行事報告

2025年09月04日 行事報告

2025年7月度関西地区社友会月例会

日 時 2025年7月9日(水)15:00~17:00
場 所 丸紅大阪支社(新ダイビル)31階大会議室
講 師 堺井 啓公 氏
(前公益社団法人2025年日本国際博覧会協会日本館担当局長兼儀典局担当局長兼賓客接遇官、
本年7月から独立行政法人経済産業研究所国際・広報ディレクター)
演 題 「コロナ禍の2020年7月より万博の準備に携わって(大阪・関西万博の最新事情とともに)」

◎講師略歴

1990年京都大学法学部卒業。1990年4月通商産業省入省。在フィリピン日本大使館(一等書記官・商務官)、宮城県庁(経済産業部次長)、内閣府地方創生(総括参事官)、経産省製造産業局、官民交流法によるAGC出向、独立行政法人中小企業基盤整備機構(理事)を経て、2020年7月より公益社団法人2025年日本博覧会協会に出向。2025年6月に出向を解かれ同年7月より現職。

◎自己紹介とこれまでの万博とのかかわり


講師の堺井啓公 氏

2020年7月万博協会出向。経産省では長くて3年、通常2~1年での異動が多く、満5年に及ぶ担当は万博という特殊事情あってのことと思っている。
1990(平成2)年旧通産省入省。在フィリピン大使館勤務時は丸紅さんともたくさんの案件をご一緒した。宮城県庁出向時は農林水産業、観光事業など産業プロジェクトを担当。東北楽天イーグルスの誘致を行い、県側のフロントを担当。経産省に戻り、旭硝子出向、薄板・太陽電池の営業や事業開拓室で新規ビジネス開発に取り組み、その後、中小企業基盤整備機構でモノづくりなどに携わった。

2015年のミラノ万博は、経産省博覧会推進室長として、日本館出展に関わった。ちょうど1年前、和食が世界無形文化遺産となっていて、食文化などで日本をPRした。東日本大震災復興支援を感謝するジャパンデーで、ねぶた祭りなど東北の10つの祭で演者30人ずつ参加。本物の日本の祭りの凄さを披露し、最大級の称賛を得た。
万博ではBIE(博覧会国際事務局)が審査員を擁して、パビリオンの規模ごとに金・銀・銅のメダル表彰を行う。ホスト国となる今回、日本は対象外だがミラノでもドバイでも日本館は金賞を受賞した。

◎大阪・関西万博との関わり

橋本大阪府知事(当時)が2025年の万博開催地の立候補準備を始めたのが、私が博覧会推進室長であった2013年。2018年11月の決定まで5年の準備期間であった。大阪出身でもあり、自ら志願して2020年7月、日本博覧会協会に着任した。
最初は広報戦略局長として、本格的な万博を実施する機運を盛り上げ、次に企画局長として、民間パビリオンや未来社会ショーケース事業など民間が参加できる仕組みを作った。そのプレーヤーが出揃ってくる中で、機運醸成局長に就任。地域・観光部長も兼務した。一番万博を活用すべきは開催地大阪だが、国家イベントでもあり、オール日本での参加を目指す活動に邁進。次に、担当局長(中小企業・地域連携)就任後は、中小企業が万博で自社の技術を世に出し、多くの人に伝えるチャンスとして、30~50㎡の場所を1週間借りて好きな展示ができる仕組み作りに関わった。大会場で全184日間展示すると1億数千万円かかるが、1週間であればコスト的にも可能で、出展風景を動画にとり、その後の営業に活用できるといった提案により出展促進をした。2025年4月に日本館担当局長兼儀典局担当局長兼賓客接遇官となり、日本館での接遇対応などに努めた。

◎開幕前、2020年から取り組んできたこと

来場想定者数が2,820万人で、内インバウンドが350万人。来場者全員が万博を楽しめる交通アクセス、セキュリティ・安全面など多様な業務があるが、私は基本的にコンテンツや企画の実現を担当した。また、経済効果も生み出せる万博のレガシー創りに取り組んだ。

―ロゴマーク、公式キャラクターミャクミャクや公式ソングを決定―

当初気持ち悪いと言われたミャクミャクが、キモ可愛いとなり、今や大人気。平面から立体になったらすごく可愛いと着ぐるみも好評。左右対称や幾何学模様を使うロゴマークが主流だった時に、既視感がなく、今にも動きだしそう、飛び跳ねそうというデザインが話題になった。

