行事報告

2019年11月18日 行事報告

2019年10月度関東地区社友会月例会

日 時 2019年10月28日(月)12時より
場 所 丸紅東京本社(東京日本橋タワー)23階 大会議室
講 師   国立がん研究センター名誉総長 嘉山孝正氏
演 題 「ゲノム時代のがん医療」

 2019年10月の関東地区月例会は、国立がん研究センター名誉総長の嘉山孝正先生をお招きし、「ゲノム時代のがん医療」と題して講演いただきました。先生は、日本の医学界で数多くの要職を務めておられ、当日は最新のがん医療を中心に、スライドとビデオもお使いになり、軽妙な語り口でお話しいただきました。
 日本では高齢化の進展もあり、二人にひとりが生涯に一度はがんにかかると言われるなか、身近な病気で関心の高いテーマゆえ、出席された社友の皆さんも熱心に聞き入っておられました。

 まず、がんは遺伝子が変異することによって起こる病気であることから、ヒト細胞内の核の中にある染色体・遺伝子(DNA)・塩基対について説明されました。
 ゲノム(遺伝子をはじめとする遺伝情報全体)は約3万個の遺伝子で成り立っており、がん遺伝子は1911年に発見されたが、がん発生に関わる遺伝子変異の由来については、生まれつきの特性とその後の生活・環境で作られる特性が挙げられる。
 遺伝子変異の要因として、生活習慣(喫煙・飲酒など)、加齢、体質などによるDNAの塩基配列の変化があるが、次世代シークエンス(塩基解読)技術の開発で、がん遺伝子が2001年に解読され、現在では24時間で全ゲノム解読が可能になったとのこと。

 日本のがんゲノム医療の推進体制としては、厚生労働省により2018年に「がんゲノム医療中核拠点病院」が全国11カ所公表されており、今年9月には、全国どこでもゲノム医療を受けられるネットワークを構築するため、新たに「がんゲノム医療拠点病院」34カ所が指定された。がんの遺伝が心配な方やがんの薬物療法が必要な方を対象としており、指定病院に行けば遺伝子検査ができるようになった。

 米国人女優のアンジェリーナ・ジョリーが、遺伝子検査により乳がんになる可能性が高いと診断され、がん予防のため切除手術をしたことで話題となったが、倫理問題はあるものの、遺伝子検査によりがん発生リスクを知ることができる。

 特に、遺伝子検査により、特定の抗がん剤などの薬物療法で治療効果が実証できるがんが出てきたことで、ゲノム医療による「個別化」が進展した。これは、患者一人ひとりの体質や症状にあわせて治療を行うことで、①患者にとって無駄な治療を避ける、②安全に治療ができる、③社会的にも医療費を抑制できる、④製薬会社にとって医薬品開発費が低減する等の効果が期待されるとのこと。

 次に、がんの放射線治療について、体に優しい根治治療と臓器の機能を残す治療の選択肢として、食道がんの治療写真をもとに説明されました。
中でも、高度な放射線がん治療として注目される重粒子線は、X線に比べて活性化していないがん細胞にも効果があること、体の奥深くまで届くこと、短期治療で済むことなどを挙げられました。
 先生ご自身が現在、山形大学医学部「東日本重粒子センター」の運営委員長をされており、2020年の治療開始を目指して建設を進めている重粒子線設備(事業費150億円)をスライドで説明いただきました。

 また、手術治療については、先生のご専門が「脳神経外科」であることから、脳のがんともいえる脳腫瘍の「覚醒下手術」を実際の手術ビデオをもとに解説されました。これは脳腫瘍の摘出手術中に患者を麻酔から覚醒させ、患者と会話しながら手術を進めることで言語野など高次脳機能を守るというもので、脳血管を傷つけないように腫瘍を摘出する繊細な技術には驚嘆するばかりでした。

 最後に、21世紀のがん治療においては、外科手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤や免疫療法)、緩和治療など、治療選択の違いにより、「さまよえるがん患者」を出さないためにも、患者自身が病院を選ぶにあたって、病院内で関係専門医が一同に集まって、個々の患者の治療方針を集中的に討議する「Cancer Treatment Board」などを開催しているところを基準にすべきとのことです。

 今回の講演で、ゲノム時代のがん医療は、まさに日進月歩であることを実感しましたが、先生には引き続き日本の医学界を牽引していくことをお祈りしたいと思います。

 一方で、我々のがん対策としては、なかなか懲りない生活習慣の改善、がんの早期発見・早期治療が第一であることに変わりはないようです。

(関東地区幹事:斉藤正視)



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