行事報告

2024年07月04日 行事報告

2024年6月度関東地区社友会月例会

 2024年6月10日(月)に開催されました6月度月例会では講師に株式会社矢野経済研究所フェローの三石 茂樹 氏をお招きし、「データで考える日本のゴルフ」をテーマに講演いただきました。


日 時 2024年6月10日(月)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  三石 茂樹 氏(株式会社矢野経済研究所フェロー)
演 題 データで考える日本のゴルフ

本日は産業としてのゴルフについてお話ししたいと思います。過去30年ほどの調査で、産業構造が大きく変わったことを感じています。1968年生まれ、現在55歳の私は、1991年に大学を卒業し、ダイワ精工に入社しました。この会社は釣り用品を中心に扱っており、私も釣りが好きで入社しましたが、希望していなかったゴルフ用品の営業に配属されてしまい、四国松山の営業所でゴルフ用品の販売に従事しました。ゴルフに関する知識が全くない状態で営業を始め、四国で3年間の営業経験を積んだ後、本社で新製品の販売企画や中期経営計画の策定に携わりました。2001年に矢野経済研究所に入社してから、ゴルフ業界の多様な関係者との交流を通じてゴルフが好きになり、産業としての可能性を感じるようになりました。プライベートでもゴルフを楽しんでいますが、残念ながら今年はラウンド数が3回と不足しています。


<スポーツ用品市場におけるゴルフ用品市場>


2019年から2024年までの国内スポーツ用品市場は、コロナの影響で2020年に大きなマイナスを経験しました。翌2021年には回復しましたが2023年以降は成長が鈍化すると予想されています。ゴルフ用品市場はスポーツ用品市場の中で重要な位置を占めています。日本のスポーツ用品市場は約1.6兆円です。カテゴリー別ではスポーツシューズ市場が21%と最も大きく、次いでゴルフ用品が約19%を占めています。2019年と比較して日本のゴルフ産業は成長しており、特にコロナ禍を経て伸びしろが大きくなっています。2023年のゴルフ用品市場は、コロナ前の2019年と比較すると、約17%伸びて3,096億円に達し、調査対象の競技カテゴリー中で最も成長率が高くなっています。これは、コロナ禍でゴルフブームが起きた効果が数字に表れていると考えられます。

矢野経済研究所は、日本のスポーツ産業に加え、世界のゴルフ用品市場も調査しており、アメリカの調査会社と提携しています。世界のゴルフ用品市場は約1兆4,000億円で、北南米が約半分を占め、次いでアジアが大きなシェアを持っています。発祥の地であるヨーロッパは市場としては小さいです。アメリカ市場は全体の約半分を占め、テーラーメイドやキャロウェイなどのアメリカメーカーのシェアが高いことが特徴です。アメリカが最大の市場であることは、国土の広さやゴルフ場の多さからも理解できます。市場規模で世界第2位の日本のゴルフ産業は、約20%のシェアを持ち、ゴルフ場の数は約2,200で、多数のゴルフクラブメーカー、ゴルフ用品メーカーを有します。3番目に大きい市場は韓国です。人口と国土面積が日本の約半分ですが、ゴルフへの熱量は日本と同じぐらい高く、最近は円安により、特に九州地区に多くの韓国人ゴルファーが訪れています。九州のゴルフ場には韓国資本の参加もあり、福岡市の大型ゴルフ用品店では、日本オリジナルの高価なドライバーが売れている状況です。

日本のゴルフ用品の市場規模は約3,000億円で、これにゴルフ場と練習用市場を加えると約1兆300億円の市場となります。特にゴルフ練習場の市場は、コロナ禍で閉鎖する施設が増えた一方で、シミュレーションゴルフのインドア施設が増加しています。また、日本のゴルフ用品市場はバブル期に急激な成長を遂げ、その後は基本的に縮小傾向にありますが、2003年から2005年にかけて石川遼プロや宮里藍プロなどの若手プロの台頭により一時的に活性化しました。その後はまた縮小傾向となりましたが2020年以降のコロナバブルにより再び追い風が吹いています。
なお、ゴルフ用品市場ではゴルフクラブが約40%、ゴルフウェアが約40%を占め、合わせて約80%の構成比を示し、また円安の影響でゴルフクラブの単価は平均して約20%上昇しています。