―ライセンス商品の仕組みを構築―

伊藤忠(2005年愛知博で実施)と電通(東京オリ・パラで実施)のジョイントベンチャーによるライセンスビジネス。これまでの例を踏まえて、開始前2割、開始後8割の売り上げを予想したが、今回は開始前からかなり売れた。開始後も好評で、当初想定の2倍くらいは売れるのではないか。最初にミャクミャクの基本形の認知を狙い、その後、色やデザインを変え、今は2,000種類を超える商品群となっている。ミャクミャク効果により機運醸成も図りながら、戦略的にもよい展開となった。

―万博観光ポータルサイト&デジタルトラベルゾーン―

旅行商品を販売する仕組み。長期滞在する訪日客も会場滞在は2日間程度であり、その他の日程で訪問しようとする日本の各地域の体験型旅行商品作りに取り組み、万博観光ポータルサイトを2024年4月に設置。また、会場内では疑似体験ができるデジタルトラベルゾーンを設置し、大きなLEDスクリーンに360度カメラで撮影した映像を投影し、あたかも現地に居るような没入感を感じられる。映像を見た後はVRゴーグルで、現地の景色を自在に体験する。全国の58の自治体から200余りの観光映像を集め、非有名観光地への訪問客を増やす取組みを実施した。

―参加型万博、チームエキスポ2025―

個人やグループで参加する仕組み。自分の掲げた未来社会を実現するために、自分はこうしたいという理想社会の有言実行プラン「共創チャレンジ」(約2,000件)が生まれ、「共創パートナー」(約400者)がそれを支援する仕組みとなった。会場でも発表の場がフューチャーライフビレッジに設けられた。

◎万博に対する世論の推移

―開催以前の状況―

2018年11月の開催決定時は、東京オリ・パラ開催前で、あまり注目されなかった。国のイベントであることは判るが、大阪で何かやるんでしょ、といった感じの捉え方。さらに2020年2月以降はコロナ禍の影響も受けた。経済界は当初2024年完成予定のIRのために整備した交通インフラを活用して2025年の万博を迎えるはずだった。IRは主導した議員の汚職事件などで批判にさらされたため2030年秋開業となったのは周知の事実。東京オリ・パラでは逮捕者も出て、国のイベントに対する批判が生まれ、万博運営ノウハウを持つ広告代理店などが入札停止となり、万博は国家イベントとして批判を受けることにならないようにコンプライアンスが厳しく問われることとなった。

―ドバイ博開催の1年半の遅れ―

万博は5年に1回開催され、自国開催までに5年の準備期間がある。通常春から秋の開催だが、ドバイは気候を考慮して秋から春の開催としたため、そもそも半年の遅れ。さらにコロナ禍の1年延期で計1年半の遅れとなり、実質準備期間は3年半となった。また、ドバイ博はコロナ禍での開催であったために日本からの訪問者が少なかったことから、多くの国民やマスコミが万博とは何かをよく知らないまま2025年万博の準備を進めていくこととなった。

―コロナ禍以降の経済状況・サプライチェーンの変化―

コロナ明け後も就労者が戻らず人の確保が困難。サプライチェーンの変化などによる物価高騰や、電気資材調達困難で電設事業者が工事を受注できない、といった状況が生まれた。2023年11月頃、会場建設費予算を1,850億円から2,350億円に、運営費809億円を1,160億円に引き上げた。東京オリ・パラには総額2兆円を要したが、今回は会場建設費2,350億円、運営費約1,000億円でトータル約3,500億円。桁が違うのだが、メディアからは予算引き上げばかりが取り上げられた。2024年4月に国や地元自治体が年度予算を確保した後に、非難の声は減少した。

―経済効果―

経産省は約2.9兆円の経済効果、大阪府は1.6兆円。民間のシンクタンク試算では全国で2.7兆円。6カ月184日間も開催するので経済効果も大きい。

―実際の来場者の傾向(個人的な印象)―

当初の入場者は、招待客や議員なども含めたお客様としての来場者が多く来訪。GWまでは首都圏の来場者が多かったよう。GW以降は大阪や関西圏のシニア層が、平日を含め、たくさん来場している。来場者が増えるにつれ評判も上昇。万博は終盤に向けて来場が増える傾向にある。夏休みに入り、秋に向けて、と今後人出が増えることが想定され、協会も対応策を取っていくこととなる。

◎大阪・関西万博の見どころ

―いのち輝く未来社会のデザイン―

未来社会の実験場として、随所でワクワクする体験ができる。158の国と地域、7つの国際機関が参加。参加国も未来に向けて何を打ち出そうかと本気で取り組んでいる。
約120の建物は建築を見るだけでもユニーク。海外パビリオンで食事もでき、万博にくるだけで世界旅行ができるところも魅力。

