行事報告

2021年06月29日 行事報告

2021年6月度関東地区社友会月例会

日 時 2021年6月14日(月)14時30分~15時50分
場 所 Web会議システムZoomを用いたオンラインでの講演
講 師   片山 善博氏(早稲田大学教授、元総務大臣・前鳥取県知事)
演 題 「コロナ禍への対応から見える国と自治体の課題」

 今回、社友会では2度目のZoomを用いた月例会となり、参加者を関東地区から全国に拡大してオンライン講演会を開催いたしました。
 講師には、メディアを通してもお馴染みの早稲田大学公共大学院教授の片山善博氏をお迎えして、「コロナ禍への対応から見える国と自治体の課題」と題して講演いただきました。
 片山教授には、元総務大臣・前鳥取県知事のご経歴も踏まえ、今回のコロナ禍への対応における、政府・自治体の課題・問題点等について、具体例も交えて大変わかりやすくお話しいただきました。
 オンライン講演には約100名の社友の皆さんが参加されましたが、社友会員のほとんどが対象となる高齢者向けコロナワクチン接種の予約が本格化し、国や自治体のワクチン接種対応の巧拙を実感するタイミングでもあったことから、まさに時宜を得たお話しを聴くことができました。

 以下は、講演の概要です。



コロナ禍で大学の授業も全てリモートで実施することになり、当初は当惑したが、何とか自分自身で対応できた。コロナ禍にあって強いられた行動変容ではあったが、授業の効果が上がった面もあり、ポストコロナでも、必ずしも元に戻らない部分がでてこよう。

〇コロナ対応から見えた政府の問題点
今回のコロナ禍では、政府や自治体の対応でいろいろなことが見えてくる。もたついていることを上げればきりがないが、どこに原因があるかというと、コロナ禍で初めて弱点が見えてきたものではなく、よりクリアになったと認識している。

一つには、政府が法律に基づかないことをするようになったこと。
我が国は法治国家であり、国民の行動を制約する場合や、義務を課す場合には法律の裏付けが必要で、権力も法に従わなければいけない。コロナ禍では、「改正特措法」に従って、政府が緊急事態宣言を発出すれば、知事が時短営業や営業自粛など、行動を制約することができる。私権の制限につながるので、宣言を発出する際は国会への報告義務がある。
しかしながら、緊急事態宣言が出ていない時でも私権の制限ができる旨を政府は知事に通知しており、明らかに法律に違反していた。こうした誤った法律解釈をしても役所は改めないし、マスコミも問題を理解していない。

もう一つは、官僚組織が劣化したということ。
安倍・菅政権で9年になるが、霞が関の役人の行動が変わってきた。官邸の意向に従っていればよいと割り切る組織になっている。本来、専門家集団として政策を提案し、国全体としてやろうとしていることに対して、自由闊達な議論があったものだが。今は「言わぬが花」で、「なんでも官邸団」と自嘲気味に言っている状態。
例えば、安倍政権時の特別定額給付金10万円支給について、首相はマイナンバーカードでオンライン申請すれば早く交付できると話していたが、それはそもそも無理。そのことを官僚は知っているのに、誰も首相の間違いを正そうとせず、結局現場を混乱させただけに終わった。また、現在の大手町大規模接種センター設置も官邸主導だが、高齢者を広範囲に都心に集めるやり方は合理的でない。安部政権時代からの誤った政治主導の副作用が出ている。

〇コロナ対応から見えた自治体の弱点
一例をあげると、安倍前総理が、今年2月、全国一律の一斉休校を要請した際の自治体の対応。緊急事態宣言が出ていない中で要請したものだが、全国ほとんどの学校が休校となった。
これについて、「民間臨調」(新型コロナ対応・民間臨時調査会)の調査・検証報告書では、感染対策としては無意味で、教育現場を混乱させたとの結論となっている。当時、島根県のように、コロナ陽性者がいなかったため要請に従わなかった例外もあったが、ほとんどの自治体が、総理の一声で科学的根拠・法的根拠がない要請に従った。
本来、休校については自治体の教育委員会が判断すべき事項だが、休校の是非についてほとんど議論しなかった。国の方針は全国一律だが、地域本位で考えて判断するのが地方自治のあるべき姿。

〇ポストコロナ社会とは
コロナ終息後のV字回復を期待している人が多いのは否定しないが、コロナ以前の元通りにはならない分野もある。
大学でも、リモート授業は強いられた行動変容であったが、使い勝手もよく、授業内容にもよるが、全面的な対面授業には戻らない。対面とリモートのハイブリッド型授業もありうる。
鉄道や航空機の利用も、旅行目的ではV字回復しようが、仕事での利用は減少しよう。

ポストコロナ社会は、一人ひとりが今の仕事・生活がどう変わるか、自分のことを念頭に置くと将来像がある程度わかってくるのではないか。

〇ポストコロナの国の課題
コロナ以前からの課題であるが、モラル(moral)とモラール(morale)の立て直しが必要。
今日の霞が関を作ってしまったリーダーの責任は重い。行政の各組織がのびのびと仕事ができるようにする人間がトップリーダーになって欲しい。今の政治家は、大きな組織を切り盛りした経験のある人材が少ない。組織をうまく使えるリーダーが出てこないと駄目。

コロナ禍で財政がボロボロになっている。今の状況ではやむを得ないが「ワニの口」(歳出と税収の差)を収束させていかなければならない。アベノマスクの全戸配布や予備費10兆円の補正予算など、財政のモラルハザードが起こっている状態。財政規律の維持はトップリーダーの重要な務めである。

〇ポストコロナの地方の課題
これまでお話してきたように、地方自治は、国任せでなく自治体自身が自分の責任で考えて実行していくことが第一義。


講演の様子


(関東地区幹事:斉藤正視)


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