次にゴルフクラブのブランドシェアについてお話しします。1991年当時、ウッドクラブ市場では国内メーカーが市場の主流を占め、ミズノが絶対的な王者でした。外国メーカーでは、キャロウェイが住友ゴムを国内代理店としていた時代で、日本に支社があったのはテーラーメイドだけでした。その後、デカチタンと呼ばれる大型ヘッドのクラブが流行し2006年までは高反発クラブが人気でした。これらは主に国内メーカーに有利な市場でしたが、2008年に高反発クラブが全世界的に規制され、海外メーカーのシェアが上昇しました。現在、ピン、キャロウェイ、テーラーメイドの三社で市場の約60%を占め、国内メーカーの中ではブリヂストンなどが奮闘していますが、全体としては外国製品のシェアが増えています。

<日本のゴルフ人口>


日本のゴルフ人口はおおよそ600万人から900万人で、総人口に占める参加率は6%から8%程度とされています。コロナ以降新規ゴルファーが増加し、2020年7月から2023年7月までの調査によると、約94万人の新規ゴルファーが増えたことが分かりました。これは、ゴルフ人口を900万人とした場合約10%の増加となり、特に若い人や女性の増加が目立っています。このような短期間での大幅な増加は過去に例がなく、コロナによるゴルフ人口の底上げが顕著であることが示されました。コロナ以降の新規ゴルファーのうち、女性が約40%を占め、特に若年層の女性ゴルファーの参入が増加し、ゴルフ人口の男女構成比は80対20から75対25となりました。この変化はゴルフ産業にとって大きな意味を持ち、女性の新規参入層の促進がこれまで以上に重要視されています。しかし新規ゴルファーの増加はまだまだ満足するレベルではありません。調査によればゴルフには約2,000万人の潜在需要があります。そのうち約30%がゴルフを始めたいと考えているそうです。この30%の顕在化がゴルフ産業の大きな課題です。

<ゴルフ産業の可能性と新しいビジネスモデルの創出>

次にゴルフ産業の活性化と新しいビジネスモデル創出の可能性について述べます。健康寿命の延伸や認知症予防などの健康面でのメリット、三世代で楽しめるファミリースポーツとしての価値、企業による従業員の健康向上への取り組み、教育の場としての利用拡大など、さまざまなキーワードを挙げることができます。これらがゴルフ産業のさらなる成長を促すと考えられます。企業研修にゴルフを取り入れる動きもあり、ゴルフを経験することによりゴルフへの関心を高め新たなゴルファーの増加につながることが期待されます。また、ワーケーションや地域創生にもゴルフが活用される可能性があります。矢野経済研究所は、持続的なゴルフ産業発展のために、潜在需要層である約2,000万人のゴルフ未経験者に焦点を当て、ゴルフを始めやすく続けやすい環境を作ることで、ゴルファーを増やす施策を行っています。

コロナにより若いゴルファーや女性ゴルファーが増加しましたが、既存のゴルファーとの間で世代対立が生じています。新規層はゴルフ場や練習場でのエチケットやマナーに不慣れで、これが既存層からのクレームや若者のプレッシャー感に繋がっています。また、女性が一人で練習に行くと、頼んでいないのに教えてくれる「教え好きおじさん問題」も発生しています。2,000万人の潜在需要を活かすためにも、新旧のゴルファー間の調和とマナー教育の強化が必要だと考えられます。ゴルフ場での世代間の格差を是正するため、メンター制度の導入を提案します。この制度では、ゴルフ場がメンターを任命し、若者にエチケットやマナーを教えることで、知識の不足による問題行動を解決します。また、メンバーと若いゴルファーが一緒に食事をする機会を設けることで、世代間の交流を促し、ゴルフ場の雰囲気を良くすることができると考えています。こうした取り組みにより、若者が良いゴルファーになるための支援を行い、ゴルフをより楽しいスポーツにする可能性があります。


次にゴルフ産業の拡大可能性について、ゴルフ場をゴルフ以外の活動にも活用することで地域創生に貢献する事例を紹介します。ゴルフ場でキャンプや星空体験会、ワーケーションを行い、ノンゴルファーを含めた多様な人々を招く試みがあります。これにより、ゴルフ場の魅力を再発見し、ゴルフを始めるモチベーションを高めることができます。これらの活動は、ゴルフ資産を活用した地域創生の一環として、年間10回ほど定期的に行われています。このような取り組みは、ゴルフ場の新たな価値を創出し、ゴルフ産業のさらなる発展に寄与する可能性があります。
例えば長崎県五島市では、地域のゴルフ資産を活用した戦略を立案し実行しています。五島市には五島カントリークラブがあり、これを観光資産として活用する取り組みが進められています。モニターツアーやさまざまなイベントを通じて業界内での認知を高め、将来的にはゴルフ場が独自にゴルファーを誘致できるようにすることが目標です。しかし、インバウンド需要の増加に伴う地元住民との軋轢やオーバーツーリズムの問題も顕在化しています。この問題解決のため、地元ゴルファーとの軋轢を避けながら、地元住民の満足度を向上させる施策が必要です。五島市はゴルフ場を地域活性化のツールとして活用することで、真の地域創生を目指しています。

