社友のお便り

2016年03月01日 社友のお便り

アジア教育友好協会(AEFA)の挑戦

谷川 洋

筆者近影

 2004年5月、芙蓉航空サービスの専務を退き、アジア教育友好協会(Asian Education and Friendship Association)を立ち上げて12年。アジアの山岳少数民族の子供達の為の「学校建設プロジェクト」と日本の小中学校とこれら海外の学校との「国際交流を推進するプロジェクト」、この2本の柱を軸に、事業を推進して来ました。フルタイム4人、パート1人の小さな組織で必死に頑張って来たのです。その結果、この11年間で211校を建設。日本の小中学校100校以上と国際交流を推進、手紙や作品交換をして来ました。日本の小中学校に出かけて授業をする、出前授業は累計490回を超えています。

 ところで、何故私が60歳でこの活動を始めたのか、自分のこの使命感は何に根差しているのか、個人的な背景も含めてお話ししたいと思います。

なぜ、世のため人のため?  


村人と握手

  1948年6月(私が五歳の時)に起きた福井地震(死者3,800人、家屋全壊44,000戸)の震源地は、私の故郷、福井県丸岡町でした。次兄と私は全壊した我が家の下敷きになりましたが、奇跡的に助かりました。二人は多感なる中学高校時代に、「神様が将来人のためになるようにと助けてくださったのだ。将来きっと、世のため人のためになる人間になろう」と誓い合いました。兄は医者になり、74歳の現在も、現役として頑張っています。一方、私は商社員。直接人のためになっていない…引け目、負い目をずっと抱いており、いつかきっと約束を果たしたいという想いがありました。    


母校(福井県坂井市平章小学校)での出前授業に臨む谷川さん

なぜ、学校建設?    

  両親が教師、長兄や姉も教師…教育に馴染みがありました。また、3人の息子が小学校時代、いじめに遭っていたこともあります。教育に関心を持ち、何か教育現場でお手伝い出来ないかと思っていました。      

なぜ、60歳で?      

 私が52歳の時、妻が乳がんになり、私は海外支配人の内示を断り、妻の看病生活に人生転換しました。4年後、妻は53歳で亡くなりました。絶望の中で、息子たちが独立したら、次兄との誓いを果たそうと決心。60歳で「世のため人のため」の人生に転換するとあらためて誓ったのです。また、妻が私に託した、「子ども達の教育への情熱と執念」=[崇高なる母心]、「母親力」を受け継いで社会に伝え、また若い母親達にも伝えて行かねばならないと思ったのです。        

・・・こうして60歳の時、自宅を事務所にしてAEFAを創立しました。・・・        


ラオスの村人手作りの学校

 現地の本当のニーズを自分の目で確かめ、支援者に対する責任を果たすため、創立以来、現場主義を徹底して来ました。私が現地に出かけた回数は61回、400以上の村を訪問視察しました。訪れた回数で言えば700回以上になるでしょう。車が泥に埋まったり、山奥で車が故障して何時間も足止めを食ったりもしました。高床式の民家の梯子を踏み外して転落し、血を流すような怪我もしました。舟から泥水の流れる川にも落ちました。蛙・蛇・山猫を食べ、村人の勧めるお酒を断れず、全て飲んで意識を失ったこともあります。…資金集めでの苦労も色々あります=着工後に寄付がキャンセルされて苦境に陥ったことも…。        
 色んな苦労もしましたが、今となっては全て楽しい経験、歓びの日々の連続です。        

 さて、アジアの山岳・僻地地域には、私が全く知らなかった世界がありました。100-150年前にタイムスリップしたような気がしました。私が子供の頃の世界がありました。山奥の少数民族の村は隔離された、まるで「桃源郷」です。ゆったりとした時間が流れています。そこには「平和と隣人愛」がありますが、一方では際立った「貧困と無知」があります。でも、子供達には「元気な笑顔」と「瞳の輝き」があります。瞳から放射される「生命の輝き」には圧倒されます。彼らの命の輝きを支援したい。この素晴らしい生命力を日本の子供達に届けたい。AEFAは「輝く瞳の宅急便」になろうと思ったのです。

・・・現場を視察しながら、一体どのようにしたら、心の通った継続的な事業になるのか、と悩んだ末、辿り着いたのが、今も事業の基本コンセプトとしている、「住民参加型の学校建設」と「日本の学校との国際交流」です。・・・

(1)建設事業の特徴:住民参加  


ベトナム奥地で勉学に励む子どもたち

 普通のNGOや政府援助の場合は、校舎建設だけで「はい、終わり」です。それでは「仏作って魂入れず」、貧しい村の学校はやがて寂れてしまいます。そういう例が幾つもあるのです。その為に、AEFAは住民参加による建設と村の自立支援を図っています。村人と対話しながら、知恵を出し合い、村人のやる気・情熱=Passionを確認し、労働参加・資材提供=Actionを約束させた上で、日本のドナーの寄付=Donationを引き出します。こうして、学校を建設する=生む、そして建設後は育て、見守るのです。学校運営のソフト支援=教科書支援・教師の補充・奨学金なども継続的に実施します。    
 成果の一例として、2005年にラオスの山奥に建設した1校目の学校=パチュドン小学校のケースでは、中学校・幼稚園・生徒の寮・先生の家を建設。地域のメイン・スクールになりました。11年間建設を続け、現在は高校を建設中です。卒業生を教師養成短大に進学させ、3年前に山奥の自分の村の先生として3人を赴任させました。その後も継続して、これまでに16人が教師となりました。    

