日 時 | 2013年2月4日(月) |
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場 所 | 丸紅(株) 大阪支社2階講堂 |
講 師 | 丸紅経済研究所 所長 美甘哲秀氏 |
演 題 | 「2013年の世界経済を読むー景気回復への道筋」 |
本年に入り金融市場の動きは近年に見られないほど非常に良い。
理由は(1)米国の財政の壁問題が一部解消し、当面の心配が無くなった。(2)欧州中央銀行の対応(債券買取、資金供給オペ)が奏功した。(3)中国は成長率の低下が昨年第3Qの7.3%を底に第4Q7.9%と上昇傾向がみられる。(4)日本は11/16の解散後円安、株高に推移し、金融市場は良化しつつあるが、実体経済は今一つである。全般的には、米国、中国はまずまずだが、欧州、日本はまだまだ越えるべきハードルがあるといえる。
Ⅰ. 世界経済
世界経済の成長率は新興国、先進国共、本年に入り、立ち直り傾向にある。
金融政策
日米は利下げ余地は無く、債券買い取りを主な施策とし、金融緩和余地のある、
新興国(特にブラジル)は政策金利の利下げで対応している。
株式市場
先進国(米国、独、それに出遅れていた、日本も)回復基調、新興国(特にインドネシア)も上昇が見られる。
長期金利
米、独の金利は将来の景気回復期待により、上昇気味、一方PIIGS諸国の10年債利回りは低下し、
安定化に向かっている。
ソブリンリスク
嘗ての、優良国(米、日、仏)は格下げ、見通しもネガテイブである。
市況動向
2011年前半にピークを付けた後、鉄鋼原料、銅、アルミ等は中国経済の減速や在庫過多のため、
急激に需要低下、一方、穀物類は2012年の米国の熱波により、生産が低下、又石油も中近東の政情不安、
イランの核開発問題により、値上がり傾向が見られる。
Ⅱ.主要各国の状況
(1)米国
米国経済全般
GDPの推移は2009年第2Qを底に、回復傾向にあり、年2%の成長がみられ、まずまずの安心感がある。
雇用については、リーマンショック時800万人の雇用喪失から、400万人に回復したが、更なる改善が必要。
住宅、自動車、家計のB/S
落ち込んでいた、住宅価格、着工戸数共、2012年度より、若干の立ち直り傾向にある。
自動車販売も2009年に900万台に落ち込んだが、2012年には15百万台レベルまで回復が見られる。
家計部門の純資産についても、2008年をボトムに年々増加が見られる。
財政の壁問題
家計への増税案は回避され、強制的歳出カットの結論は先送り等当面の問題は回避されたが、
種々の問題特に、財政再建については大きなリスクをかかえている。
(2)日本
生産指数
2012年より低下基調であったが、12年末より回復傾向にあり、9か月ばかりの短期リセッションであったと見られる。
アベノミックス
(1)大胆な金融緩和 (2)大規模な公共投資 (3)成長戦略を三本柱とし、 経済対策は過去最大級の規模であるが、
種々不安材料を含む。特に財政面については過去20回繰り返し対策を講じてきた策の焼き直しであり、
その持続性、波及効果につき、疑問符が付く。
市場の反応
自民党大勝後、株価上昇、円安進行と良好な状況である。日銀の物価安定目標(2%)設定、
期限を定めない資産買い入れ、政府との政策連携表明が功を奏しているが、日銀の資金供給が市中銀行に滞り、
企業、家計の需要創出に至らず、結局は日銀の国債の間接引き受けに終わると、
長期金利の引き上げ、多額な利払いの発生が懸念される。
今後の展開
(A) | ベストシナリオ(自己実現的景気回復): | 円安、株高が維持され、企業、家計の好循環が始まる。 |
(B) | 中立シナリオ: | 景気刺激策終了後、消費税アップ等も加わり、景気は減速し、低成長に回帰し、政府の債務のみ増加する。 |
(C) | リスクシナリオ: | 国債増発と日銀買い入れ増加で、国債の信認低下、金利上昇、債券価格の低下により、金融機関に多額の評価損が発生し、最悪の場合、欧州型危機の発生。なんとか(A)のベストシナリオの実現を期待するのみ。 |
(3)中国
政治問題
第18期の共産党政治局常務委員は習近平以下6人の太子党が占め、胡錦濤の共青団派は李克強一名のみ。
ただし、政治局員は共青団が多数を占め、5年後はマジョリテイーを獲得するとの見方がある。
景気動向
10%以上の成長はもはや不可能で、成長鈍化は否めないが、2012年3Qの7.4%を底に、回復に向かい、
EU向け輸出の回復、住宅価格の回復も見られ、今後8%の安定成長に向かう見込み。
日本経済への影響
日本車の販売が2012年9~10月に極端に落ち込んだ。12月度マイナス幅が縮小している。
日本の中国向け輸出は他国向けを下回る状況。訪日者数も減少し、9月以降、前年割れで、
ホテル客減少、観光地、家電販売等、少なからず悪影響がある。
中国の今後の課題
●GDPの伸びは10%は継続困難で、8%の巡航速度の維持が目標
●生産年齢(15~65歳)人口の減少が見られ、老齢人口が大変な重荷となる。
●-輸出から、内需に切り替えをはかりたいが、格差是正、中間層による、
消費市場の形成をはかる必要性大等など、抱える課題は大変多い。
以上、世界経済の現状の解説を受け、今後の展望、課題を伺った。
本年度に入り、日本及び世界経済は回復基調にあるが、種々の課題、リスクをはらんでおり、まだまだ予断を許さない状況にあり、今後の状況推移を注視していきたい
(文責:森川 建)