行事報告

2023年02月17日 行事報告

2023年2月度関東地区社友会月例会

日 時 2023年2月6日(月)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  馬場 ゆかり 氏(女子プロゴルファー)
演 題 「ゴルフと生きる私の人生」

 2023年最初の月例会は2月6日に本社大ホールで来社方式とズーム配信のハイブリッドで開催されました。
 今回は女子プロゴルファーの馬場ゆかり氏をお迎えし、ご自身がトッププロとして活躍され、日本女子オープンで優勝するまでのさまざまなエピソードや女子プロゴルフ界の課題、また我々アマチュアゴルファーへのアドバイス等をお話しいただきました。

プロゴルファーになるまで


講演の様子

私がゴルフを始めた経緯からお話ししたいと思います。私の両親は自分たちが若いころは自分のやりたいことがなかなかできなかったという思いから子供たちには自由にやりたいことをさせてあげたいと思っていたようで、私の人生は色々な習い事からスタートしました。幼稚園のころに習字を始め小学校一年からは剣道を、さらに二年生からゴルフを始めました。また将来英語が必要になるだろうということで英会話も始めました。小学校時代はゴルフより剣道の方が好きでした。私は身長も大きくなく華奢な体格だったので、基礎体力を身につけようと、毎朝6時に起きて父親が作ったトレーニングメニューをやらされました。ストレッチから始まり、腕立て、腹筋、背筋、鉄アレイ、エキスパンダー、握力、懸垂、反復横跳び、剣道の素振り、ゴルフの球打ち、等です。父が大工であったこともあり、倉庫を改造するなどして、トレーニング環境を作ってくれました。父も飲み会の翌日などは別にして毎朝私たち三人兄妹のトレーニングを見てくれました。一番練習をさぼったのは私でした。
中学生になり剣道とゴルフの両立はどちらも中途半端になりかねないということで、剣道をやめさせられました。この時からゴルフ一本の人生がスタートすることになりました。ただ、習字、ピアノ、英語などの習い事は続けました。
その後、久留米の高校に進学しました。中学時代は田舎だったせいもあり、ゴルフは金持ちのスポーツと思われがちで、友達にはなかなか話しづらかったのですが、久留米は地元に比べれば都会らしさがあり、友達が“ゴルフ頑張ってね”と応援してくれました。またこのころから父の指導方法も変わってきました。以前はミスをすると、げんこつが飛んできたのですが、父も私と一緒に練習場に行き週末はラウンドする中で、良いスコアは簡単に出るものではないということを実感したのです。そこから怒るというスタイルから、試合でミスした時は反省して次に同じミスをしないようにしろというスタイルに変わってきました。そのため私自身も練習をさせられているという意識から自分で練習するという気持ちに変わってきました。そのおかげで高校二年生の時に九州ジュニアで優勝し、三年生の時には日本ジュニアや高校選手権でベスト3に入ることができました。こうした好成績を残すことができたこともあり、その後の進路を決めるときに大学進学も考えていたのですが、父にプロテストを受けろと言われ、その一言でプロテストを受けることになりました。幸いに一発合格し、私のプロゴルファーとしての人生が始まりました。
当時を振り返り私は両親にとても感謝していることがあります。そのころはゴルフ部に入ってゴルフを磨いていくというのが当たり前でしたが、私の両親は社会人になるまではあくまでも学業が第一という方針で、学業があってそのあとでゴルフも頑張るという考えでした。大変なこともありましたが、社会人になってそうした方針の下でプロゴルファーにしてくれた両親に感謝しています。

プロゴルファーになってから

次にプロになってからの話をします。プロになりたての2003年の賞金獲得額は161万円で109位でした。私のプロゴルファーとしての人生は初めから順調だったと思う方がいるかもしれませんがそうではありませんでした。当時4段階あったQT(クオリファイトーナメント:ツアーに出るための予選会)でセカンドQT落ちからのスタートでした。プロになったばかりのルーキーはステップアップツアーの参加資格はありましたが、当時は数試合しかありませんでした(今年は21試合)。ですので時々試合に行くというという感じで、プロになってからも毎日練習に行くという状態でした。もちろん推薦をいただければ試合に出られます。私は福岡出身なので、毎年福岡で開催される1試合だけは推薦をいただけるものと思っていました。ところが推薦は来ませんでした。同郷の他のゴルファーには来ていました。なんで私には来ないのだろうと考えました。おそらくコネクションだろうと。私には何のコネクションもありません。ゴルフ部出身でもありません。プロとはこういう世界なんだと思いました。
そのころはちょうど宮里藍ちゃんがアマチュアで注目され、スポンサー推薦で毎週のように試合に出ていました。なんで彼女が試合に出られて私は出られないんだろうと思い(誤解のないように言っておきますが、私は藍ちゃんが決して嫌いではありません)、コネクションのない私は実績で上にあがっていくしかないと強く決意しました。その後たまたま新人を応援している大会(プロミスレディス)に推薦いただき、11位という成績を収めることができました。その流れに乗って、翌2004年からツアーにフル参戦できるようになり、その年に初優勝することができました。これが私のシード選手としてのスタートとなりました。
この年から賞金もある程度順調に稼げるようになりましたが、自分としてはもう一段上に上がるにはどうしたらいいのか、シード選手としてしばらくもがく時期が続きました。話は少し飛びますが、2010年に生涯ベストシーズンの賞金総額90百万円、4位の成績を収め、翌2011年はメジャー(日本女子オープン)で優勝することができました。
実は2010年は優勝が一度もないにもかかわらず90百万円稼いだのです。LPGAでも珍しい記録だと思います。このころ私はメンタルコーチをつけていました。その取り組みがようやく実を結んだと考えています。


