行事報告

2019年07月01日 行事報告

2019年6月度関東地区社友会月例会

日 時 2019年6月24日(月)12時より
場 所 丸紅東京本社(東京日本橋タワー)23階 大会議室
講 師 元日本経済新聞社政治部長 岡崎 守恭 氏
演 題 「政治の底流を読む」

2019年度6月度月例会では元日本経済新聞社政治部長の岡崎守恭様をお招き致しました。
今回の行事報告は岡崎様のご厚意により、ご本人様に作成頂きました。以下よりご覧下さい。

政治の底流を読む

新55年体制の既視感

 大政党の自民党、中政党の社会党、小政党の民社党。それぞれ保守派、リベラル左派、リベラル右派を代表する政党で、これを「1955年体制」と呼んだ。長く続いたこの体制は冷戦構造の崩壊、政治改革の推進、選挙制度の改正などにより、政権交代が可能な「二大政党制」に移行したはずだった。ところが今の永田町を眺めると、いつか見た光景だ。大政党の自民党、中政党の立憲民主党、小政党の国民民主党、それぞれ保守派、リベラル左派、リベラル右派を代表しており、先祖返りもいいところ。デジャブ(既視感)どころか、デジャブ、ジャブ、ジャブと言える。自民党は「1強」にあぐらをかいて、有権者をなめており、野党には政権を倒し、奪取する気迫もなく、早くもマンネリ化している。

若者の自民党支持

 そのうえ「新55年体制」はむしろ強化されているかもしれない。その理由の一つは若者の自民党支持だ。かつては若者の自民党支持は少なく、世の中にもまれて40-50歳代になると次第に自民党支持が増え、60歳以降の自民党支持が最も多いという構造がずっと続いてきた。しかし今は20-30歳代の自民党支持の割合が最も高い。安倍晋三内閣の支持率も一番、高いのは若者だ。民主党の混乱を10代でずっと見てきたことや、安倍政権が「日常」になってしまったことの反映だろうか。「イマ・ココ・ワタシ」の充実、すなわち公より私、先より今、期待より現実という気質。不安はあるが、不満はないという「常温社会」が背景にあると思える。

公明党の「下駄の雪」化

 もう一つは公明党が自民党に結局は同調する「下駄の雪」化だ。公明党は連立政権を組むことで、自民党が行き過ぎた方向にいかないように掣肘する役割を担うはずだった。実際、森喜朗政権が退陣を余儀なくされたのは自民党内の抗争ではなく、公明党が愛想尽かしをしたからだった。ところが安倍政権になって平和の党のはずが安保法制の強化をすべて了解した。国際情勢の変化に対応してこれは理解できるにしても、カジノ実施法案にまで一丸となって賛成したのにはどう考えても違和感がある。母体の創価学会は貧困、病気、暴力、ギャンブルなどで苦しんでいる人々が救いを求めて入信したのが原点だからだ。所管の国土交通相も公明党から出ている。

内政は「年替わり」メニュー

 安倍政権は安全保障の方面ではむしろやりすぎと言われるほどに次々と課題を実現してきた。特定秘密保護法、武器輸出三原則の緩和、安全保障関連法、テロ等準備罪(共謀罪)の創設‥‥。いずれも永年の懸案で、「決める政治」を実践した。しかし看板政策は日替わりならぬ「年替わり」だ。地方創生から始まって、女性活躍、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命(人生百年、外国人活用)とスローガンは次々に掲げられているが、例えば地方創生にしても文化庁の機能を東京から京都に移すくらいしか記憶に残っていない。失業率の低下などを成果とするアベノミクスという言葉にすっぽり覆われているが、手ごたえのある個別の内政の成果はなかなか感じられない。

北方領土は二島でも停滞

 外政の目玉中の目玉だったのが北方領土返還だ。ずっと四島返還が不動の大原則だったが、事実上、二島返還に方針を転換した。四島返還の放棄に世論の猛反発が起きると思ったが、そうでもなく、二島返還でも「永遠のゼロ」よりいいだろうという空気が醸成されていた。ロシアのプーチン大統領が柔道家らしく「引き分け」を口にしたので、これはいけるかも知れないと踏んだ。四島と二島はたしかに数では半分ずつだが、歯舞、色丹だけだと面積では7%に過ぎないが、これも目をつぶろう。が、実際に交渉に入ろうとすると、プーチン氏はブリキのパンツで、進展がないどころか、後戻りしてしまった印象だ。先の見通せない長期戦を余儀なくされることになった。

憲法改正は本当に悲願?

 そうなるとまもなく桂太郎を抜いて憲政史上、最長の在任期間となる安倍政権のレガシー(歴史的な遺産)は何になるのか。それが憲法改正だ。祖父の岸信介元首相以来の悲願といつもお題目のように唱えられるが、実は安倍首相から改憲へのほとばしるような意欲を聞いた「お友達」はほとんどいない。「改憲は安倍さんのポケットチーフ」と評していた人もいるのだ。前回の衆院選も自民党が議席を減らすことは確実視されていた。つまり改憲の発議に必要な三分の二の勢力を失いかねなかったのだ。それでも安倍首相はさらっと解散した。その結果は小池百合子東京都知事が火をつけた「希望の党」が自滅して絶望になってしまい、自民、公明両党の与党は三分の二を維持した。

9条改正にまで踏み込むか

 つまり安倍首相はいわば改憲をやらざるを得なくなってしまったのだ。総裁の任期も2021年9月30日まである。前回は解散したのに、今回は解散を見送って、衆参同日選挙にしなかった理由はここにある。衆院の三分の二は絶対に失うことのできない虎の子なのだ。参院は今の与党で三分の二に届かなくてもいい。維新という改憲の味方を引き寄せた。国民民主党の中にも改憲を唱える向きが少なくない。野党の流動化に乗じて「改憲勢力」は三分の二を確保できるだろう。焦点は本筋の9条改正にまでしゃにむに踏み込むのか、それとも緊急事態条項や「教育の無償化」などの内容には誰も文句のないものを「加憲」して、とにかく初めて改憲を実現したということで終えるのかに移ることになる。



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