行事報告

2023年05月22日 行事報告

2023年4月度関東地区社友会月例会

 2023年4月度の月例会は、4月26日に本社大ホールで従来通り来社方式とZoom配信のハイブリッドで開催されました。今回は丸紅の執行役員経済研究所長の今村卓氏に講師をお願いし、「混迷の世界の政治経済情勢、今とその先を読む」についてご講演頂きました。


日 時 2023年4月26日(水)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  今村 卓 氏(丸紅株式会社執行役員、経済研究所長)
演 題 「混迷の世界の政治経済情勢、今とその先を読む」

本日は「混迷の世界の政治経済情勢、今とその先を読む」についてお話させていただきます。
先週久々にワシントンを訪問しました。ロシアのウクライナ侵攻がまだ続いているわけですが、話題の8割は米中対立でした。来月は広島でG7が開かれます。ここでは米中対立に加えウクライナ問題、それに「グローバルサウス」への対応などが議論されると思います。

国際情勢

米中対立
現在の国際情勢で最大の注目点は米中対立の行方です。幸いなことに日米関係は全く心配する必要がない状況です。最近、米国の要人の訪日が相次いでいます。先般、もしかすると共和党の大統領候補になるかもしれないフロリダ州知事のデサンティス氏が来日しました。
一方、次期大統領選への出馬表明を行ったバイデン大統領もG7で来日します。日米関係が良好なのは裏を返すと米中対立があるからです。その一つに半導体問題があります。中国に技術を渡すなというところまで来ています。政治体制面でもG7を中心とする民主主義国と中国、ロシア等の権威主義国の対立があります。民主主義はけっこう面倒なシステムであり、アメリカでもさまざまな混乱が起きています。中国から見るとこんな面倒で非効率な制度はないということになります。こうした中、日本の国家安全保障戦略は従来と比べるとかなり中国に対しタカ派的なものになっています。一方で複雑なのは、その中国とアメリカ、中国と日本が経済面では密接なつながりがあるということです。かつての米ソ対立時はソ連と西側諸国は経済的にかなり切り離されていました。しかし今は違います。米中対立があっても中国は大切なお客さんなのです。


当日の様子

次にウクライナ問題
昨年のロシアのウクライナ侵攻の際、幸いなことに丸紅の駐在員は外務省の退避勧告を受けて事前に退避していました。しかし侵攻直前まで駐在員からは「早くウクライナに戻せ」という声がありました。当時はどう考えてもロシアに得になるとは思えないので、アメリカがいくつかの警鐘を発してはいたものの、実際に大規模な侵攻が始まるとは多くの人は考えていませんでした。今考えるとこれは経済偏重の見方でした。
プーチン大統領にとっては経済は二の次でもっと大事なものがあったということです。
それはその正否は別にして、ウクライナはもともとロシアと一体であったという彼の歴史観です。ウクライナのみならず、もともと一体であったロシアの多くの周辺国が西側の勢力になりつつあるという追い込まれた末の一手であったと言えます。ウクライナにはナショナルスタッフは残っています。毎日安否確認をしており、現在のところ全員無事です。
一方、ロシアには駐在員が残っていますが、ビジネスを続けることが非常に難しくなっています。アメリカで、ロシアとのビジネスに執着している企業をリストアップした勝手格付けが行われています。当社は当初F評価でしたが、サハリン1を除いてほとんどの事業から撤退した結果現在はC評価となっています。
ウクライナは西側からの経済的、軍事的な支援を受けロシア軍を押し返しており、ロシア側の被害はかなり大きいと見られます。しかしロシアは戦闘員の数では世界一と言われるほどの軍事大国であり、西側の支援のほころびを待っていると言われています。
ドイツを始めとする西側のヨーロッパ諸国はパイプラインでロシアの天然ガスの供給を受けていました。これが現在ほぼ止まっています。ヨーロッパの新たな供給体制の構築と暖冬に恵まれる前までは天然ガスの価格が一時高騰していました。
またロシアとウクライナは穀物や肥料の大産地であり、紛争による輸出の減少と価格の高騰が、主に低所得国に大きな影響を与えています。


当日の様子

続いて「グローバルサウス」です。
米中が対立し、ロシアがウクライナに侵攻する中で、中国とロシアが接近しています。しかし冷戦の時代とは異なり、両国の関係は中国が優位であり、ロシアは中国のジュニアパートナーと見られています。そして西側と中露の対立にはあまり深く関わりたくない、いわば中間的な立場の国々が増えています。これが「グローバルサウス」です。サウスといっても南半球に多いということで、南半球の国という意味ではありません。アメリカを始めとするG7の国々と中露がこれらの国の取り込みを図っています。「グローバルサウス」の中ではインドがその盟主になろうとしています。これらの国々は両陣営から自国の国益を取りこむべく戦略的に動いています。

