新春企画

2023年01月01日 新春企画

さまよえる老兎

崎島 隆文 (1974年入社)

書道作品

 社友会の皆様新年おめでとうございます。お変わりなくお過ごしのことと思います。卯年、72歳、6回目の年男が巡って参りました。
 社会的責任から解放され、将来に対する懸念も無くなり、穏やかで落ち着いた生活を送っているはずでした。時間を好きに使える贅沢も、退職6年も経つと何がなにやら。本稿を引き受けたものの、誇れる活動もなく語れるエピソードにも乏しい。感傷旅行も一巡し、自由の持ち腐れ、右往左往の日々であります。

 世の中の森羅万象への理解を深め、遅ればせながら少しでも賢くなろうかと意気込んだりしましたが、読んだ尻から内容を忘れるありさま。現実は厳しく、悲しい。本は貯まれど脳には溜らない。結局のところ、「やっぱり黒川博行はおもろいなあ」、「暗殺者グレイマンも悪くない」、「柚月裕子もやるねえ」に流れてしまう。墨でかっこいい字が書きたい、少しは心の修養になるかもと書を3年ほど習った。蘭亭序(王義之)やら造像記やら難しい字の臨書に励み、顔真卿展に赴き、書道展にも出品。ひょっとしてセンスあるかなと期待したものの、コロナで意気が削がれる程度の底の浅いものでありました。自分にがっかりしています。怠惰になった心を叱咤し、再起動するエネルギーは目下のところ湧いてきません。それでも、どこの誰それが、社会貢献に関わっているとか、釣り三昧、楽器を習い始めたとか、はたまた神々しい仏像を彫っているとか耳にすると、緊張感のない生活を送りながらも、自分も何か新しいことをやらねばならぬと心乱れるものです。もはや、覚えるより忘れるのが自然の理と思いつつも、記憶が壊れ始めるのは自分が少しずつ細っていくようで寂しい。「何をごちゃごちゃしょうもないことを言っとるんじゃ。元商社マンらしく前を向け」との叱責の声が聞こえてきますが。


筆者近影

 イライラ、短気で堪え性のない兆候をしっかり自覚し始めています。卯年生まれ、繊細で内向的な性格とはいえ、こういう後ろ向きな発想は心を蝕む。精神安定剤だった落語会、コンサートも疎遠になり、今や、何とかゴルフのお陰で、鬱にもならず、辛うじて心身のリズムを維持しているところです。なんとも華のない月並みな老後とはいえ、ワイワイガヤガヤのゴルフは楽しい。萎縮し始めた脳にも刺激があるはず。丸紅時代の仲間は有難い存在です。現役時代にはお付き合いの少なかった方々との親交が深まる機会は殊更です。まだまだお元気な先輩の皆様、気の置けない同期の方々、そして遊んでくれる後輩の皆さん、今少しのお付き合いよろしくお願いいたします。

 残す一回りの余生。任運自在、近所近在に迷惑をかけず、そして静かに逝く。いいですね。老々介護を何とか回避し、ピンピンコロリを夢見るものの、顛末は神のみぞ知る。しかしできることはやっておきたい。その筋の人によれば、友と語り、時に褒めてもらい、認められたり、認めたりが自己肯定感を満たすことに繋がると教えてくれます。別の筋によれば、70歳超えたら足腰の筋力、体幹強化が健康長寿の要諦、「今からでも遅くはない、励め」と諭してくれます。有難いことです。今一度、年男を機に丸紅時代に学んだ積極性、楽観的な考え方を思い起こし、80歳まで「週2回のゴルフ」と「月4冊の乱読」の継続を目指したいと思います。家人からは、「ええ歳してぴょんぴょん跳ねんでよろし。大人しゆうしてなはれ」と釘を刺されていますが。
 つまらん近況報告になりました。ご容赦ください。皆様にとりまして良い年になりますようお祈りいたします。


(さきしま たかふみ・1974年入社・東京都在住)


バックナンバー