴」、原語では「肩書も名誉も要らない、ソウルなんか嫌いだ、田舎に帰って畑仕事でもした方が良い〜」という世相を皮肉った歌詞なのです。「♪夕空晴れて秋風吹き月影落ちて鈴虫鳴く〜」の原語の歌詞は、「誰かと誰かがライ麦畑で偶然出会って、誰かと誰かがこっそりとキッスをしたが、別に問題あるまい〜」というスコットランド民謡でした。  

 最後に、私達昭和29年入社のOB達で「にくまれ会」という集りを年2回行っておりますが、会の締括りは、毎回食事の後のカラオケです。今年は、昭和で言えば91年、昭和5年から7年生まれで、その90%を生き抜き、戦後日本の経済発展に全力を尽くして来た老兵達が昭和の流行歌で会を大いに盛り上げている訳で、なんと今だに玄人並みの美声と旋律で歌うツワモノも数人おります。

(おぐち りょうぞう・1954年入社・神奈川県横浜市在住)


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