社友のお便り

2015年09月01日 社友のお便り

『日本再生のシナリオ』について

絹巻 康史 (1959年入社)

筆者近影

 このたび、拙著『日本再生のシナリオ』を上梓しました。サブ・タイトルとして、「~農業の産業化と広域FTAの活用~」と付しており、誠に大層な書名となりました。以下、出版に当たっての所信を述べたいと思います。

 日本は、貿易立国を謳いながら、国際社会のFTA(自由貿易協定)締結の流れの中では、「世界の孤児」の状況となっています。最大貿易相手国である米国や中国との間にも、日本は自由貿易協定を未だ締結していません。このことは貿易の専門家を自認する丸紅マンも、案外意識していないことです。ところで、日本にとって少子化社会とは、国内総生産(GDP)を始め、国全体のあらゆる経済活動の縮小化を意味します。市場が小さくなるということです。

 一方、我々の生命・生存に直結する日本農業の現状については、あまりご存知ない方も多いと思います。日本のコメ農家の42%は0.5ha未満の農地の所有者です。これらの農家一戸当たりの年間農業所得、すなわち「年間産出販売額 - 経費」の平均は、マイナスの9万9千円(2006年)です。日本農業の実情は、経済原則を無視した助成金と減反政策によるコメの高価格政策の下、消費者の負担(税金、食糧費)に寄り掛かり、それでも農家の約半数は旧世代の農政(農地法や農業委員会法、農業協同組合法等)に縛られて自由な動きがとれない低所得の被害者です。農産物の売渡し価格よりも生産コストの方が高いのです。家計の赤字は、補助金や農外収入、年金で補って生活費を捻出しているのです。


 その農業を担う人々の平均年齢は既に66歳に達しており、その6割は65歳以上の高齢者です。平均年齢はほぼ1歳ずつ、年々上がって行きます。5年後、10年後を想像してみて下さい。このままでは少子化日本の行く先がどうなるか目に見えています。急いで農業を担う人々を増やさなければなりません。それが「日本農業の実像」です(本書16頁図表2を参照)。

 今、TPP(広域FTAの一つ)の12か国による交渉が終盤に差し掛かっています。振り返って見ると、WTO そしてTPP の議論が出るたびに、俗にいう農林族は、「反対、国内農業保護」を叫び、産業界は、貿易立国の旗印の下に「賛成、貿易自由化推進」を唱えます。互いに「国益」を引き合いに出します。真実はいずれにあるのか。少子高齢化社会に突入した日本は、今そして将来どうあるべきか。 結論から申し上げますと、「家族経営を脱して農業の近代産業化」を図る、つまり地域の伝統文化を尊重しつつ外部企業の協力を得て営農経営法人を設立して、そして「広域FTAを活用したグローバルな市場」に農産品(特に高付加価値の農業加工品)を販売することに尽きます(本書34頁図表6参照)。新法人組織には若い世代を呼び込むことができます。本書では、その「具体的な再生策」を明示しました。

 大学卒業以来、30数年間丸紅にて一貫して国際業務に携わり、世界各地を走り回りました。その後、学界に転じて、「国際取引法・経済法」や「国際経営論・貿易論」を講じ、専門書も10冊近く世に問いました。しかしながら、残念なことに、我が知見を社会還元する機会をなかなか持てませんでした。
その反省と回答が本書です。ご関心があれば、ぜひお目通し下さい。

 追伸:2013年に国家戦略特別区域法(6区域)が施行され、そのひとつである農業部門(中山間地農業)に私の故郷である兵庫県養父市が指定されました。私も、及ばずながら国際取引論・国際経営論の立場から養父市に協力しています(本書170頁以下参照)。


(きぬまき やすし・1959年入社・千葉県船橋市在住)


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