行事報告

2014年02月13日 行事報告

関西地区2月度月例会

日 時 2014年2月13日(木)
講 師 丸紅経済研究所 所長 美甘哲秀 氏
演 題 2014年の世界経済を読み解く
場 所 丸紅大阪支社2階講堂

◊ 世界経済
 世界経済の今年の特徴、第一は、今年の成長は昨年対比若干アップの3%半ばになりそうだ。第二は、今年に入りFragile5(インド、トルコ、ブラジル、インドネシア、南ア)を中心に新興国に元気がなくなってきている点で、第三は、先進国、とりわけ米国、日本、独は比較的良好な状態である。尚、2000年以降開いてきた先進国と新興国の成長率ギャップは縮小傾向にある。


◊ 先進国経済
 (1)先進国の経済成長率
 米国では家計の純資産が増加し始めており3%近い成長が期待出来そうだ。日本では2003から2007年頃の平均成長率とほぼ同様のレベルと見られる。ユーロ全体ではまだまだながら独が2%弱の安心出来る範囲にある。従い、先進国はまずまずの状態と言える。
 (2)先進国の株価とデフレの継続
 先進国の株価はリーマンショックの下落以降、各国が非伝統的な金融政策などを講じてきた結果、トレンドとしては上昇しており米国、日本、独共に良い方向へ向かっている。ただ一方で、問題点はデフレの継続で実質金利の上昇傾向を招いている点である。
 (3)先進国の長期金利
 米国では、ここにきて金融緩和縮小の観測から国債価格は下がり、長期金利は上昇傾向にある。日本の長期金利は下落傾向が続き、暫くはこの状態が続くとマーケットは見ている。
 欧州では、2009年以来重債務国の信用力低下が国債の金利上昇を招いてきた。ここにきて若干落ち着いてきたとはいえ抜本的な問題解決は出来ていない。


◊ 新興国経済
 (1) 新興国の経済成長率
 中近東、アジア、中国、中南米を見るとこれまでの実績からするとやや物足りない成長率となっている。その中で、アフリカとアセアンの2つの地域は他と違って比較的好調であり、我々はアフリカマーケットの開拓とメコン地域に経営資源を配分しようとしている。
 (2)新興国の株価と資源価格
 新興国では全般的に見て2011年を境にして成長が鈍化し始め株価は勢いが鈍く、これが商品市況に反映され資源価格は下落している。このような背景の中で、弊社も資源に偏重しない経営へと転化してきている訳である。
 (3)Fragile5がキーワード
 今年に入ってアルゼンチン・ペソの下落を発端に始まった新興国の通貨下落の背景の一つは米国の金融緩和縮小の動きで、この動きが資金の引き揚げに繋がり新興国に流れていた資金が先進国に戻ることをマーケットは懸念し始めている。一方、新興国では通貨も2011年を節目に下落し始めており、Fragile5やアルゼンチンのような経常収支が赤字の国や成長期待のあった国からの資金引き揚げはこれらの国々の通貨を一層弱めることとなり、Fragile5の問題は今後の世界経済の鍵を握るキーワードとなる。
 (4)Fragile5の対応策と影響
 経常収支の赤字や通貨の下落の対応策としてFragile5では相次いで利上げを断行している。

 しかし、この防衛策はこれらの国々の経済成長を押し下げる要因となり要注意。1997年7月に始まったタイ・バーツ切り下げはアジアの通貨危機の発端となり伝染効果が非常に大きかった。しかし、この頃とは環境が異なり経常収支黒字の基礎体力のついた新興国が増えていることもあり、今回の通貨下落の影響が新興国全体に伝染することはないと見ている。

 (5)Fragile5を中心に、大統領・議会選挙が多い年
 今年はFragile5全てとタイで選挙が実施予定となっている。選挙の実施は、政治的不安定を招き大衆迎合的な政策がとられ易く政策決定に時間がかかるため経済面への影響が大きく懸念材料となる。


◊ 日本経済
 (1)日本の生産活動
 日本の生産活動は、リーマンショック後、2011年3月の大震災及び2012年春の景気後退を経験し、2012年末に底打ちし約1年景気回復軌道にはあるがまだレベルは低い。とはいえ、方向は、回復方向にある。
 (2)日本経済の持続的成長に必要な第3の矢
 アベノミクスに依る金融政策や財政政策は共に即効策が効いていると判断出来る。しかし、今後持続的成長を遂げる為には第3の矢・成長戦略が必要となる。円安に依る価格面での水膨れ状態は終了し輸出数量を増やし収益を上げる真の実力が問われる訳で、企業に対して規制緩和をして自由な創意工夫をもったビジネス環境を提供する政治的意思・戦略が必要となる。このことが失われた20年を取り戻す一つの手段になる。
 (3)アベノミクスのポイント「2%インフレ設定」の意味と実施効果
 アベノミクスが効果を上げると長期金利が上がることになる。その場合、如何にして実質長期金利を引き下げるかが鍵となる。その為にはインフレを起こすことが必要になる訳で「2%インフレ設定」の意味はここにある。自己実現的な景気回復が望ましい訳だが、消費税増税など景気下押さえ効果も出てくるからベストシナリオと中立シナリオの中間あたりになるのではないか。消費税増税は致し方ない面もあるが余り大きな問題にはならないと考える。
 (4)金融政策において日銀が果たす役割
 日銀総裁は、2%の物価上昇を達成するまでマネタリーベース(日銀が市中銀行に提供する日銀券の残高)を増やす金融政策を続けるとコミットしておりマーケットに安心感を与えている。ここにきて米国のFRBも同様の方法を採ろうとしている。
 (5)日本の貿易収支は赤字、経常収支も減少傾向へ
 今や日本は11兆円の貿易収支赤字を出す国なっている。輸出では自動車や電気機器の減少が目立ち輸入ではLNGや通信機などの増加が目立つが将来黒字になるのか気がかりだ。経常収支も減少しており所得収支に期待をするしかないような状態になっている。
 (6)成長戦略の注目ポイント
 規制改革は必要で、過去の大店法の撤廃や携帯電話の自由化にその成功例が見られる。社会保障費は現在年間100兆円になり年1兆円の自然増が見込まれるが、将来の長期金利の上昇リスクなどを考えると費用の抑制や制度の見直しが必要と考える。


◊ リスク要因
 世界経済のリスク要因として次の二つが挙げられる。先ず、米国の金融緩和縮小(tapering)の影響は、米国よりもむしろ新興国に対しての影響の方が大きいと考える。
次に、中国において理財商品の償還が返済出来ない事例が相次いているが、それに伴い金融機関の不良債権問題が浮上してきており留意すべきと考える。




(文責:羽場 知廣)


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