6月度月例会では、株式会社テレビ東京ホールディングス会長の石川一郎氏をお迎えし、「奇妙な安定はいつまで続くか-石破政権と世界の中の日本の存在-」と題したご講演をいただきました。
冒頭、石川氏はご自身の経歴や、新聞社・テレビ局での経験をユーモラスに語られ、メディア業界を取り巻く環境の変化にも触れられました。
日 時 | 2025年6月26日(木)15時~16時30分 |
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場 所 | 丸紅本社(竹橋)4階04A02会議室 |
講 師 | 石川 一郎 氏(テレビ東京HD代表取締役会長) |
演 題 | 奇妙な安定はいつまで続くか-石破政権と世界の中の日本の存在- |
石川氏はまず、アメリカが依然として経済・軍事の両面で世界の超大国であることを強調。トランプ氏の再登場が国際社会に与える影響について、「トランプ氏は交渉の場で相手を混乱させることを重視し、国際協調が難しくなっている」と解説されました。
また、アメリカ社会の分断やポピュリズムの背景として、没落した白人中産階級の「被害者意識」が強くなっている点に言及。トランプ現象は、こうした層の不満や反発を巧みに取り込んだものだと分析されました。
中国については、国際秩序の変革を目指し、国際調停院制度の創設など新たな枠組み作りを進めていることを紹介。中央アジアへの進出や、習近平政権内部の不安定化の兆しにも触れました。
ロシアについては、ウクライナ戦争で中国に依存しつつも、両国の関係は必ずしも盤石ではないと指摘。北朝鮮はロシアと急速に接近し、兵器・技術協力が進んでいることから、日本の安全保障環境が一層厳しくなっていると警告されました。
韓国社会における「被害者意識」の強さについても解説。兵役制度による男女間の格差や、地域・世代間の分断が社会の原動力となっている現状を紹介し、「韓国では被害者意識が政治や社会の大きな力になっている」と述べられました。
現政権(石破政権)については、「首相は権威主義的ではなく真面目な人物だが、リーダーシップや政局対応力に課題がある」と率直に評価。
政治資金問題や年金制度改革などに対する国民の関心や怒りの薄さと、不健全な政策決定プロセスに警鐘を鳴らされました。
また、参議院選挙の見通しについて、首相は「与党50議席が勝敗ライン」と言っているが、ギリギリの結果でも辞任はしないだろうとの見方を示されました。
経済面では、トランプ政権の「製造業回帰」政策は現実的には難しく、日本の造船業や鉄鋼技術には今後チャンスがあると指摘。労働力不足やロボット技術の活用についても課題を挙げられました。
石川氏は、昨今のメディア業界がガバナンスやコンプライアンスの強化を求められていることに言及し、きちんと脇を締めていかないと権力に付け込まれると指摘。
さらに、業界内の不祥事が社会からの信頼を傷つけている現状を率直に語り、そうした中でテレビ東京としては経済報道やアニメなどを柱に他局があまりやっていないオリジナリティーのある独自のコンテンツを強化する戦略を進めていると説明されました。
具体的には若手社員による議論を経て策定した「テレ東ビジョン2035」と題した中長期経営計画を紹介し、テレビ東京として10年後に目指していく強化分野やグローバル展開、AIなどの新技術の活用などについて説明されました。
Q1. 造船業の今後について
アメリカの製造業衰退に関連し、日本の造船業の今後のチャンスについてご意見をお願いします。
石川氏: 日本の造船業についての情報はあまり持っていないのですが、高い技術力を有し、特にLNG船などで優れた実績があるものの、中国の台頭と労働人口の減少や業界の集約化で厳しい状況が続いていると認識しています。しかし、海軍を支えてきたアメリカ造船業が衰退する中で、さすがにアメリカは軍艦を中国に発注できませんから、日本の造船業には今後チャンスがあると思います。人材不足にはロボット技術の活用など新たな工夫が必要ですが、現状では十分な動きが見られない点が残念です。
Q2. 参議院選挙の見通しと今後の政局
参議院選挙後の政局についてどうお考えですか。
石川氏: 与党が50議席を超えるのは簡単ではないと思います。しかし先ほども申し上げましたが、ギリギリの結果でも石破首相は辞任しないだろうと思います。次のリーダー候補として高市氏、小林氏、小泉氏らの名前があがっていますが、現状では石破氏続投の可能性が最も高いのではないでしょうか。大連立の可能性は昔の小沢一郎氏がやったような根回しのできる政治家がいればですが、いないような気がします(選挙戦が進むにつれ自公の不振が予想以上で、石破政権の存続にも黄信号が灯りはじめています。7月16日記)。
Q3. NHKの森友報道
NHKがこの時期に森友問題を大きく取り上げて報道していました。これについてどうお考えですか。
石川氏: 残念ながらその番組は見ていません。
森友問題は安倍元首相が自分が関係していたら議員を辞めると発言したことから大きくクローズアップされましたが、基本的には財務省のミスから始まった話だと思います。しかし安倍氏にとっては桜を見る会の問題の方がきつかったのではないかと私は考えています。