行事報告

2023年07月21日 行事報告

2023年7月度関東地区社友会月例会

 2023年7月の月例会は7月10日に従来同様本社での来社方式とオンラインによるハイブリッド方式で開催されました。講師は日本経済新聞社政策報道ユニット長の吉野直也氏で政治記者として細川首相から岸田首相まで15人の首相を取材、財務省、経済産業省などの経済官庁も担当されました。またワシントンに駐在し、2012年と2016年の大統領選挙を現地で報道されています。TBSの「サンデーモーニング」やBSテレ東「日経プラス9」などのテレビ番組にも多数出演されています。


日 時 2023年7月10日(月)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  吉野 直也 氏(日本経済新聞社政策報道ユニット長)
演 題 「岸田首相は何をやりたいのか」

私は現在日本経済新聞で政治と経済の両方を見る責任者をしておりますが、本日はどちらかと言うと新聞に書いてあることではなく、私が見たり聞いたり感じたりしたことを中心にお話ししたいと思います。
政治記者が最初に担当するのは総理番です。よくテレビで総理を記者が取り囲んでいる場面がありますが、あれは駆け出しの記者たちです。彼らは総理の動静を追っています。いつどこで誰と会ったか、そこから総理の考えていることや政界の動きのヒントを読み取ろうとします。駆け出しの記者にはなかなか難しいのですが、今でも私は総理の動静に注目しています。
私は米国のワシントンに駐在していたこともあり、日本の政局のみならず国際政治や安全保障に関しても記事を書き、またテレビや最近開設したポッドキャストでも発信をしています。インターネットで私の名前にラジオと書けば検索できます。ニュースの解説や今後の動き、記者としてのインテリジェンス等を発信していますのでご覧いただければと思います。

ロシア問題


最初に今注目されているプリゴジン氏の反乱についてお話ししたいと思います。私が注目しているのは、モスクワから200キロの地点まで進軍を許してしまったということです。このこととロシアの副司令官スロビキン氏の消息が内外のメディアで全く報道されていないことが何を意味するのか。彼は軍の内部で非常に求心力のある人物で、日本の自衛隊がロシア軍との接触を図る際に真っ先に的を定めていた人物と言われています。またロシアのウクライナ侵攻が膠着状態に陥りプーチン氏がスロビキン氏を投入すると西側諸国が身構えたとも言われています。プリゴジン氏は一旦ベラルーシに入りその後ロシアに戻ったと言われていますが、いずれにせよこの問題はまだ全く終わっていないと見るべきです。プーチン氏は裏切り者は許さないと言ってきたわけですが、軍は今後の動きをじっと見ていると思います。プーチン氏は軍にヒーローを作らないように用心深く努めてきたように思います。プーチン氏のレジームが終わる時は軍の支持を失う時でしょう。そしてその軍のオペレーションがどうも上手く行っていないようなのです。その証例の一つとしてアメリカはGeneral(将軍)の戦死者が多すぎるという点を指摘しています。インドや中国のような軍事面での同盟国ですら同様の懸念を抱いているようです。

岸田政権について

2021年10月に岸田政権が発足します。当時を思い返すと菅さんや河野さんがまだ総裁選に出ると言っていない時に岸田さんは出馬を表明しました。あとで本人から話を聞いたのですが、出馬することにブレが無かったのは、一つは周囲に思いとどまらせるような人がいなかったこと、もう一つはここで出なければ自分にはもう後がないと思ったからだそうです。
内閣支持率は発足当時が59%でこれは歴代内閣と比べ決して高い数字ではありません。そのあと通常通り支持率は徐々に下がって行きますが、その後再び上昇した点が少し変わっています。ところでこの支持率には「青木の法則」と呼ばれる先般亡くなられた自民党の青木参院会長の名前にちなんだ法則があり、永田町では結構有名です。内閣支持率と自民党支持率の合計が50%を割り込んだ場合、2000年以降の内閣は全て二か月以内に何らかの理由で退陣しています。日経新聞の調査数字で見ると現時点で内閣支持率は39%、自民党支持率は34%ですので合計は73%となります。50未満で退陣、60未満で警報、70未満で注意報と言われているのですが、その点では決して悪い数字ではありません。また内閣支持率と政党支持率のどちらが高いかも注目すべき点です。内閣支持率よりも政党支持率が高い場合はその内閣に魅力がないということになります。現在は内閣支持率が政党支持率を5ポイント上回っており、これを日経新聞では内閣プレミアムと呼んでいますが、選挙にはプラス要因と考えられています。
次に内閣支持率の季節要因について触れたいと思います。通常支持率は国会が始まる1月から3月にかけて徐々に下がります。これはNHKの国会中継とそれに基づく各紙の報道で、野党の追及がクローズアップされるからだと思われます。その後予算が通って4月に一旦上昇しますが、その後再び下降を始めます。国会終盤での重要法案審議で野党の追及が激化するからです。そして国会中継がなくなる秋以降は大きな政治ニュースはめっきり減って支持率は安定化します。解散が秋に多いのは支持率が安定している時期だからと思います。今回なぜ岸田総理が一度は解散を考えたのか、それはウクライナ訪問、日韓首脳会談、広島サミットの開催とゼレンスキー大統領の訪日、株価の高騰などにより支持率が上がると考えたからです。前回の衆議院選挙は2021年10月ですのでまだ任期の半分も過ぎていません。実は自民党結党以来2年未満で解散したことは3回しかありませんが、総理は驚いたことにこのことを詳細に知っていました。調べていないとわからないことです。解散を考えていたからだと思います。多くのメディアは解散に傾いた報道を行っていました。しかし日経新聞は多くの取材から別の見方をしていました。憶測の域を出ませんが党が何らかの情勢調査を行い、その結果が絶対安定多数の現状を失うというものだったのではないかと推測します。解散しなかったのではなく勝てないからできなかったという方が当たっているのかもしれません。何れにせよ総理は解散を見送りました。
この秋にもう一度解散風が吹くと見られていますが、支持率、株価、自民党内の動き、野党の動向などから判断されることになると思われます。




