今回の2月度月例会は順天堂大学スポーツ健康科学部教授(博士:学術)の谷本道哉氏をお迎えし、ご講演いただきました。谷本氏のご専門は筋生理学・身体運動科学で、日本オリンピック委員会医科学スタッフ、日本ボディビル連盟医科学委員なども務めておられます。「筋肉は裏切らない」でお馴染みのNHK『みんなで筋肉体操』の監修・出演をされています。
本講演では、運動の効果をわかりやすく解説していただきました。
| 日 時 | 2026年2月26日(木)14:00~15:30 |
|---|---|
| 場 所 | 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール |
| 講 師 | 谷本道哉氏(順天堂大学スポーツ健康科学部教授) |
| 演 題 | 「健康寿命」を経営する ~人生110年時代を乗り切る自己投資戦略~ |
谷本道哉教授のご講演
この講演では「健康寿命を経営する」をテーマに、自宅や職場で簡単にできる筋トレの重要性についてお話します。筋トレは健康経営の一環として、健康を促進し、仕事の生産性を向上させる手段になります。さらに、筋トレをすることにより、個人の人生の質を向上させることも目指せます。
日常生活の中では、朝の体操が推奨されています。朝動き始める前に、体操をすることで快適に動ける体になるので、簡単にできる2つの体操を紹介します。
前後屈
・ 背骨の上部から動かし始め、前屈をする際には「おへそ」を見る
ゆっくりと戻り、後ろに反る際には手を腰の“後ろ”に持っていき、完全に顎を上げきる
・ さらに効果を上げるには手を前で組んで、背中が丸くなるまで目いっぱい下に伸ばす
同様に後ろに反るときは腰の後ろにあてた手をぐっと押して反れるところまで反る
横曲げ
・ 手を組み目いっぱい上に伸ばし、できるだけ後ろに引く
・ 右手で左手を引っ張り横に曲げる
・ 首も倒す
・ 腰を左にグイッと突き出す
◎こうした体操をすることにより、全身の柔軟性を高めることができます。
すると全体の動きが大きくなり、筋肉の動きがスムーズになります。
これにより、体を快適に動かせる状態にし、仕事の効率、人生の質を高めることができます。
筋肉は年齢とともに減少しますが、特に速筋(白い筋肉)が加齢で落ちやすく、持久力のある遅筋(赤い筋肉)は比較的維持されます。速筋を鍛えるためには、強度の高い運動が必要であり、筋トレを通じて速筋を効果的に鍛えることが可能です。
| 名前 | 色 | 働き | イメージ |
|---|---|---|---|
| 速筋 | 白い筋肉 | 瞬発力 | 動きの速いカレイ |
| 遅筋 | 赤い筋肉 | 持久力 | ゆっくりと泳ぐマグロ |
◎筋トレは速筋を鍛えるものです
健康経営の一環としての筋トレの重要性とその新しいアプローチについて、お話します。
〈乳酸と脳機能の関係〉
乳酸は疲労物質ではなく、糖質のエネルギーを一部取り出した状態で、脳で効果的に利用されます。筋トレによって乳酸が生成されると、脳機能が向上することが実証されています。職場での短時間の筋トレは、仕事のパフォーマンスを向上させる手段となります。
〈筋トレの健康効果と注意点〉
筋トレは、心疾患や糖尿病のリスクを低下させ、総死亡率を下げる効果があります。しかし、過度な筋トレは動脈硬化を進行させる可能性があるため、適切な範囲で行うことが重要です。適度な筋トレは、健康維持に有効であり、業務中にも実施可能です。
〈軽負荷トレーニングの効果〉
重いバーベルを使わずとも、軽い負荷でのトレーニングでも筋肉をつけることができます。スロートレーニングや動作範囲を広く取る方法が効果的であり、研究により軽負荷でも効果的に筋肉をつけることができると証明されています。
よく「筋肉は裏切らない」と言われますが、実際にはやり方次第です。正しい方法で行わないと健康に弊害が生じることもあります。重さに頼らずに的確な筋トレを行うことで、整形外科的なリスクや動脈硬化のリスクを軽減できます。
家や職場で簡単にできる筋トレの方法を紹介します。筋肉は年齢とともに減少しますが、適切なトレーニングで取り戻すことが可能です。筋トレの効果を最大限に引き出すためには①時間②重さ③質を意識することが重要となります。これらを意識することで、短時間でも効果的に筋肉を鍛えることができます。
スクワット
• 手を胸にクロスして置き、背筋を伸ばした状態で行う
• 浅いスクワットではなく、深くしゃがむことが重要。膝を前に出さず、お尻を引いてしゃがむことで、
膝への負担を減らす
• 大きな動作を心がけることで、少ない回数でも効果的に筋肉を鍛えることができる
腕立て伏せ
• テーブルを使った腕立て伏せは、負荷の調整が可能。足を前に出すことで負荷を下げ、足を引くことで
負荷を上げることができる
• 胸がテーブルにつくまで下ろすことが重要
スロートレーニング
• スクワットや腕立て伏せを、ゆっくりとした動作で行うことで、筋肉に持続的な負荷をかけることができる
• 軽めの負荷でもよいので限界まで行えば、十分な効果が得られる
紹介した運動は局所的なものですので、全身の疲労は少なく、仕事中でも実施可能です。
筋トレを行うことでアドレナリンが分泌され、やる気が向上し、生活にも良い影響を与えます。
◎筋トレの際には呼吸に注意し、息を止めないようにすることを意識してください。
特に最後の1回は息を吐きながらやってみてください。
◎自分の体力に合わせて、無理のない範囲で行うことが大切です。
