日 時 | 2014年5月13日(火) |
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講 師 | 追手門学院大学客員教授 児玉光雄 氏 |
演 題 | 「人生を豊かにする思考法と健康法」 |
場 所 | 丸紅大阪支社2階講堂 |
私は昨年まで唯一の国立体育大学である鹿屋体育大学(鹿児島県)でスポーツ臨床心理学の教授として、一流アスリートの心理行動パターンを分析してきました。この大学ではインター杯で好成績を残し、将来をそれぞれの種目で日本を代表すると期待できる学生をあらゆる角度から育成していくことを目的の一つとしております。
そこで「トップアスリートに学ぶモチベーションアップの秘策」について前半お話します。彼らは次の5つのポイント全てを兼ね備えていないとその分野での頂点には立てません。彼等の発言を参考までに述べますと、
1) 持続力
「僕を天才という人がいますが、僕自身はそう思いません。毎日血の滲むような練習を繰り返してきたから、今の自分があると思っています。僕は天才ではありません。天才とは努力もせずある時突然に周囲の人々をびっくりさせることを思いつく人で、自分はそうでない。」とイチロー選手は言っています。イチロー選手には野球の才能があったことは事実ですが、それ以上に努力したことが花を咲かせたことになったと考えています。
また、ハンマー投げの室伏選手は「メダルの色は何色でも、重要なのはそこに向かって努力していくこと」を言っています。彼は金メダルではなく日々努力することを目標にしています。漁師のところで網の投げ方を何度も教わったり、京のお茶屋で扇子の投げ方を教わったりしながら、独創的な投げ方を考えて自分に納得した練習をしてきた結果だと思います。
2) 没頭力
水泳の北島康介は「目標は簡単に叶えられないくらい高く設定する。その時々の自分が抱ける最大限の夢や理想を目標にすると言ってもいいかもしれない」と言っています。彼は小さいときから大風呂敷と言われ、到底達成出来ない目標を立てて練習をしていた。常に目標を立てて練習に没頭していたそうです。その目標の水準ですが、低過ぎても高すぎてもダメで、達成確率60%位であればモチベーションを継続して高めることが出来ると考えられています。
3) 執着力
サッカーの長友佑都は大学3年生でやっとレギュラーになり、それから大いに活躍しました。「自分のベースにあるのは、反骨心や向上心だと思います。それがなければ、長友佑都という選手はいない」と言っています。高校3年生の時にインター杯決勝で敗れましたが、その時に母親に渡した手紙には「母親一人の力で子供3人を大学に行かせてくれてありがとう。必死に頑張るお母さんの背中を宝物に思います。お母さん本当にありがとう」と言う内容でした。自分のために頑張るには限界がありますが、自分以外の人のために頑張ることは大きなエネルギーとなります。周囲の人々を喜ばせたいと言う気持ちが重要だと思います。
4) 夢実現力
サッカーの本田圭祐は「みんなが嫌がることもやれるし、夢のためにやりたいことも我慢できる。それを本当に徹底していて、あとは人よりも思いがちょっと強いだけ。その差が結果に現れたりするんですよ」と言っています。彼は小学校の時からインテルで背番号11をつけてプレーすることを作文に書いています。また野球の田中将大は「これだけは変えられない、これだけはずっともっていないといけないというものを大事にしてほしいです。ブレてはいけません。絶対に軸がないとダメです」と言っています。常に自分の考えを貫き通し、夢を実現させるために脳にしっかり刻み込むことが重要です。日本ではエゴイストを利己主義として悪く評価しますが、欧米では自分の信念・プライオリティを持って仕事に専念する人と高く評価します。
5) 直感・想像力
8年前のサッカーワールドカップで日本はブラジルに予選リーグで1-4で惨敗しましたが、その時観戦していたイングランドの監督が「パターンにはまった局面ではむしろ日本選手の方が動き良かった。しかし、超一流の試合ではパターンにはまるケースは少なく、その少ないチャンスに得点をあげるしかない。日本は画一的なプレーを重視し、ブラジルは個人プレーを重視する風土の違いだ」とコメントしています。画一的な指導はコーチにとってはやり易い方法ですが、超一流の選手を育てるには不十分なところがあります。プロ野球の外人選手が春の合宿で帰国してしまうケースがよくあります。画一的なトレーニングを強いられ、独創性・直観力を重視してくれない練習に彼らは嫌気をさしたからです。個人の直感力・創造力が極めて重要です。
以上の事柄はスポーツに限らず、事業でも同様であると考えております。
それでは後半の「人生を豊にする思考方法と健康法」についてお話します。私が最も尊敬する米国の心理学者でメンタルカンファレンスを最初に提唱したジム・レア教授の理論を簡単に説明します。彼はやる気を高めるメッセージとして
を挙げて、毎日この18項目を繰り返し意識することを提唱しています。また心理状態のチェックリスト(横軸は左からネガティブ→ポジティブ 縦軸は下からロー→ハイ)を作成して仕事をするときには右上のハイポジティブ(理想状態)に近づけるよう、また趣味の世界では右下のローポジティブ(リラックス状態)になるよう努力することにより、一日を充実させ就寝時には深い睡眠をとれるようにすることが長寿の秘訣であると言っています。行動力やバイタリティをチェックするリストを付ける事により今日一日どのような状態であったか見直すことも重要であると提案しています。これを毎日続けることにより日々の生活を充実させることが可能となります。また日々同じ事をするのではなく、ゴルフの練習などの運動をしたり、博物館やコンサートに行ったり、俳句や短歌など文化的な活動をしたり、自然を鑑賞したり、レストランを開拓したり全く経験したことのない新しいことにチャレンジすることも重要です。
話は次に進みますが、大脳は思考・文字・計算などを掌る左脳と直感・イメージ・ひらめき・スポーツ・芸術を掌る右脳に分かれておりますが、神経が交差しているので右脳は左半分の体を、左脳は右半分の体をコントロールしていることはご承知のことと思います。
皆様は仕事で左脳を酷使されてきました。これからは副交感神経を掌る右脳を刺激する必要があります。そのために左手で歯磨きをしたり、剣玉をしたり、コインを出したりして意識的に左手を使って頂き右脳を刺激してもらいたいと思います。また、アイデアはリラックスしている時にわいてくるものです。そのときにメモを取る習慣をつけるようにすると、老化を防ぐことにもなりますので是非 実践して頂きたいと思います。
統計的に見ますと、60歳以上では少量の酒は寿命を延ばしますが、眠り過ぎは短命です。
うたた寝を含めて一日7-8時間が良いと言われております。また、運動しない人より運動する人のほうが長生きできる傾向にありますが、激しい運動より軽い有酸素運動を一時間以上して頂きたい。最後に昔から痩せた人は長生き出来るといわれておりましたが、痩せ過ぎの人は短命で、普通より少し太っている方が良いと言われています。
今後とも健康に留意され、充実した毎日を皆様方が迎えられますことを、祈念して終わります。
(文責 山口章)