行事報告

2013年05月15日 行事報告

中部地区社友会5月度例会

日 時 2013年5月15日(水)
場 所 名古屋支社 9階会議室
講 師 村上 利之氏(むらかみ としゆき)
愛知県味噌溜醤油工業協同組合 顧問
演 題 東西境界の豆味噌文化圏

 当日は会員22名のご参加をいただき、味噌醤油の仕事に半世紀以上携わられてこられた「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」顧問 村上利之氏に標題に関し、永年のご経験と知識を元に現在に至るまでの味噌の起源・変遷の歴史を語っていただきました。 概要は下記の通りです。


1. まず、基礎知識として
1-1.
 毎日の食事に登場する発酵食品には味噌・醤油・みりん・酢・納豆・漬物・チーズ・ヨーグルト・清酒・ビール・
 ワイン等は皆、微生物の働きによって出来た発酵食品であるとこと。1,500年前より生産
1-2. 発酵:
 微生物(細菌・酵母・カビ等)が、有機化合物を分解して、アル コールや有機酸等を生成する反応(代謝作用)
 人間にとって有用な作用が発酵であり、そうでないものが腐敗である事。
1-3. カビ食文化:
 カビ(微生物)が繁殖するには水分や温度・湿度が必要。
 この高温、多湿の我が国では、カビ食文化が発達してきた。


2. 「醤」の誕生 及び 変遷
2-1. 中国:
 紀元前700年頃中国で「味噌らしきもの」<醤>が甲骨文字で記載されている。
 紀元前500年頃孔子の食事の礼節を説いた「論語」下巻に最初の「醤」の漢字が記載されている。
 西暦550年頃農業技術書「斎民要術」に大豆を原料とする「醤」の造り方の記録がある。
 この本に「肉醤」「魚醤」「麦醤」「楡子醤」の記載ある。

2-2. 日本:
縄文時代:
 記録はないが、縄文時代には遺跡から発掘された土器や食べ物の貯蔵保存状態から、
 醸造や発酵食品を作った可能性が高まっている。
弥生時代:
 穀醤(こくびしお)=味噌・醤油、
 肉醤(ししびしお)=塩辛類、
 草醤(くさびしお)=漬物の3種類の調味料があった。
奈良時代以前:
 豆味噌造りはじまる
739年:
 「正倉院大日本古文書」の記事に平城京で未醤が市販されていたことが分かる。
927年:
 味噌商、味噌製品化の紀元節。
鎌倉時代:
 今までの貴族政治に代わり、身分の低い武士が政権を握り、庶民文化は武士から町民や農民まで発展した。
 米や雑穀の飯に味噌汁と漬物という一汁一菜の食膳の構成がこの頃から日本人の習慣となった。
室町時代:
 味噌は単なる食品という身分から、料理という芸道の世界に新しい生命を開拓。
江戸時代:
 味噌は開府の頃、下総や埼玉の生産では間に合わず、家康の出身地「三河地区の三州味噌」が海路で運ばれた。
 江戸で一番広く愛用されたのは伊達正宗が広めた仙台味噌。
 日本で初めての味噌工場が仙台で作られ、「御塩噌蔵」と呼ばれた。


3. 豆味噌の起源と変遷
天智天皇(668~670)の頃、朝鮮の日本領(任那)が滅び、その領民が日本に集団移住。これを高麗人(こまびと)と言って全国に居住地を開かせた。この高麗人による味噌玉の味噌から工夫され、日本独自の新しい豆味噌に発展したという説が有力。

中国-朝鮮-若狭-近江(滋賀味噌)-関ヶ原(大豆栽培)-美濃・飛騨(飛騨味噌)-木曽、長良、揖斐-尾張へと変遷

三河地区:
 「三州味噌」「八丁味噌」があり、原料は大豆と塩だけで、作り方はほぼ同じ。
名古屋地方:
 江戸時代初期に知多(現在の常滑市)の大野村で考案された。名古屋市史に「味噌溜りは、名古屋城普請に際し、
 多数の人夫(一日平均77,700人)の食糧に供せんが為に始まり、後、城中に於いて醸造し、これを軍用に供せり」との
 記録がある。
 7代藩主宗春の積極的な開放政策は、幕府からの再三戒告を受け、宗春も政策の軌道修正に努めたが、
 幕府から改悛も色なしと、元文4年隠居謹慎を命ぜられた。しかし、宗春の反骨精神は中央に対する尾張の独立心を養い、
 名古屋独自の精神や文化を育て、食文化に大きく影響している。


4. 東西との違い


東京(関東) 大阪(関西)
考え方 タテマエ 実質
麺類 そば うどん
味付け 濃い味付け 薄味仕立て
醤油 濃い口醤油(醤油そのもの) 淡口醤油(素材を活かす)
味噌 江戸甘味噌 京都甘味噌、大阪米味噌

5. 豆味噌の調理特性
煮込むほど、美味しい。
グルタミン酸の旨味とペプチドの旨味で、調和のとれた、まろやかな旨味となる。
生臭みの中和や吸着する力が強い。

 食欲増進-
酒を飲んだ後の味噌汁、喫煙後の味噌汁、体力が落ちた時の食欲増進を助ける。


6. 味噌の効用
畑の肉といわれるほど栄養たっぷりな大豆を原料としてつくられる愛知の豆味噌は「赤だしみそ」と呼ばれ、筋肉や皮膚など健康な身体をつくるもととなる大豆たんぱく質のほか、ビタミンやミネラルが豊富。

6-1. 胃がん 乳がん
 味噌汁を飲む頻度の高い人程、胃がんによる死亡率が低く、乳がんになりにくい。
6-2. 遺伝子
 味噌の成分は人の遺伝子を守るという報告がある。
6-3. 糖尿病
 味噌の褐色色素はメラノイジンといい、糖分の消化吸収速度を遅くし、食後、血糖の上昇を抑える働きがあることが分かっ
 た。また、発がん物質の腸内生成の抑制等の効果があることも分かっている。
6-4. コレステロール
 大豆を常食とする地域の人々は血中コレステロール値が低い。 


 上記が当日の講演概要です。
今回の講演は日頃身近なことでありながら、目新しいことが多く、長い歴史と奥深さに驚かされるとともに、その時代毎に関わってきた重要さ、庶民の文化を垣間見たようであり、また健康作りに大事な栄養素であることを参加された会員の方々は認識されたのではないかと感じました。
次回ビアパーティ(2013年7月26日)での再会を約束し、例会終了いたしました。


講師の村上利之氏


講演風景


(文責:龍田 陽)


行事情報トップページへ