日 時 | 2015年2月16日(月) |
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場 所 | 丸紅東京本社16階講堂 |
講 師 | 渡部潤一氏 |
演 題 | 「宇宙生命は存在するか?~天文学からのアプローチ」 |
2014年度最後の講演会は、東京三鷹にある、国立天文台の渡部潤一教授(副台長)をお招きして、意外と身近にある天文学に関する話題に加え、「宇宙生命は存在するか?」という壮大なテーマについて、分かり易くお話し頂きました。総合商社とは一見縁遠いテーマにも拘らず、2月とは思えない暖かい日、100名を超える社友にお集まり頂き、会場は大盛況でした。
講演は先ず、先生のユーモア溢れる自己紹介から始まり、次いで、身近に潜む天文学的事象として、曜日の名称が天動説に由来することや、時計が右回りとなった由来などについても楽しく解説して頂きました。
2013年の秋、月と同じくらい明るく輝くであろう「アイソン彗星」の地球接近という、稀代の天文ショーの実現が報じられ、これには天文ファンならずとも大いにワクワクしたものでした。ところがご承知のとおり、この彗星はショーの途中、太陽に最接近した際にバラバラに崩壊し、最終的には蒸発、消滅してしまうという結果となってしまいました。当時、専門家としてテレビ等にひっぱりだこだった先生は、講演の中でこのエピソードにも触れられ、天文学の分野では、ことほどさように、予測不能なことが起きることもしばしばで、まだまだ分からないことがたくさんあるのだと語られました。
その後、本題に移ります。「地球外生命は存在するか?」この問いに対して、先生は、「存在する」と楽観的に語ります。生命を育む材料は、水とタンパク質ですが、その原料である水素、酸素、窒素、炭素などが星の中で作られ、それらを含め、超新星爆発によってさらに多くの元素が、生命の材料として宇宙にばらまかれました。言ってみれば、我々人類を含め、すべての生命は星のかけらから成るという、とてもロマンチックな話です。宇宙に水はたくさん存在しますが、生命が存在する条件である、液体の状態で水が存在するためには、気温や気圧に一定の条件が必要です。太陽系の中でその条件を満たす星は地球だけなので、太陽系では人間のような生命体が存在する星は他にないというのが一応の結論ですが、逆に、太陽系以外の宇宙では、知的生命体が存在する可能性のある星は無数に存在するというのが先生のお考えです。その確率は一説では0.1%。ごく低い数字のようですが、この宇宙には天の川だけでも1,000億個の星がありますから、それだけで、地球のように海のある星が1億個以上ある計算となり、広い宇宙のどこかで人間に近い生命体が存在する可能性は大いにあると言えます。
国立天文台は、ハワイの標高4千mを越えるマウナケア山頂で口径8mのすばる望遠鏡を運用しており、2008年には、太陽系外惑星の直接撮影にも成功しましたが、これでは、まだ生命体の存在を明確に断言するところまではいかないそうです。現在、国際協力プロジェクトとして、2021年度稼働を目指して直径30mの次世代超大型天体望遠鏡の建設計画を進めており、これが完成すると、地球外生命体の存在を証明する、より明確な証拠が示せるものと期待されているそうです。
ちなみに、地球外生命体に対して手紙を送るという試みは40年以上も前に実施されましたが、当時の方法では返事が来るのに早くとも4万7千年掛かるということでした。現在ならかなり送信先を絞り込んだ発信が出来るので、40~50年で返事が来る可能性もあるとのことです。ただ、仮にそのような知的生命体が存在したとしても、文明の発展段階が地球人類と同じレベルにあるかどうか、保証の限りでないと言えそうです。
天文学者はこのように宇宙生命体の存在に楽観的ですが、生物学者の一部は否定的だそうです。それは、生命が発生したとしても、それが地球上で起こったような形で文明として発展している可能性は限りなく小さいというのが生物学者の一般的な考え方なのだからだそうです。
先生は、講演の最後に、都会でも空を見上げればたくさんの星が見えるので、ぜひ夜空を見上げて欲しいと仰っていました。普段あまり意識しないロマン溢れる悠久の世界、空間的にも時間的にも感じるスケールの違いなど、宇宙生命の存在に想いを馳せながら、謎に満ちた夜空を見上げるのもきっと楽しいに違いないと思わせる、本日の先生のお話でした。
(文責:市村 雅博)