行事報告

2016年02月18日 行事報告

関東地区2月度月例会

日 時 2016年2月18日(木)
場 所 丸紅東京本社16階講堂
講 師 平尾誠二氏
演 題 「ラグビーに学ぶ、リーダーシップと強い組織づくり」

 今回の講演会では、高校、大学、社会人、そして日本代表と、ラグビーの名選手として活躍され、現役引退後は、日本代表の監督を経験、現在は、(株)神戸製鋼所ラグビー部ゼネラルマネジャーとして、ラグビー界に貢献するほか、中教審の委員をされるなど、ラグビー界を超えた活躍をしておられる、平尾誠二氏を講師としてお招きし、ラグビー人生を通じて培われた、リーダーシップと強い組織づくりに関するご持論を大いに語って頂きました。会場には多くの社友が集まり、同氏の軽妙かつ興味深いお話に熱心に耳を傾けていました。


 平尾氏が神戸製鋼に入社された、1986年頃、同社と丸紅は、年1回ラグビーの定期戦を行っていました。最初の頃は、同氏にとっても、試合前に多少興奮を覚えるほど、両社は好い勝負をしていたそうです。ところが、2-3年もすると、大きな実力の差が出るようになり、その後、神戸製鋼が日本選手権で7連覇を果たすなど、実力の差は如何ともし難く、そのうち、丸紅にとっては、定期戦も「夢のまた夢」ということになりました。


 昨年英国で行われた「ワールドカップ2015」で日本代表チームが大活躍をしたことで、以来、空前のラグビーブームとなっています。平尾氏によれば、元々、ラグビー人気は相当なものだったのですが、Jリーグのスタートでサッカー人気が高まって以来、長らく低迷状態が続いていたというのが実情だったそうです。その昔、ラグビー界はアマチュアリズムを徹底、テレビ、雑誌に露出することも、ラグビー協会の厳しい監視下に置かれており、平尾氏にしてみると、現在のように、選手がテレビのバラエティ番組に出演したり、雑誌で自由にコメントしたりというのは、まさに隔世の感があるとのことです。


 平尾氏から見て、現在の選手は、みんな真面目。よく練習もし、身体的にも節制に心がけているのですが、一方で、反骨精神に乏しく、叱られ慣れていないので、ちょっと怒られると無気力状態に陥る選手すらいるそうです。これは、家庭内で、父親が威厳を示すことを忘れ、父性が喪失しているせいではないか、つまり、父親まで息子の友達となってしまい、かつ子離れ出来ない親が多くて、甘やかし過ぎるために、子供が理不尽な状況に弱くなっているのではないかと考えられるとのこと。子供の周りがすべて友達ばかりとなってしまって、多様なる人間関係に乏しく、人間としての成長が阻害されているのではないかと問題点を指摘されました。


 日本代表チームのヘッド・コーチだったエディー・ジョーンズ氏。彼は、マネジメント力、コーチング力に優れ、世界的ネットワークも持っている名コーチでしたが、それに加えて、自身が日系2世の母を持つクォーターであり、奥さんも日本人であるということで、日本文化に精通しているという強みを持っていたと言います。それでも、世界一のハードワークを4年間続けられたのは、日本語が読めなくて、不評が全然気にならなかったということに加え、やはり日本人が我慢強い民族であったという要素も大きいと考えられるとのこと。日本代表の岩渕GMが、そんなエディーの指導法を見て、「新しい(科学的な)大松方式」であると呼んだそうです。日本のスポーツ界では、ある時期から、スポーツの近代化が唱えられ、練習も「量より質」、効率性、主体性、自主性を重んじるという方針の下に、選手の甘えや言い訳も生まれて練習量が減りました。その結果、80年代の弱体化と低迷にも繋がりましたが、アテネ・オリンピック以降、例えば、シンクロの井村コーチやソフトボールの宇津木監督に見られるような大松方式の復活により、徐々に結果が出るようになりました。これには、先ずは女性の忍耐力が功を奏したと思われますが、現在は、それが徐々に男性陣にも浸透しつつあり、その結果が、ゴルフの松山、テニスの錦織、スケートの羽生などに見られる、昨今の男子選手の活躍に繋がっていると考えられるそうです。「質プラス量」、これが、現在のスポーツ界における練習のトレンドであるようです。
 平尾氏ご自身、多くのリーダーの指導を受けて来られましたが、各指導者に共通するのは、みんな理不尽であり、自己中心的で、強い意思を持っていたということだそうです。そんな理不尽な指導者であっても平尾氏が付いていったのは、それぞれに、人間性や愛情、求心力が感じられ、夢や淡い期待を持てたからであると言います。


 平尾氏のプレーを、最初「オモロくない」と評した、同志社大学の岡仁詩監督。顔に大けがしても退場を許してくれなかった、伏見工高の山口良治監督。二人とも、今思えば、とんでもなく「理不尽」でした。山口監督とは今も食事をしながら、昔の理不尽ぶりを話しすることがあるそうですが、そんな話の出来る人、二人しか知らない話をたくさん持っている人は、人生の豊かな人であると言います。父親として、過去の栄光ではなく自分が経験し克服してきた「散々な話」を息子にすること、これは息子にとって最大の教育です。若い人の教育も同じですが、最近は、パワハラとか言って、理不尽なことは毛嫌いされ、若者の指導も難しくなったと言います。でも、正論を強い意志できちっと語ることは、とても大切なことです。それが個人を育て、ひいては、集団の力、組織力となります。平尾氏は、それが日本人のメンタリティ、DNAになっていると思うと熱く語り、今回の講演を締め括りました。


 講演後の質疑応答では、2019年のワールドカップにおける日本代表の展望について、主力選手の年齢を考えると、あまり楽観的にはなれないと、やや残念なコメントをされました。次回も日本代表の大活躍を期待して、継続的に応援していきたいものです。




(文責:市村 雅博)


ご講演を頂いた平尾誠二氏が、10月20日に急逝されました。
丸紅社友会を代表して、心より哀悼の意を表します。
                                            2016年10月21日
                                     丸紅社友会代表幹事 坂本 仁司


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