筋トレは、回数を決めずに限界の最後の1回まで全力で行うことが重要です。これは、脳がゴールを認識すると最後の1回を終える前に達成感を得てしまうため、最後の1回まで振り絞ることができず、‘’詰め‘’をしっかりする習慣をつけることができないからです。限界までやりきることが大切になります。軽めの負荷でも、限界まで行えば効果があり、筋肉がつきます。筋トレは速筋を使う運動であり、軽い負荷でも週に3回、30回を目安にやり切ることを意識すれば、効果があるとされています。
筋トレを行う際には、筋肉の膨張感(パンプアップ)を感じることが重要です。これは、筋肉がしっかりと鍛えられている証拠であり、筋トレの効果を実感するための指標となります。筋トレの際に感じる膨張感や熱感を、効果的なトレーニングの目安としてください。
また、筋トレ中の声がけとして「きつくても辛くない、きつくても楽しい」という言葉があるのですが、これは仕事にも応用できます。好きな仕事であれば「きつくても楽しい」と感じるはずです。
筋トレを始めるタイミングは「やろうと思った時がやる気のある時」であり、その瞬間を大切にしてください。明日やろうと思わずに、ぜひ思い立った時に実行してください。
<質問1>
ジムでの筋トレにおいて、週に2日、機械と回数を決めて行っておりました。回数を決めずに最後までギリギリのところでやめるというやり方は知らなかったです。そういったやり方もあるのだなと、非常によくわかりました。
<回答1>
回数を決めるのであれば、30回を上限にというのが標準的な考えです。負荷が少なすぎる場合にはボリュームが減ってしまうため、少なくとも10回、多くて30回。その範囲の間でやると筋肉の強くなり方、大きくなり方は、ほぼ変わらないと、さまざまな研究で示されていますので、自分の好みで調節して下さい。
またバリエーションを増やしていくと、新しい刺激が加えられます、筋肉の発達の一つのやり方にトレーニングを計画的に段階的に分け、最適なパフォーマンスを引き出すためのピリオダイゼーションという手法があります。要は引き出しを増やし、あんなやり方もある、こんなやり方もあるというように好みに合わせて楽しみながら飽きずに続けていく工夫が大切だと思います。
<質問2>
今日の筋トレの中で、腰痛持ちの人に対して、何かアドバイス・対策があれば教えてください。
<回答2>
腰痛対策として、炎症を防ぐために体をよくほぐすことが重要です。ラジオ体操のような動きが効果的で、痛みがない範囲で大きく動かすことが推奨されます。特に腰回りの小さな筋肉をほぐすために、最初に実践をした前後屈や横の動きを取り入れることが大切です。背筋運動も姿勢を支えるために重要で、背骨を大きく動かすことができます。動かさずにいることが最も良くありません。関節の中には血管がないため、動かないと循環が滞り、周囲の組織が強張ってしまいます。動くことでポンプ作用が働き、血行が促進され、関節内のヒアルロン酸濃度も上がります。
ただし、痛みを感じる動作は避けることが鉄則です。痛くない範囲で、ラジオ体操のような大きく丁寧な動きを繰り返すことで、少しずつ動ける範囲が広がっていきます。
<質問3>
座骨神経痛に効くようなやり方があれば、教えていただきたいです。
<回答3>
治療自体は、医師の先生とよく相談していただきたいのですけど、座骨神経痛は、背骨の後ろで神経が圧迫されているわけです。そのあたりをほぐしてあげると圧迫が減ります。圧迫が減れば炎症が抑えられますので、痛みは和らぐと思いますから、やはり先ほどやったようなラジオ体操みたいな動きというのは大事になってくるのかなと思います。
よく動けるようになれば、痛みがない姿勢を取れるようになるという要素もあります。この姿勢だったら楽だなという体勢があると思ですが、そういった姿勢が取れるように背骨周りがよく動くようにしてあげるというのも大事です。
そして理学療法士の方に『お尻周りの筋肉をほぐすようなストレッチを教えてください』と相談してもらえたら指導してもらえると思います。中殿筋・梨状筋のストレッチというのがよく行われます。座って足を中に持ってくようなことをすると、骨盤・股関節の奥にある筋肉がよく伸びてそこがほぐれるので、神経圧迫している部分が和らぐ、というやり方ですので、お尻周りの筋肉のストレッチをしてみてください。
<質問4>
数年前から毎晩ヨガをやっていますが、腹筋がつきにくく、おなか周りの脂肪が気になります。甘いものが好きなのですが、食べすぎなのでしょうか。お酒は飲みません。
<回答4>
甘いものを食べると血糖値が急上昇しやすく、それが内臓脂肪のつきやすさにつながります。太る・痩せる、は運動より「食事」の影響が圧倒的に大きいです。甘いものをどうしても食べたいときは運動直後に食べるのがおすすめです。
また、水溶性食物繊維(イヌリン、フラクトオリゴ糖など)を食前にとると血糖値の急上昇を防ぎ、糖がゆっくり吸収されることで、腸でブドウ糖に変わりやすくなり、中性脂肪になりにくくなります。
さらに、お腹が出ている人の多くは「お酒」が原因として挙げられます。アルコール摂取量と内臓脂肪の量には強い相関があります。「ハイボールは太らない」と言われますが、アルコール以外のカロリーが少ないだけで、アルコール自体が内臓脂肪にとって悪影響を及ぼします。「お酒は適量なら体に良い」という説も、研究方法の問題が指摘されており、基本的にはアルコールは一滴から体にマイナスと思っていただいた方がよいと思います。ただし精神的なリラックスなどのプラスもあるので、完全禁止ではなく「量を減らし、たしなむ程度に抑える」のが現実的な対策方法です。