社友のお便り

2015年06月01日 社友のお便り

「なぜ今中小企業なのか」

近野 治夫 (1961年入社)

筆者近影

 今年3月、私は「なぜ今中小企業なのか」と題する本を出版しました。丸紅在勤中、海外勤務及び国内出向を通して中小企業と取引をした経験は殆どありませんでした。そんな私が、なぜ中小企業を命題にしたこのような本を上梓したのか。きっかけは定年退職後の2003年に、当時の石原東京都知事の肝いりで都が都内に所在する中小企業の経営・販路開拓支援を行うことを目的として、大手企業のOBを対象にビジネスナビゲーター(BN)を募集し、支援活動をスタートしたことでした。私を含め60名のBNが採用されましたが、その出身企業は多くの大手商社のほか、自動車、鉄鋼、電機、石油化学など、日本の大企業のほとんどがカバーされていました。

 私の場合、応募し採用されたものの、60歳を過ぎて今更という気持ちがあり、いつでも辞めれば良いと割り切ってのスタートでした。

 それでも企業経営者との交流が始まり、予想以上に友好的な関係が生まれてくると、いつの間にか辞めることは忘れていました。結果として企業支援を始めて今年で12年が過ぎ、現在も継続中です。


なぜ今中小企業なのか
「敬質大国」を目指す日本

 上述の著作については、2年前の2013年9月に準備を始め、結局、出版までに1年半掛かりましたが、出版に当たり、中小企業の立ち位置は日本経済の全体像の中でどうなのか、その全体像として如何なる国造りを目指すのか、という点についてかなり考えました。そして国造りの方向性として、私は「敬質大国」というキーワードに思い至りました。日本が誇る伝統・風習・文化は他の先進国には見られない日本特有のものであり、日本以外で、その製品に高度な品格を感じられる国は見当たりません。日本は敬質大国を目指せる唯一資格ある国です。

 敬質大国を目指すには、経済力・外交広報力・防衛力の3点でバランスが取れていることが大切であり、このうち経済力はある程度の規模も必要ですが、1位や2位になる必要はありません。問題は経済力の中身です。

 日本国内には約4百万社の企業があります。うち中小企業が99%以上を占め、従業員の数で言えば、70%が中小企業の従業員です。大企業は経済の機関車であり、中小企業は線路であり、枕木です。地味で目立たないけれども、しっかりとした土台が安全を保障することで、初めて機関車は事故なく走れるわけです。大企業と中小企業は、ドイツのようにもっとお互いをパートナーとして強く意識し、グローバルな次元においても緊密なパートナーとして存在して欲しいものです。

 全国に散在する中小企業の活力は、地方の活性化を基にして、女性の社会進出とシニア層の活用が重要な鍵です。BNによる企業支援は東京都の中小企業を皮切りに、地方数県の企業に拡がり、これまで12年間にわたり、延べ200社以上の中小企業と交流を続けてきました。大事なことは企業と目線を合わせて話し合うことに尽きるようです。そうすることで相互に信頼関係が生まれました。この間一貫して感じたことは、大企業とはいかに目線が高いものかということです。小規模企業には興味なしというのが実感です。中小企業側に数多くの問題があることは百も承知ですが、大企業と全国の中小企業との間にも、ビジネスチャンスがかなりあるということを理解すべきです。

 現場での企業との交流は出来るだけ目線を合わせて聞く姿勢を続けてきました。その中身は、人、金、販路、経営全般に亘ります。人材は時にBNの人脈を通じての斡旋もあり、資金は東京都が中小の銀行を斡旋したりもしますが、BNの最も有効な機能は販路紹介です。
 学術的なあるべき論ではなく、現場で得た飽くまで実務的な経験を基に、中小企業経営者や起業家へ提言するのが本書の趣旨です。


(こんの はるお・1961年入社・東京都町田市在住)


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