(2)交流事業の成果:日本の子供達の瞳が輝く


立ったまま授業を受けるラオス奥地の子供たち

交流事業を通じて、気が付いたことがあります。それは、日本の子供達にとって、欧米の学校との交流では学べないことを多く学べるということです。山奥の子供達との交流で、日本の子供達の目が開かれます。生きる力の原点に気付いて貰う、「気づき学習」のお手伝いをしていると考えています。自分達が如何に恵まれているのか、物質的豊かさの中で何を失い、何を忘れつつあるのか、如何に甘え過ぎているのかに気付きます。そして、「生命の原点」に気付いた子供達の目が輝くのです。一方通行的な海外支援ではなく、海外支援に双方向性を持たせたところに意味があります。日本の教師達にも学ぶことが多かったようで、熱血先生誕生のきっかけにもなっています。

・・・こうして11年間、あれこれ試行錯誤しながら、AEFAの活動を続けて来ました。交流活動を通じて気付いたのが日本の学校教育の弱点でした。・・・

先生も親も率先垂範する気概を失っています。大人の本気を見せる人間力を失っているのです。教育とは学校に任せ切るものではありません。それでは、無責任です。学校は、いつの時代でも「社会の中心」、「社会を発展させる原動力」であるべきです。 現在の日本では、様々な社会問題が生じていますが、その主たる要因は、
(1)日本の学校教育が、志を持つことの大切さを十分伝えられなくなっていること
(2)日本の社会が、夢を提供できなくなったこと
ではないかと考えています。
そういった弱点を生んだひとつの要因は企業にあり、もうひとつは我々熟年世代にあります。社会をリードすべき企業の多くが、教育に対して無関心です。教育を学校に任せ切りで、自分達はただの批判者になっているのが実情です。自分もその一員であったと反省しています。そして今、そうした企業社会に反省を促すとともに、企業にも教育の再生に参加して欲しいと切に願っています。もうひとつ問題なのは、我々熟年世代に蔓延する、教育に対する無関心と無責任です。


完成した学校の前で、竹トンボに興ずる子供たち

教育を支える3つの力=教師力・家庭力・地域力に加え、4つ目として企業力を追加します。AEFAは教育を支える、これら4つの力を強化するお手伝いをしたいと思っています。特に、熱血先生の育成と支援、そして母親力の強化。さらには、教育の再生に向けた、熟年世代の参加に力を入れていきたいと考えています。企業OB、教師OB、そして家庭内では祖父母、地域における熟年世代は、いずれも大きな潜在力を持っています。教育を支える4つの力それぞれにとって、熟年世代の力が必要です。ところが、一方で、金も時間も体力もありながら、生き甲斐を見失っている熟年世代の仲間が大勢います。

そんな皆さんに、私は次のように呼びかけたいのです。
自分が楽しむだけの気ままな生活ではなく、世のため人のために、もう1回、必死になって働いてみませんか?教育の再生に力を注いでみませんか?と。


日本で出前授業に取り組む谷川さん

私達熟年世代の多くは、ある意味で実に幸福な人生を送ることが出来ました。それは決して自分達の力だけによるものではありません。世代を超えた人々や世の中のお陰なのです。これからは、そんな世の中に対して、生き甲斐に溢れた恩返し人生を送ってみてはどうでしょうか。そして心温かい社会を次の世代に残すことが出来たとしたら、こんな素晴らしいことはありません。アジアの子供達が新しい学校で目を輝かせて学ぶ姿を見て、AEFAの支援者、協力者もまた、感動の嬉し涙を流します。AEFAは、「嬉し涙の製造所」なのです。皆さんも、私達と一緒に嬉し涙を流してみませんか?

AEFAとして、4年後のオリンピックの年、2020年までにどうしても成し遂げたい数値目標があります。それは、
(1)300校(現在は、221校)の学校建設
(2)50人(現在は、16人)の村出身教師誕生
(3)出前授業1,000回(現在は、492回)の実施
(4)AEFA会員1,000人(現在は、211人)の達成
(5)熟年中心の「AEFAフェロー」組織の結成とプロジェクト立ち上げ   です。

私は生涯現役として、AEFAで頑張ります。
・・・皆様、是非お力をお貸し下さい。何卒よろしくお願い致します。・・・

AEFAの連絡先:
TEL:03-6265-6490  
E-MAIL:aefa@nippon-aefa.org  
URL: http://www.nippon-aefa.org


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