行事報告

2015年11月27日 行事報告

中部地区10月度月例会

日 時 2015年10月27日(火)12:00~
場 所 名古屋支社 9階会議室
講 師 山澤文裕氏 医学博士 丸紅本社産業医 国立スポーツ科学センター
メディカルセンター非常勤医師
演 題 「ドーピングとロコモ症候群」

 今回、講師としてお招きした山澤文裕氏は、当社東京本社診療所にて20年以上にわたり常勤産業医をして来られる一方、ドーピング問題の世界的権威として、2000年シドニーオリンピック(マラソンで高橋尚子さん優勝)、2003年世界陸上パリ大会(200m走で末續慎吾氏3位、マラソンで千葉真子さん3位)、2004年アテネオリンピック(マラソンで野口みずきさん優勝)などに同行、各選手の医療管理に尽くして来られました。 今回は、社友会会員14名と矢部支社長以下現役4名の参加となりましたが、講演の内容に通常我々の知らない裏話などもあり、参加者の皆さんは、大変熱心に耳を傾けていました。


講演の概要


1. スポーツに於けるドーピング


 ドーピングの語源は、南アフリカのカフィル族が祭礼や戦闘の際に飲む酒dopに由来。 ドーピングとは、病気治療のために開発され使われるべき薬物を、競技力を高めるために不正に用いたり、それらの使用を隠ぺいするために薬物や方法を用いたりすること。
 スポーツ界では、過去に短距離のベン・ジョンソンが使用し、優勝のタイトルをはく奪された結果、カール・ルイスの優勝に変更となったり、女子円盤投げや、同じく女子砲丸投げの記録の変遷を見ても、1987、1988年以降、記録が落ちている。その理由は、1989年ベルリンの壁崩壊後、それ以前はドーピングをしていたのが、予告なしで競技会外での検査が実施されるようになったこと。特に女子にドーピングが多いのは、薬物による効果が高いためとのこと。陸上女子短距離のフローレンス・ジョイナーが若くして死亡した時、ドーピングの副作用が疑われたが、解剖の結果、脳腫瘍が見つかり、けいれんによる窒息死と判明した。ドーピング検査で黒と判定された場合、4年間出場停止となるなど、厳しい措置を受ける。 2014年は、検査数283,304検体で、違反が3,113検体(1.1%)、日本では、6~10件。ドーピングの方法として、


 (1)  薬物


短期的 興奮薬、麻薬
中・長期的 蛋白同化薬(筋肉増強剤)ペプチドホルモン、血球ドープ

 マリオン・ジョーンズの場合、2007年10月5日、1999年からドーピング(”Clear”THG,、成長ホルモン・ペプチドホルモン、エリスロポエチン・ペプチドホルモン)をしていたことを告白、大陪審での偽証で有罪となり、2000年9月以降の記録抹消、賞金返還、シドニー五輪での5個のメダルはく奪、2008年3月に収監、9月5日出所。男子短距離のジャスティン・ガトリン(アテネオリンピック100m金メダル、2005年世界陸上100、200m金メダル)も、テストステロンとエピテストステロンが同量入ったクリームを塗布、2008年スポーツ仲裁裁判所にて、4年間資格停止が確定(その後、2年間に短縮)。


 (2)  隠ぺい工作:尿の細工、置換、希釈、排せつ抑制物質の使用


 “隠ぺい工作”では、アテネオリンピックのハンマー投げで、金メダルの選手が尿のすり替え器具を使い、2位の室伏広治氏が金メダルとなった例もある。自転車のアームストロングは、悪質なドーピング違反があったとして、1999~2005年に亘る7連覇のタイトルはく奪と永久追放の処分を受けている。


 (3) パラ・ドーピング:競合する選手に、こっそりと禁止薬物を飲ませ、失格に追い込むという卑劣な行為


 ドーピングの話はさておき、山澤先生によれば、陸上競技で失格となるフライングについて、近年、その取扱いルールが非常に厳しくなっており、短距離の場合、スターターのピストルの後、0.19秒以前にスタートした場合には、スターティング・ブロックがそれを感知し、1回で失格となる。人間の反射能力では、そんな早い反応はあり得ないという考え方とのこと。


2. 健幸華齢


 日本の人口は、2008年の1億2,808万人がピークで、2060年には8,674万人に減るだろう。


 ・平均寿命と健康寿命


男性 平均寿命 79.55年 健康寿命 70.42年
女性 平均寿命 86.3年   健康寿命 73.62年

・健康寿命


 平均寿命のうち、心身ともに自立した活動的状態での生存期間。平均寿命から、衰弱・病気・痴呆などによる介護期間を差し引いた寿命のこと。人は60兆個の細胞を持ち、1日のうちに細胞は約1兆個生まれ変わる。そのうち、5,000個は「がん細胞」。ナチュラルキラー(NK)細胞は、血液の中に存在し、体中を常に駆け巡り、ウィルスやがん細胞を撃退する。体を守る免疫機能を司るリンパ球の一種。このNK細胞活性は加齢で低下する。これを低下させないようにするには継続した運動習慣を持つこと。それによって、細胞活性が増加する。


・健幸華齢の勧め


“いい人をやめてすっきり長生き”、楽観的に考え、気遣いをし過ぎない、自分のせいにしない、運動はちんたら楽しく友人と。


・飲酒量


日本人にとっての適量
 純アルコールに換算して、日に23g、ビール大瓶1本(633ml)、日本酒1合(180ml 21.6g)、ワイングラス2杯(約240ml)、 週に換算して、約150gまで飲める。
休肝日を1週間に2日以上を設け、多少のリスクを受け入れるとしたら、300gまでを上限とする。


3. ロコモ症候群


 ロコモ症候群、正式には、ロコモティブ症候群、ロコモティブ・シンドロームとも言う。加齢により、骨、関節、筋肉などの運動器の働きが衰え、暮らしの中の自立度が低下し、介護が必要になったり、寝たきりになる状態のこと。ロコモ症候群の原因は、


  1. バランス能力の低下―加齢による運動器機能不全
  2. 筋力の低下
  3. 骨や関節の病気

若返りに努力することが肝要


 講演後の質疑応答では、「足のしびれ(狭窄)があるが、急速に進む恐れがあるか」との社友からの質問に対し、「薬を飲むこと、オパルモン等の鎮痛剤が良いのでは?」との回答をされるなど、ひとつひとつの質問に丁寧にお答え頂き、大変ためになる講演会となりました。


(文責:龍田 陽)


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