20世紀の、最大の物理学者が、「人は、バッファローの大群の中に生まれる。その大群に踏みつけられなかったことを、感謝しなくては」と言っています。私も今日まで、蹄に踏み殺されなかったことを感謝しています。
「第1の蹄」 私は終戦前の昭和17年に大阪で生まれました。生家は空襲で焼かれ、身一つで田舎に疎開。幼児期は、田舎といえども食糧難で芋の蔓の雑炊を食べたことも覚えています。甘いものは何もなく配給の黒砂糖の塊を麻袋から食べた思い出が懐かしく思い出されます。お蔭で今でも歯は丈夫です。
「第2の蹄」 青年・壮年時代。先ずは入試地獄そして就職難。紆余曲折はあったものの憧れの商社に潜り込みました。
しかし回りは秀才の群れ、この中で生きていけるのかと不安に思いました。鉄鋼部隊で国内、海外、プロジェクトとなんとか蹄にかかることなく歩むことができました。
「第3の蹄」 1990年代。鉄鋼大不況。リストラに次ぐリストラで回りの仲間が次々にやめてゆきました。残った我々も伊藤忠と一緒になり新しい鉄鋼商社となりました。長年のライバル同士、文化、考え方が違う2つの異文化の融合に精力を使い果たし疲労困憊。思い起せば、この3つの蹄に踏みつぶされることなく駆け抜けられたことは、正に幸運の一語に尽きます。
「今 そしてこの先」 冒頭で述べた偉大な先生は「死は最後に返さなければならない、古い借金のようなもの」と言っています。でも死は借金ではなく、「満足という賞」を得ることと思います。その賞を得るためには、まず元気に生活できること、そして人のためになることを少しでもやることだと思います。スポーツクラブとゴルフ場で体を鍛え、ボランティア活動に精を出しています。ある人が定年後の老人には「キョウヨウ」と「キョウイク」が必要と言っていました。幸いにも私には「今日、用があり(キョウヨウ)」「今日、行くとこ(キョウイク)」があります。
良き家族と良き友に恵まれ、借金を完済するまで頑張ります。
(にしざわ かずひこ・1966年入社・東京都中野区在住)