中東の力の空白
こうした中、中東がぽっかり空いているという状況が出ています。この背景にはシェールオイルの開発等により、アメリカのエネルギー中東依存が低下していることがあります。
サウジ、イラン、更にはイスラエルの関係が複雑に絡み合う中で、かつてはアメリカが基地を置くなどしてある意味リーダーシップを発揮していましたが、中国への対応やアジアの国々との関係強化の必要性、またアメリカ自体が若干疲弊してきていることから中東にそれほど関われなくなって来ています。象徴的なのが、アフガニスタンから半ば追い出される形で撤退したことです。また先般アメリカができなかったサウジとイランの仲介を中国が行ったこともその一例です。

米欧の協調体制
一方アメリカ自身にも懸念材料があります。先般EV(電気自動車)の普及を促進するための減税措置が発表されましたが、対象はアメリカ車のみで日本車やヨーロッパ車は対象から外されました。こうしたことをやっていて西側の協調体制は大丈夫かという懸念が出ています。


世界の経済見通し


世界経済は2020年にコロナ禍で大きく収縮した後、21年22年に回復に転じました。23年も回復は続くものの成長率は2.8%と世界経済にとっては停滞に近い低い予想となっています。特に先進国での下方修正が目立っています。しかし基調としては混乱は続くもののコロナ後の中国やアジアの国々を中心に世界経済は緩やかに回復するものと思われます。
一方、分断が起きたことにより物の価格が上昇しやすくなっています。この恩恵を受けたのが当社を始めとする総合商社で、各社の好業績の一因となっています。
ただリーマンショックほどではないにしろ、世界的な金融不安が若干懸念されておりこの点には注意が必要です。
ところで90年代以降入社の現役社員はインフレをほとんど経験していません。コロナ禍でサプライチェーンがズタズタになり、物の値段が上がり、日銀が安定目標とする2%にはなかなか戻らない可能性があります。しかし新体制になりましたが、日銀が金融引き締めに転換するのはまだまだ先のことと思われます。

今後5年間の世界の経済成長率は3%程度と低い予想となっています。背景にはパンデミックの傷跡、構造改革のペース鈍化、分断化の脅威の高まりなどがあります。対外投資についても抑制傾向が見られます。かつては米国、日本を始めとする各国が、安い労働力を目当てに中国に投資することは当たり前と思われていましたが、こんなに体制が違い、かつ米国が半導体規制を厳しくやる国に投資しますかということです。特に新しい分野ではこの傾向が顕著です。かといって完全に国産化することは困難です。同盟国、あるいは少なくとも信頼できる国、例えばベトナムとかインドとかに切り替えていくことが予想されます。
ただ、こうした国では必ずしも生産効率が高くないという問題点もあります。



経済安全保障

最近の新しい動きの一つに大きな政府への転換があります。例えば米国ではレーガン政権以降、経済活動は民間に任せるという小さな政府が主流でしたが、それでは解決できない問題があるという認識です。防衛や安全保障において中国が軍事力の拡大と技術革新を続けていますが、周辺国との軍事力の差が圧倒的になると色々と野心が湧いてきがちです。しかし周辺国との軍事バランスにおいて、侵攻の損失が明らかに大きい場合は諦める、これが抑止力です。現代は世界的に抑止力の競争になっていると言えます。ロシアと対峙するヨーロッパ同様、日本でも防衛費のGDP2%を容認する動きが出ています。
もう一つは気候変動対策です。温暖化ガス削減を再生可能エネルギーのみに頼っていてはとても間に合わない状況です。根本的な対策を進めるためには投資が必要になります。日本の場合、2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには官民で今後10年間で150兆円の投資が必要との試算が出ています。民間だけではとても賄いきれない金額ですので政府の財政措置が不可欠です。米国も同様ですし、気候変動対策において世界の最先端を行くヨーロッパでもそのための投資が色々と検討されています。

