社友のお便り

2015年08月01日 社友のお便り

「箕面の森」讃歌!

白井 俊和 (1972年入社)

筆者近影

 起床して、寝室の東面の窓を開ける。緑に覆われた五月山の柔らかい山容が目に飛び込み、爽やかな風が肌を撫でる。再び臥床して空を眺める。薄水色の空に白雲が三々五々浮かび、告天子(こうてんし:「ひばり」の別名)と経読鳥(きょうよみどり:「うぐいす」の別名)の囀りが聞こえる。

 ふと、今は亡き両親のこと、祖父母のこと、自らの来し方・行く末を想い、永生と安らかな永眠を希う。

 さて、古来、この瑞穂の国の住人にとって、自然は自らを育て、そして守護し叱咤してくれる有難い存在であった。

 『鳥獣木草のたぐひ、海山など、その他、何にあれ、世の常ならず、・・・畏れ多き物を“迦微(カミ、神)”と言ふなり』(本居宣長著・古事記伝)。


山神八大龍王赤鳥居

 ところで、或る日のこと、箕面の大滝に向かう道から少し外れてみると、そこは別世界!可憐と言っても良い程の小さな鳥居が立っている。社(やしろ)は無いが、鳥居の向こう側は神域である。粛然とした感情に襲われる。古代日本人のDNAが騒ぐのか、と思う。

 近くの森の斜面に坐る。地面からの心安らぐ香りが鼻腔をくすぐる。様々な鳥の声。心地よい風が精霊の如く樹間を通り抜ける。遠くから渓流の音。暫し、夢か現(うつつ)かの小宇宙と融合する。

 『空にさえずる鳥の声、峰より落つる滝の音・・・』、“美しき天然”(1902年)、かほどに心打つ歌曲に嘗て会ったことが無い。“麗しい”というしかない詞。曲はもの悲しい、チンドン屋のあの懐かしいメロディ。


箕面大滝

 最近、市運営の短期大学で、有難くも、多岐に亘る自然科学的知見を得ることが出来た。これらの内容を記憶し、熟成を待ち、そして一旦忘却する。“守・破・離”とまではまだまだいかないが、学んだ事を意識下に沈潜させ、そして、自らの自然観の醸成を待ち、自然と渾然一体となる。私という個体が実は豊かな物質と智慧の“ゴッタ煮”だと思い至る。自然のパーツとして生かされているのだ。

 箕面の森の植物と生き物について、ひと言。「明治の森 箕面国定公園」は、明治百年記念事業の1つとして、1967年に指定されている。この一帯は丘陵性の山地で地質はおおむね古生層だが、一部には花崗岩や石英閃緑岩が露出している。そこは、およそ1,300種の植物と3,500種の昆虫、数多くの野鳥、哺乳動物、両生・爬虫類、魚類などの棲息する自然の宝庫である。

 終りに当たり、人間生活と自然との関係について。開発の為、伏流水の道が断たれ、箕面の大滝の水のいくらかはポンプにより補われていると言う。 これが我が国の現実の象徴的な現象だろうと小生は思う。≪ヒトに便利な環境整備には自然破壊が必須であるが、保護と如何に折り合うか、が永遠のテーマである≫という当たり前の言辞で本稿を締める事にしたい。


(しらい としかず・1972年入社・兵庫県川西市在住)


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