―シンボル:大屋根リング―

世界最大の木造建築物としてギネス認定された。多様でありながらひとつの概念を表すシンボル。貫(ヌキ)接合は神社仏閣で使われてきた古い工法で、木の良さを打ち出している。30mの幅があり、雨対策は風向きによるが、暑さ対策としては日陰となり、海沿いの風も吹くので涼しく、リング下は癒しの場所として好評を得ている。低いところで12m、高いところで20m。コンパクトに会場が見下ろすことができ、リングの上から見る景色は素晴らしい。
一周2キロを3つに分け、会場内工区と同じゼネコン(竹中、大林、清水建設)が担当したが、素晴らしいリングを作っていただいた。ちなみに最終工程で接合の必要があるわけで、よく見ると接合部分が判る場所もある。

◎パビリオンの見どころ

例:日本館
インダストリアルデザイナーで、東京オリ・パラの聖火台をデザインした佐藤オオキさんが総合プロデュース。循環がテーマ。モノを創りだし、ゴミになり、そのゴミからエネルギーや水を作り、その水から微生物を介してプラスチックや油といった素材を作る過程をリアルに見せている。
例:サウジアラビア館
次の2030年開催国として気合が入っている。国を開く目標が決まり、その延長線上で万博誘致も決まった。中東初の開催国としてドバイ万博が大成功したので、兄貴分であるサウジも負けてはおられずといった感で、今回も文化や価値観を打ち出している。

その他、詳細な配布資料に添って各館の特長や魅力を説明いただき、講演を終えた。

【質疑応答】

<質問1>
会場が広く日陰も少ないように感じるが、高齢の親を連れていく時の対策はあるか。

<回答1>高齢者用に相当数の車いすを用意している。公共交通機関で来場し、会場内で車いすを利用していただける。歩けるところは歩いていただければよい。特に海外パビリオンなど、車いすやベビーカー利用者が優先入館できるメリットを活用できる。
また、各パビリオンの入口は大屋根リングのすぐ内側に置く設計にしている。中国など中央区域のパビリオンは無理だが、基本はリング内を通行し、各パビリオン前から入館することで暑さを避けられる。その他、日傘を貸し出すなど各パビリオンも対応している。

<質問2>
準備段階のご苦労から現状までを丁寧にお話いただき、感謝している。万博を今後の大阪経済や日本経済の発展に役立てたいと考えている。また、空飛ぶ車ではご心配おかけしたが、早ければこの週末からデモ飛行を再開できる目途となっている。
質問は、前例のドバイ万博をどのようにレビューして今回の万博に臨まれたかを伺いたい。

<回答2>
ドバイと今回は立地条件や環境がかなり異なる。その前のミラノも同様で、万博を機に交通インフラを備えた新しい街を作り、その後も継続使用する方針だったが、大阪・関西万博は、閉会後は更地にして返却し、人の居住地域にはできないという点が大きく異なる。
また、ドバイ万博の終了後、開幕まで3年半しかなく、十分なレビューができないまま準備をスタートした。ミラノや上海もレビューはしたが、同様に基本的状況が異なる。
ドバイではUAEが建てた建物の多くが残っているが、例えば、大屋根リングはどこを残して、どう使うのか、これから知恵を出していく。民間事業者に手を挙げてもらい、活用を検討する。本来は、開業前に十分議論し、候補者がどう投資し、どう活用するかを事前に議論できればよかったが、時間の制約があった。今後、閉幕までの3カ月で検討するが、良いプランが出て、それを組み入れた跡地開発に取り組めることを期待している。IRの開業もあり、エンターテイメントで集客できる島、という今後の新しい概念にも期待するところ。

<質問3>
詳しいご説明を有難うございました。私自身、既に8回会場を訪れ、パビリオンも残り6つを残すのみだが、万博の大成功を確信している。その中で感じる2つの改善点は、Wi-Fiが通じないエリアについて。デジタルをテーマとする会場としてインバウンド来場者の便を考えると残念。2点目は、会場には立ち入り禁止の場所があるが、案内図には記載されていない。場所を明記しておけば場内移動に便利になると感じるが、如何か。

<回答3>
かなり効率的に回られたと驚いている。多くを体験した方の感想を直接伺えることは有難い。Wi-Fiは、正直十分な経費をかけていない結果と言えるかもしれないが、一方で、訪日客の要望や苦情はあまり届いていない。外国客の楽しみ方として、入場パスで入り、自由に楽しんでいる人が多いのかもしれない。
立ち入り禁止区域とは各館の裏側にある管理道路、裏動線のことと思う。その地域を案内マップに表示した方が便利ではないかというご意見、参考にさせていただく。

(関西地区幹事)


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