私が、河盛好蔵氏(ボードレール研究で文化勲章)を、恩師白井浩司氏(サルトルの研究者)と大学院の同級生前川嘉男君(ロートレアモン研究者)と松原秀一氏(中世フランス文学研究者)と 訪ねた日(1998年11月17日)
去年今年貫く棒の如きもの 虚子
84才にもなると、とりわけ新年を迎えて心が新たまることはない。
丸紅から加地テックに出て25年、加地テックを退いてから19年の才月が過ぎた。
月給をもらって生活をしていた最後の頃、退任の翌日から、昔読んだ本を歳相応の気持ちで読み直そうと考えていた。
最初は大部のGilsonが編んだRené DescartesのDiscours de la Méthode(註1)で、数年かけて読んだ。次は大学院で修士論文を書き、フランス文学会で発表したMontaigneの Essais(註2)をPierre Villey版で読み直した。これにも数年かかった。丁度10年経った頃、大学時代の友人からJ.H.Fabreの翻訳を依頼され、2004年にLes Ravageurs(註3)を、続いて2008年に写真集Insects(註4)を出版出来た。これらは飽くまでも趣味であって、本業ではない。この仕事を終える頃の2006年、神保町の田村書店に依頼してあったOeuvres Morales de Plutarque Traduites du grec par Amyot(註5)の6冊本が多額の価格で入手出来た。趣味の仕事を終えてからは只管これを読み翻訳する毎日である。
S41年入社の江森保隆、鈴木治樹、樋口有三の3君に招かれて、八丁堀の小料理屋で懇談(2012年6月11日)
PlutarqueにはLes Vies(註6)と云うPléiade版の2冊本があるが、むしろOeuvres Moralesは当時のフランス王Charles IXに捧げられ、知識人達の評価が高く、Montaigneが1575年頃から愛読し、徐々に彼の思想をSénèqueからPlutarqueへ転換するきっかけを作った重要な書物である。西洋の思想が沢山この書物から引用されていて、一言一言が我々日本人にとっても大変参考になる書物である。
ギリシャの諺に「立って死ぬ」と云うのがある。戦争ばかりしていたギリシャ時代の勇士は戦争で死ぬのが理想であったのか、こんな言葉になって残っている。さて私と云えば、大学入学以来読みなれたAncien Français(註7)を、畳敷きの部屋で、低い机に向かい、身体のぐるりに各種の辞書を並べて読むのが最大の楽しみであるから、或る日、そのままの姿で、ばたりと手に持つペンが倒れて死んでいたと云うのが理想である。はたして神様がこれを簡単に許してくださるだろうか?
編集部注
(やまのうち りょういち・1956年入社・東京都目黒区在住)