こうしたあらゆる投資を支える材料が半導体です。半導体生産は一つの企業がワンセットでまかなえるものではありません。細分化された生産の下で競い合っている産業です。日本は一旦脱落したのですが、政府の支援により再構築の動きが出ています。米国やヨーロッパも同様で、そのために財政が膨らんでいく傾向があります。
かつて米国は中国をソ連側につかせないために中国を支える政策をとり、中国はその政策の下で経済発展を遂げてきました。ここには誤解がありました。豊かになれば共産主義は民主主義に置き換わると米国は考えていましたが、中国は豊かさで共産主義を堅持しようと考えていました。2010年代に米国はこれに気づき始めます。いつになっても中国に民主化の動きは見られず、香港では逆のことをやり、台湾への野心も見せ、民主主義を馬鹿にするような言動も目立ち始めたと。そして現在米国は中国をかつてのソ連のような敵とまでは言わないまでも新しい競争相手と見ています。思い付き政策が多かったトランプ政権とは異なりバイデン政権は優秀なスタッフによるボトムアップの対中政策がとられています。中国から見れば怖さは、はるかにこちらの方が上だと思います。米国は長年かけて築き上げてきたインド太平洋地域の秩序を中国が自国に都合の良いように変えようとしていると見ています。これが日本の国家安全保障戦略にも影響を与えています。
中国とビジネスを行う我々はこのことに十分注意しておく必要があります。経済の安全保障に対する留意が必要なのです。中国は日本へのレアアースの輸出を止めたりオーストラリアからの穀物の輸入を止めたりしました。経済的な威圧行為と言えます。また威圧行為でなくても例えば先般日本で自動車の納期が異常に長くなり、新車を契約しても納車が数か月先という事態が発生しましたが、これはコロナ禍において中国で生産される汎用的な半導体の生産が激減したことからサプライチェーンが断ち切られたからです。その他にも中国の経済活動が停滞することによって日本の産業が大きな影響を受けた事例は多々あります。経済安全保障の重要性が高まっているのです。

グローバリゼーションと半導体

一方米中関係で見ると米中の貿易額は増えており相互依存は進んでいますが、米国の対中輸入の比率は低下しており相互依存とデカップリングが同時進行するという複雑な様相を見せています。
こうした状況下、実は日本の対外進出は加速しています。自動車や電機だけでなく当社も含めサービス業への進出が進んでいます。投資先は中国は意外に多くなく先進国やアセアンも増えています。
バイデン政権は中国と衝突する気はありませんが、同盟国と協調しながら中国との競争に勝つという姿勢です。そして半導体の技術を中国に渡すなという動きが強まっています。軍事転用される恐れもあります。全ての産業の基盤になりつつある半導体を中国に制覇されることを危惧しています。半導体技術の先端部分だけでなく汎用分野の技術も中国には出すなとの動きです。そして自国だけではなく同盟国に対しても同様の対応を求めています。日本を含めた同盟国の企業に大きな影響を与える可能性があります。今後デジタル化がますます進むことにより半導体の重要性は一層高まります。この分野は最も高い成長率が見込まれる分野なのです。
製造装置や素材では高いシェアを占める日本企業も存在しますが、半導体の製造そのものでは日本企業のシェアは極めて限られています。半導体関連産業は世界的な広がりを見せており各国とも自国の産業を守ろうと巨額の財政支援を行っています。日本もこのまま行くとこの先日本からの半導体関連輸出がなくなるとの危機感から政府が支援を始めています。


当日の様子

台湾問題

これは一気に大きな混乱を招きかねない問題です。地政学的に台湾は中国が太平洋に出ていく上で非常に邪魔な存在です。米国も日本も台湾の独立を認めているわけではありません。一つの中国と言う中国の認識は理解する、しかし現実に台湾が存在するという現状を維持してくれと言っているわけです。一方中国にしてみれば現状を変更しようとすることは当たり前のこととなります。産業面で見ると台湾は世界の半導体の最大拠点です。もしもここで有事があれば世界のサプライチェーンに大きな混乱が懸念されます。
この有事がいつ起こるかについては様々な見方があります。そんな馬鹿なことをするわけがないとの意見もありますが、一方で誰も否定することはできません。中国あるいは習近平主席が焦りを見せた時が危険との見方が一般的です。
では、もし起こってしまったらどんなことが起こるか。ある調査会社の試算によれば、中国が台湾を封鎖しただけでも年間2兆5000億ドルの経済損失が発生する。これが抑止力になるとの指摘もありますが、それでも中国は統一に踏み切るとの見方もあります。

日本の経済安全保障

サプライチェーンの強靭化に加え、セキュリティ・クリアランス(機密情報に関与する人間を厳選する)を含む情報保全の強化が求められています。特定の国や企業に過度に依存しないサプライチェーンの構築も必要です。また重要インフラをしっかり守る体制も重要です。
例えばロシアはサイバーアタックを仕掛け、また発電所を攻撃しています。更に先端重要技術を強化育成し大切な産業を守ることが大切です。こうした国の経済安全保障政策が我々民間企業に影響を与えることは十分予想されます。