来社にて参加された皆さん


来社にて参加された皆さん


日本女子オープン


講演の様子

次に2011年の日本女子オープンの話をしたいと思います。有名な名古屋ゴルフ倶楽部和合コースでの大会でした。この年は震災の影響によりトーナメントの中止等があり、なかなか試合のリズムがつかめない状態でした。また、ちょっと余談になりますが、先ほど話しましたように、前年の2010年は私にとっての最高賞金額の年でした。そこで私は初めて税金の問題に直面することになったのです。あんなに稼いだのになんでこんなにお金がないのだろうと不思議でした。税金の仕組みが良く分かっていませんでした。試合前の母からの電話は激励が欲しかったのですが、「通帳にお金がありませんよ」で、そんなことは分かっているよと思いました。ともかくもっと頑張るしかないと思いました。
そうした中、和合コースに入りました。通常のコースはバーディーを取り合うセッティングなのですが、和合はパーを取っていくセッティングだと思いました。フェアウェイは狭くラフはとても深いです。バンカーに入れた方がパーを取りやすいとも思いました。またフェアウェイが固いので、フェアウェイに落ちても弾んでラフに入ることがありフェアウェイに残すことがとても難しいコースでした。練習ラウンドで、どういうゴルフをしたら良いかじっくり考えました。優勝など思いもせず、取り敢えず予選を通過してなるべく上位に入れればいいなと考えていました。
ここでまた余談となりますが、最終日の最終組は12時過ぎのスタートになります。そこから逆算して7時過ぎに起きればいいなと考えました。あまり早く起きても時間を持て余してしまうからです。そこで前日の夜は名古屋の友達と12時ころまで飲んでいました。
そして最終日。この日は私にとって忘れられない一日となりました。序盤は地に足がついていない感じでした。ダブルボギーもあり、アプローチもパットもしっくりこない感じが8番ホールまで続きました。そうして迎えた9番ホール、7メートルにパーオン。これが入ってくれました。やっとバーディーが来た、これで気持ちを切り替えて後半頑張ろうと思えました。そして後半最初の10番ホールのティーグランド、同伴プレイヤーの笠りつ子選手の顔が引き締まったというより固まったように見えたのです。するとそこから笠選手が崩れていったのです。私はひたすら粘って粘ってパーを取っていくゴルフが続きました。和合は難しいうえに風が強いことで有名です。ただ私は毎年風の強い沖縄で合宿をしていたので、そのおかげで風に上手く立ち向かえることができたのかなと思っています。この戦いを終えて思ったのは、勝つときは意外と余計なことは考えていない、ただシンプルに自分のゴルフをしようと集中しているときだということです。
昨日若手の女子プロとラウンドをしたのですが、その時「優勝するときって何を考えているんですか?私はいつもいい球を打ってやろうと思っているんですけど」と聞かれました。私は、かっこつけていい球を打とうとするよりもゴルフは結果が全てだから、どうしたら結果に結びつくかを考えたらいいよと答えました。

これからの活動について


講演の様子

次に最近の話をしたいと思います。女子プロのシード選手の平均年齢はだいぶ若くなっています。男子プロも同じ傾向にあると思います。女子プロで生涯獲得賞金が1億円を超えているのは1,168人中227人です。トーナメントの賞金額は増加傾向にあるので若手が稼げる額はもっと増えていくと思います。ちなみに一般社会人の生涯所得の平均は男性2.3億円、女性1.3億円だそうです。若いうちに大きな賞金を稼げる可能性のある女子プロは夢のある職業と言えます。ただ、昔は長期間にわたってシード権を保持した選手が多くいましたが、これからは少なくなる可能性があります。樋口選手は26年間、岡本選手は24年間シード権を保持しました。私は11年です。これからはゴルフ一本で生きていくだけではなく、幅広い生き方を求める選手が増えていくと思います。私自身も結婚、出産したママさんゴルファーです。いま活躍し脚光を浴びている10代後半や20代前半の選手たちが10年後も現役で活躍している可能性は必ずしも高くないと思います。彼女たちが結婚、出産した後もまた戻ってこられる環境を作っていくことが女子プロ界の課題です。
私も自分の経験を通して若い人たちにアドバイスできたらいいと思っています。
スポーツ界ではよく引退という言葉を耳にしますが、プロゴルファーは資格を返納しない限りプロゴルファーです。試合に出なくなってもプロゴルファーですので、試合以外の場所で活動できる環境を作っていきたいということです。日本女子プロゴルフ協会の小林会長が努力されていることの一つでもあります。
私は2021年に出産し、今は子供第一の生活です。出産で身体も大きく影響を受けました。
出産後2年になりますが、骨盤がまだ元に戻っていません。いろいろな方から試合に出ないのかと聞かれますが、正直なところ身体の状態を元に戻し、そのためのトレーニングを十分にする時間はありません。また試合に出ている間、子供を預ける環境も必要です。今はジュニアの育成とか新人プロの指導とか、今の自分にできることをやっていこうと思っています。女子は45歳からレジェンズツアー(シニアツアー)があります。まだ試合数は少ないですが、私が参加できるころには、今より活発になっているといいなと期待しています。

