行事報告

2013年05月15日 行事報告

関西地区社友会5月度例会

日 時 2013年5月15日(水)
場 所 丸紅(株) 大阪支社2階講堂
講 師 大阪大学大学院 教授 古郷幹彦氏
演 題 「摂食嚥下のメカニズムとその異常」

 我々が高齢化するとともに起きる問題点のひとつに摂食嚥下、つまり食べ物を認識して口に取り込み胃に至るまでの一連の過程での異常現象がある。
 ヒトの摂食嚥下は、現在、先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期の5期に分けて説明されるが、高齢化するとともにこの流れがスムーズに行われなくなり問題が起きる。 即ち、高齢化するとともに誤嚥、つまり食べ物を飲み込む際に食べ物が食道へ行かずに気管内に入る現象が起こり易くなるのである。そして、その食べ物や唾液に含まれた細菌が肺に入り込むことで誤嚥性肺炎が発症する。


 本日の講演目的はこの誤嚥がどのように起きるかをよく理解して頂き誤嚥性肺炎の発症を予防して頂くことである。
 口腔内へ食べ物を取り込みよく噛み砕き飲み込み易い大きさの塊にまとめ舌によって咽頭へ送り込むメカニズムになっているが、ヒトは犬や豚などの四足動物と違い直立しているため、飲み込み易い大きさの塊にまとまらないと顎・舌・のどちんこ・喉頭がタイミングよくスムーズに動かない場合には食べ物が気管内に落下してしまうケースが多く発生する。
 食事中や会話の最中に食べ物や飲み物さらには唾液までが気管内に入ってムセルという現象を多くの方々が経験されていると思うが、たとえ気管内に入っても身体が元気な間は咳で吐き出すことが出来るため問題はない。
 しかし、高齢化するとともに感覚麻痺や機能低下により気管内に入ってもムセなくなったり吐き出す力がなくなり肺に食べ物や唾液が落ち誤嚥性肺炎発症の可能性が増し、近年、高齢者の増加に伴い発症が急増している。
 また、食べ物を飲み込めなくなると誤嚥性肺炎の予防策として胃瘻(胃に直接穴をあけること)や経管(鼻から胃に管を通すこと)で栄養を入れる方法などが採られているが、口から食べ物を食べられないため味覚を舌で感じることが出来なくなるという非常に辛い状態になる。さらに唾液を誤嚥することだけで肺炎が起きるようになってしまう。
 口腔内は色々な細菌やカビなどが存在する想像以上に不清潔なところで、口腔内の細菌にマーキングをして誤嚥性肺炎発症時の細菌を調べてみるとマーキングした細菌が検出される事例が多く、誤嚥性肺炎予防のためにも口腔内を清潔に保つ必要がある。
 現在、寝たきりの老人の口腔ケア、つまり口腔内を清潔にし、口の運動を賦活することが歯科のトピックスとなっている。
 しかし、誤嚥症状が起き味覚を味わえないという辛い状態を避けるためには、前もって日頃から口腔内を清潔にすることを心掛け、そして食べ物をよく噛んで味を楽しみながら食べて頂くことこそが肝要と考える。
 ヒトは、生来美味しいものを追い求めて生活しているのだから当然の話ではあるが、頭の中で、脳全体に占める食べるという感覚ほか口腔内のメカニズムに携わる部分の比率はかなり大きい。この脳の活動をいつまでも活性化し続けるよう日々心掛けて下さい。




(文責:羽場 知廣)


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