日 時 | 2014年6月25日(水) |
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講 師 | 大阪大学大学院 循環器内科学 助教 水野裕八氏 |
演 題 | イタリアで見た不整脈治療の最前線―日本の医療との違い |
場 所 | 丸紅大阪支社2階講堂 |
水野講師は、現在、不整脈の最先端治療に取り組んでおり、先ず不整脈発症のメカニズムとその治療方法について、続いて最先端カテーテル治療技術修得のため留学したイタリアでの生活体験やサンラファエロ病院での研究・治療を通じて感じた日本とイタリアの医療に係る違い等大変興味深いお話をして頂きました。
1) 不整脈の症状と治療方法
①不整脈の症状
心臓は、4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)から成り、血液は全身→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身の順で流れている。
4つの部屋が同期して動く必要があり、右心房の上部から出る電気信号でコントロールされ、この電気信号の記録が心電図である。
電気回路の異常が不整脈で、断線すると脈が遅くなり、ショートすると速くなる。症状は、無症状から脈が飛ぶなどの軽度なものから、中等度では動悸・立眩みを生じ、重度になると意識喪失から突然死に至る。症状に応じて治療が必要となる。
②不整脈の治療方法
・脈が遅い時は、ペースメーカーを装着する。現在はインターネット回線を介してペースメーカーから医療機関に情報を転送することが可能となっている。
・脈が速い時は、薬、除細動器、カテーテル手術での対応がある。
先ず、抗不整脈薬は、沢山の種類が上梓されている。ただし、効果に確たる期待がもてず、一方でより危険な副作用を生じる、心機能を低下させるという重篤な副作用を生じる可能性があるため薬と毒が紙一重とも言え、漫然と使う薬ではない。とくに低心機能の人の服薬は超要注意である。
除細動器(AED)は、脈が余りに速くて血液が流れない危ない不整脈に電気ショックを与え治療する。この不整脈の場合、生存の可能性は1分間に1割ずつ減り10分で死亡に至る。AEDは使用方法も簡易化され利用率、救命率が上がっている。最近ではペースメーカーサイズの埋込型除細動器も開発されている。
カテーテル手術は、不整脈の原因となる箇所にカテーテルを入れて焼く手法で、この手術によって脈が速くなる症状(頻拍)が停止する。一般に不整脈は心臓の下部から発生するもの程質が悪い。心室頻拍は血圧が容易に下がり失神・突然死の原因となりうる、高率に他の心疾患を合併するなど診断・治療の非常に難しい不整脈である。その上、心室は壁部分の肉が厚く内部からのカテーテル手術で焼き切ることが困難なため心臓を外側から焼く心外膜アプローチが必要となる。心室頻拍治療には、世界の最先端技術が必要で、そのカテーテル治療技術修得のため今回イタリア留学をした次第である。
2) イタリアで感じた日本の医療との違い
留学先サンラファエロ病院は、世界一とも言える心室頻拍のカテーテル手術実績(大阪大学病院の1年分の手術を1週間で実施)を持ち、医療技術は勿論のこと規模、設備ともに世界有数の医療機関である。
2年3か月に亘る滞在中、到着早々思わぬアクシデントに遭遇したが、自らイタリア社会に溶け込むことにより色々貴重な体験をすることが出来た。
日本の医療との違いについて、先ず、イタリア人の血が日本人とは比べものにならない程止(固)まり易く驚いた。狩猟民族の外傷に対する適応として止血機能が発達したものと推察されるが、一方で血栓が原因の心筋梗塞、脳卒中等の病気が高率に見られる。
イタリアの医療には公的医療と自費診療があるが、公的医療制度は、日本の保険制度同様のシステムが採られ料金は殆ど無料ながら待ち時間が数か月以上と長いため、金銭的に余裕がある人は全額自己負担の自費診療での受診を希望されることが多い。
また、イタリアでは、日本と異なり規模の大きな医療機関が少なく、かつ、公的医療の質の当たりはずれもあり、敷居が高く必要な場合でも病院へ行かないケースが多く、敷居が低く必要がないと思われるケースでも行く日本との差が目立つ。
欧米ではキリスト教的死生観が共有されており、残された者のフォローをキリスト教の神父がしている。一方、日本では医療者が残された者のフォローをするケースが多く、この死生観に係る対応の違いを強く感じた。
最後に、医療に対する考え方の大きな違いは、イタリアは必要最小限の期待で、日本は期待過多。イタリアから見た日本の医療は、非常に高いレベルで平均化しているが、医療者の立場から見て、日本では医療への期待が高くなり過ぎて不確実性への理解が不足しているようだ。
(文責 羽場知廣)