岸田総理という人


総理になった後「日本で一番権限の大きい人なので首相を目指した」と述べています。また首相になったらやりたいことを問われ「人事です」と答えています。非常に正直に答えていらっしゃると思いますが、内閣総理大臣になってやりたいことが人事なのかと冷ややかに受け取られていることも事実です。しかし邪悪な政治家ではないと思います。世界には邪悪な指導者はたくさんいます。彼はポストが上がってきても変わらない人柄を持っています。また多くの政治家にありがちな、私怨やコンプレックスが原動力になっていません。また言葉が響かないとか、本当にやりたいことがわからないとも言われます。しかし言葉を換えれば本当にやりたいことがない人は何でもできるとも言えます。防衛力強化、敵基地攻撃、原子力政策等ほかの人ではなかなかできなかったことをやっています。


長期政権の特徴として、国民生活にすぐには直結しないようなことで騒ぎ注目を集めるということがあります。郵政民営化とか憲法改正などがその例です。その意味で岸田総理の「新しい資本主義」はどうでしょうか。たしかに世界の潮流として現代の資本主義で大きな格差が生まれ、ではその次にどうするかという議論があります。しかしそもそも日本には本来の意味での資本主義と言えるものがあったのかという点を指摘したいとおもいます。日本ではなんで憲法を変える側が保守で守る側がリベラルなのか、また自民党の経済政策はアメリカの保守である共和党の経済政策とは異なります。自民党は共和党のような小さな政府を志向してはいません。自民党は保守を標ぼうしていますが、内実はかなりリベラルなのです。そのため、過去に自民党政権が揺らいだ時期の対立勢力は実はリベラルではなく保守でした。例えば民主党政権における鳩山由紀夫氏、小沢一郎氏、岡田克也氏は皆もともと自民党にいた保守です。今の岸田政権は自民党内ではリベラルです。これに野党が対抗するとすれば保守としての対抗軸を打ち出していくことが有効なのではないでしょうか。

最後に日経新聞の宣伝を少々させていただきます。ご存じのように日経は従来の紙媒体に加え電子版を発行しています。電子版ではニュースをさらに深堀した記事やそれに対する有識者のコメントなど双方向の内容も充実しています。さらに冒頭でご紹介したポッドキャストもスタートし、報道されないニュースの裏話なども発信していますので是非ご視聴いただければと思います。

質疑応答

Q1.岸田さんには日本をどうしたいというビジョンがあるのでしょうか

A1.政治家の本能的なストラテジーとして、まず権力を握らなければ何もできないということがあると思います。その意味で総理大臣になったことで最大の目標は達成されたと感じているかもしれません。政治家は歴史の証言台に立っていると、かつて中曽根総理が言っていましたが、歴史は岸田総理がどんなビジョンを語ったかではなく、何をやったかで評価するのではないでしょうか。そして経済政策も安全保障政策も平時の政策よりも有事の際の政策作りにウエイトを置くのではないかと思います。

Q2.安倍派清和会の今後の動向について

A2. カリスマがいたオーナー企業に例えられるかもしれません。安倍さんには後継者を本気で育てようという気持ちがあったと思います。あと3~4年あったら、安倍さんがもう一度チャンスをうかがうか、もしくは萩生田さんが頭角をあらわしていたかもしれないと感じています。現在は総裁選がない状況ですので5人云々と言われていますが、いわば時間稼ぎの状態です。清和会には昔から安倍系、福田系というのがあるのですが今はこの5人がそれぞれ何人のかたまりを持っているか、我々はそこに注目しています。

(関東地区幹事:中田徹)


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