行事報告

2021年10月27日 行事報告

2021年10月度関東地区社友会月例会

日 時 2021年10月14日(木)14時~15時05分
場 所 Web会議システムZoomを用いたオンラインでの講演
講 師   山澤 文裕氏(丸紅㈱産業医、(公)日本陸上連盟医事委員長)
演 題 「東京オリンピック2020 医療とアンチ・ドーピングの話題」

 10月度月例会もZoomを用いて、全国の社友会員を対象にオンライン講演会を開催いたしました。講師には、多くの社友の皆さんが丸紅在勤中にお世話になった、丸紅本社産業医の山澤文裕先生にお願いし、「東京オリンピック2020 医療とアンチ・ドーピングの話題」と題して講演いただきました。
 山澤先生は長年、日本陸上連盟の医事委員長を務めておられ、今夏に開催された東京オリンピック陸上競技における医療面でのサポート体制を中心に、国立競技場の現場でのスライド写真も交えてお話しいただきました。
 オンライン講演には、70名を超える社友の皆さんが参加されましたが、コロナ禍で、かつ真夏の競技場にあって、アスリートの健康をサポートする医療スタッフの皆さんの奮闘に感銘を受けたことと思います。
(今回は、講演時間の関係で、演題にあるアンチ・ドーピングのお話しはありませんでした。)

 以下は、講演の概要です。



スポーツ大会における救護活動は、リスクマネジメント上の最重要課題であるが、今回の東京オリンピックはコロナ禍での開催であり、安全配慮・安全対策が問われる大会となった。

オリンピック陸上競技は、7月30日から8月8日までの日程で開催されたが、医療救護活動の範囲として、われわれ競技者用医務の対象者は、アスリートと審判、また、スタジアムではアリーナとウォームアップ場、ロードレースの場合はスタートエリア・コース内・フィニッシュエリアに及んだ。

東京2020開催にあたって特に懸念された事態は、人的要因としては、やはり新型コロナ感染症拡大であり、自然・環境要因としては、暑熱環境であった。

私は、陸上競技のAMSV(Athletic Medical Supervisor : 選手用医療統括者)の立場で、選手用医務室の責任者を務めた。選手用医務室は、FOP(Field of Play)メディカルサービスを行うが、これは、競技者の健康と円滑な競技運営を確保することを目的とし、障害が発生した競技者や競技続行が困難と思われる競技者をいち早くFOPより退避させる行動をとる。

国立競技場における陸上競技のメディカルスタッフは、AMSV 1名、選手用医師28名、選手用看護師14名、理学療法士15名で、ほかにAthletic Care Assistant 60名の体制であった。対応した主な症状は、肉離れ・アキレス腱炎増悪・熱疲労など。
競技期間中、FOPメディカルでは192名の患者に対応。うち選手用医務室で53名が受診したが、18名は熱中症であった。幸い、重症はゼロ。

東京2020は、真夏の大会となったことから、熱中症対策として、WBGT測定器(Wet Bulb Globe Temperature : 暑さ指数)が、熱中症の危険度を周知させるため必須となった。
<注:WBGTは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標。環境省基準でWBGT28℃以上:厳重警戒、WBGT31℃以上:危険/運動は原則不可>
国立競技場では、概ね、午前中はWBGT28℃以上、夕方からはWBGT28℃以下の競技環境であった。

暑さ対策のため、長距離競技は札幌での開催となったが、8月6日の男子50 km競歩の際のWBGTが高かったことから、翌日8月7日の女子マラソンは、急遽スタート時間を1時間繰り上げる対策がとられた。

IOCもTOK2020に備えて、2018年には、「Adverse Weather Impact Expert Working Group」を作り(注:山澤先生もメンバーとして参加)、オリンピック期間中の暑熱対策として、あらかじめ最低2週間の暑熱順化トレーニングなど「10 Top Tips」を公表している。

TOK2020の医療体制面のLegacyとしては、「Training & Communication」。具体的には、医療スタッフの ①人材育成、②国際交流、③国内学会間交流の推進があげられよう。

新型コロナ対策としては、TOK2020 「The Playbook Athletes and officials」 というガイドブックを作成し、アスリートおよびチームスタッフに対しては、バブル方式・外出制限・毎日PCR検査など、FOPメディカルスタッフや競技審判に対しては、毎日PCR検査や入場時体温測定などを実施した。
TOK2020にかかわる8月6日までのPCR検査は、空港43千件、スクリーニング検査数624千件となっており、オリンピック関係者の感染者数は、7月1日からの累計で430人、うち選手は29人であった。

(関東地区幹事:斉藤正視)



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