エネルギーと気候変動問題

ヨーロッパの気候変動対策は、ある意味でロシアの安価な天然ガスを大量に使いながら、その間に脱炭素政策を進めるというものでした。ところがロシアからのガスの供給が止まったために、この手段が通用しなくなってしまいました。例えばドイツは石炭火力を一部復活させています。石炭価格が高騰し日本の商社はこの恩恵を受けています。しかしこれはおそらく一過性のもので、ヨーロッパは脱炭素を本格化していくものと思われます。
日本は30年目標の達成が難しい状況です。このため政府は今後10年間で150兆円の脱炭素投資を見込んでいます。主な分野の一つがアンモニアで当社もこの分野でのビジネスチャンス拡大を目指しています。また炭素に対する賦課金も検討されています。
一方世界の排出量の半分以上を占めるアジアのGX(グリーントランスフォーメーション)に対する日本の関与も期待されています。水素、アンモニア、二酸化炭素の回収・貯留技術等資金面を含め日本が協力できる分野は色々あると思われ、当社も検討を進めています。アジアにも発展する権利があるということと脱炭素とのバランスをどうとっていくかがAPECでの最大のテーマの一つになっています。




質問1.米国の二大政党制について。共和党と民主党の政権交代が米国の強みになっている
    と感じているが、この点についてどうお考えでしょうか。
    また共和党と民主党の根本的な違いは何なのでしょうか。

回答1.民間の活動に政府はできるだけ関わらないという点に軸を置いているのが共和党です。
          ただ両政党の栄枯盛衰の中でどちらの党も危機的な状況を経験しています。例えば共和
          党はレーガン政権時代に繁栄を謳歌していましたが、このころの民主党はリベラルに偏
          りすぎてずっと政権が取れないのではないかという状況でした。しかしその後、市場重
          視とか財政規律とか、もう少し真ん中にシフトすることによって政権を奪回します。一
          方共和党は民主党政権が女性や大卒者の支持を集める先進的な党に変わっていく中で、
          以前は民主党支持者であったものの、ある意味取り残され始めたどちらかと言うと学歴
          の低い白人労働者層を逆にコアな支持基盤として取り込んでいきます。共和党の従来の
          主流はいわゆるエスタブリッシュメント層でしたが、この層の支持者はかなり数が減っ
          てきていて、この層に依って立つ候補者は勝てないという状況になっていました。トラ
          ンプ氏のまさかの勝利は、この取り残された人たちを一つの核にした勝利でした。
        もう一つの共和党の支持基盤は宗教です。福音派と言われる人たちで敬虔な信者という
          よりもどちらかと言うと土着的で、ともかく信仰していることが大事という寛容な信仰
          感を持っている人たちです。この層がトランプ氏を支持しています。
           先般来日したデサンティス氏はイェール、ハーバードを卒業しイラクにも従軍している
          共和党主流のエスタブリッシュメントから見ればピカピカの大統領候補です。しかし今
          のままでは彼はトランプ氏に勝てない。トランプ氏支持の強硬派を取り崩す必要があり
          ます。彼の中絶反対、厳しい移民政策等は共和党の中では一定の支持を得ていますが、
          それでもトランプ氏支持者は彼は我々の仲間ではないと見ています。所得の比較的低い
          白人労働者層の支持が得られていないのです。
          一方、民主党のバイデン氏は穏健なリベラルを支持層としており、社会福祉や医療保険
         については国が関与すべきとの立場で、これが政府の関与をよしとしない共和党支持者
         からは許せない価値観と批判されています。
         こうした対立は日本では考えにくいものです。日本では共和党的な政党はないと
         言えます。おそらくは民主党が色々な政党に分かれているということです。
    もう一つ米国について言えば、いわゆるミレニアル世代(1980年代から90年代中頃まで
         に生まれた世代)、Z世代(1990年代中頃から2010代生まれ)の問題です。この世代の
         共和党支持者は極めて少数です。このままでは時代とともに共和党支持者はどんどん減
         っていくと言われています。
         二大政党が維持できているのは少数政党では当選できないからです。党を割って出ては
         勝てないのです。


質問2.中国における反スパイ法が当社を始めとする日本企業に与える影響について教えて下さい。
回答2.中国は対外的には時に強硬姿勢を示しながらも、西側諸国が中国の共産党体制の
    崩壊を狙っているとしてこれを非常に恐れています。かつては対外開放や国際協調で経
            済発展を遂げ、外圧を活かして国を発展させようという路線がありましたが、現在は外
           からの脅威から国を守り抜こうという姿勢が強くなっています。中をしっかり守るため
           に内向きになり、危険なものを排除するということです。
      しかもデジタル技術が進歩したことにより監視がしやすくなっています。
    先端技術や産業は国のコントロールの中だけでは収まりきれないものですが、内向きの
            姿勢が発展を阻害しないか懸念されます。
       今回アステラス製薬の社員が逮捕された事件ですが、ますます異論が出にくい体制にな
           りつつある中で、内向きの内部での競争の結果、党中央の指導とは別のところで逮捕さ
           れたとすると外国企業にとっては極めて危険な状況と言えます。
           共産党とコミュニケーションをとること自体がかなり危険なことになりつつあり駐在員
           はかなり注意をしなければならない状況になっています。

(関東地区幹事:中田徹)


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