ここまで1時間のプレゼンテーションでゴルフ産業や地域創生に関する活動についてお話ししました。SNSのnoteにて、ゴルフを盛んにするための施策や活動に関する情報を不定期に掲載していますので、興味があればフォローしていただきご意見をお聞かせいただけると幸いです。新規ゴルファーと既存ゴルファーの違いや、その他提案についての意見があれば、ぜひお聞かせください。ご清聴ありがとうございました。

<質疑応答>

<質問1>
五島市では韓国に近いこともあり。インバウンドツーリストを視野に入れた活動をされているのでしょうか。

<回答1>
五島市は韓国に近いですし韓国からの人も多いですが、特別なプロモーションや取り組みはまだされていません。まずは国内での認知度を上げ国内の人に来てもらうことを目指しています。ただインバウンドの可能性は十分あるので中長期的な視点で慎重に進めていく必要があるでしょう。インバウンドについては良い面と悪い面があるというのが私の実感です。特に離島の場合はそのあたりに気を使わないと地元住民から反発を受けてしまうかもしれないので配慮が必要です。




<質問2>
国内のゴルフ用品市場に占めるクラブやウェアの女性比率はどれくらいでしょうか。


<回答2>
先ほど日本のゴルフ人口の男女比は75対25と申し上げましたが、ゴルフクラブの市場における女性比率は10%です。アパレルになるともう少し高く20%程度になります。ゴルフクラブについて言うとゴルフはしているがクラブについてはそれ程関心がなく、よくわからないという女性ゴルファーが多いのではないかと思います。

<質問3>
先般家内とラウンドした際、家内がレンタルクラブを利用しました。4,000円でピンの最新モデルでした。飛距離が20-30ヤード伸びて良く当たり軽いということでその後すぐ購入しました。レンタルクラブについて業界としても考えてはどうかと思うのですがどうお考えですか。

<回答3>
女性市場について言えば、女性の構成比が低いためプロモーションが十分行えずレディースクラブの準備も十分できていない状況が続いていますが、おそらく需要の伸びしろは大きいと思われます。
レンタルクラブが需要拡大の有効な策の一つであることは間違いないのですが、小売店がそんなのを充実させると自分たちのクラブが売れなくなるだろうと圧力をかけてしまうという懸念があります。販売機会の損失ではなくむしろ需要創出につながるんだというロジックにどうつなげていくかが課題です。

<質問4>
ティーグランドのことを日本のテレビアナウンサーがティーインググラウンドというのですが呼び方が変わったのですか。

<回答4>
昔はティーグラウンドと呼ばれていましたが、最近はティーイングエリアと呼び名が変わっています。
理由はよく覚えていませんが、最近はその呼び名が一般的になっているようです。

<質問5>
日本の女子プロと男子プロの世界におけるレベル差についてご意見をお願いします。

<回答5>
正直、国内のトーナメントにおける男女の人気差ほど、世界での実力差はないのではないかと思います。男子プロでも世界で通用する若い選手がたくさん出てきています。しかしなぜ男子はそれほど人気がないのか、さまざまな意見がありますが私は男子プロは必要以上に虐げられているような気がします。
もっと応援していただきたいし、もっと価値向上に向けてできることは多いと思います。ただし、男子プロ自身がマインドチェンジしたり、変えていかなければならない部分もあります。それを誰が誰にどのように教えるかがまだ見えてきていないのが実情かもしれません。

<質問6>
現在ゴルフ場は大変混雑しており、若い女性の利用者が非常に増え予約が取りにくくなっています。コロナ禍以降のこの状況は今後も続くのでしょうか。

<回答6>
調査によるとゴルフ産業におけるコロナバブルは2022年がピークだったようです。ゴルフ練習場の数字ですが入場者数は2023年の後半から前年同期比でマイナスになり始めました。しかしコロナ禍でゴルフを始めた人の一部は離脱したものの、多くの人は引き続きゴルフを楽しんでいます。懸念要素もありますがブームはまだ当分は続くと考えた方が良いと思います。


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