アマチュアの皆さんへ

最後にアマチュアゴルファーの皆さんにアドバイス的なことをお話ししたいと思います。
皆さんゴルフが終わった後のお茶とか食事とかの時にどんな話をしていますか。あそこでOBしたとか、あの池に入れたとか、あのバンカーが出なかったとか、そんな話をしていませんか。悪い記憶はどうしても残ってしまいがちですが、是非良い記憶が残る会話をしてください。ゴルフはショットごとに良いイメージを描いていなければいけません。悪いイメージがあると、どうしても身体はそっちの方に動いてしまいます。場面ごとに良いイメージを描いてスイングすることが大切です。それとミスを少なくするには練習しかありません。
また年とともに身体が老化していくことは避けられませんので、毎日少しずつでも良いので、運動やストレッチを続けることも大切です。最近はカートでのゴルフが一般的ですが、例えばティーショットからセカンドまではカートに乗っても、セカンドからは歩くのも良いと思います。

質問1.女子プロゴルフ界での選手会の必要性について。
回答1.女子には選手会はなく、プレーヤーズ委員会が各種の伝達事項を伝える役割を果たしています。
    協会と対立したくないという背景があると思います。
    最近の現場の声はよく分かりませんが、選手の声が届きにくいという意見もあるかとは思います。
    協会の小林会長も色々と考えていらっしゃると思います。

質問2.プロアマ戦などでプロとラウンドする時に、いつアドバイスをお願いするのが良いか。
    自分はラウンド中ではなく、終わった時にワンポイントアドバイスをお願いしています。
回答2.私は修正は早い方が良いと思っているので、その都度アドバイスをするようにしています。
    ただ人によっては、ラウンド中ではごちゃごちゃになってしまうので終了後が良いと
    おっしゃる方もいます。長年の癖は直ぐには直らないケースがあるので、難しいところです。
    混乱しないようにシンプルに伝えようと心掛けています。
    プロによってもアドバイスの仕方は違うと思います。
    あらかじめ最後にと言っていただければ、プロにとってはありがたいと思います。

質問3.私は現在86歳ですが、月2.5回ほどラウンドしています。今年2回しましたが、96と95でした。
    私の今の悩みはドライバーが真っすぐ飛ぶのですが、距離が150ヤードです。
    もうあと10ヤード欲しいのです。
    コーチからは「当てるだけではだめですよ、右肩を前に出して右足を立てなさい」と言われるのですが、
    理屈ではわかっても身体が回らないのです。努力すれば直るでしょうか。
回答3.努力すればやりきれると思います。先ほども言いましたが、年とともに身体に固さが出てきます。
    自分の身体が許す限りストレッチをするといいのではないかと思います。
    ストレッチとスクワットがいいと思います。お元気そうで良いですね。

質問4.自分のコースで苦手なホールが3つ4つあります。
    平常心でやろうと思うのですがなかなか上手くいきません。
    そういうホールに対する対処方法とか心構えを教えて下さい。
回答4.まずどういうミスが出ているかを研究します。ミスは大体ワンパターンです。
    それを直す練習が必要なのはもちろんですが、前にも言ったようにうまくいった時のイメージを残すことが
    大切だと思います。YouTubeなどでいいショットの動画を見るのも良いと思います。
    一つミスが出ると立て続けにミスが続くことがよくありますが。
    一つ良くなればすっと全部が良くなることもあるので、その一つを頑張ってみることも大事なのでは
    ないでしょうか。

質問5.メンタルトレーニングとはどのようなことをやるのですか。
回答5.私のメンタルコーチはどちらかというと戦略コーチでした。
    ある時「ゆかりちゃん、自分がタイガーウッズだと思って今週やってみて」と言われました。
    タイガーの球筋や一球一球集中する姿勢をイメージして取り組みました。
    そして悪いイメージを消して良いイメージを残す努力をしました。ラウンド後に書く日記に
    今日のベストスリーのショットとパットをそれぞれ書きました。
    悪い時はなかなかそれが見つからないのですが、それでも頑張って見つけるようにしました。
    調子の悪い日でも意外といいショットがあったことに気づきます。
    そして試合の翌朝に米国にいるメンタルコーチとZoomで自由に話し、試合を振り返りました。
    自分で話すことによって、試合であったことをより深く理解できる
    ようになりました。またフェアウェイキープ率やパッティング数などの各種データを定期的に分析し、
    足りないところを見つけ練習するようにしました。

(関東地区幹事:中田徹)


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