行事報告

2013年06月10日 行事報告

関東地区社友会6月度例会

日 時 2013年6月10日(月)
場 所 丸紅東京本社16階講堂
講 師 山本益博氏
演 題 「職人仕事の完璧主義者 イチローと『次郎』」

 今回は、料理評論家として昨今のグルメブームの先駆けとも言える山本益博さんをお招きしました。テレビに氾濫するグルメ番組に登場するタレントが、二言目には「やわらか~い」とか「甘~い」を連発して低俗の極みですが、山本さんは豊富な体験と深い造詣で料理の世界に大きな影響を与えた一流の文化人です。当日は、職人仕事のプロとして山本さんが認めるヤンキースのイチロー選手と「すきやばやし次郎」の小野二郎さんの完璧主義者ぶりを、お二人との交流を通しての色々なエピソードを交えて御披露頂きました。


 山本さんは大学時代、桂文楽に憧れ、どっぷり落語に漬かっていたというだけあって、軽快な江戸前の語り口で「箸」の話、そばを啜る話、ごはんの話等から入り、まずはイチローです。山本さんはイチロー選手がある番組で「私のやっていることには全て意味がある」と語っていたのを聞き、以来、テレビで見るイチロー選手の全ての動作に注目しそのルーティーン、例えば準備運動、バッターボックスへ入る順序、ベンチへ戻ってからの動作等を全て記憶した上で最初にイチロー選手と会った時に、逐一その意味するところを問うたそうです。イチロー選手もビックリしたようですがきちんと答えてくれた上で、バットを他人に触らせないとか、毎試合後ロッカールームでグラブの手入れを自分でするとか、四球で一塁に出る時はバットを足元にそっと置いてからゆっくり走り出すとかの道具を大事に扱う大切さや、試合中毎回ロッカーでアンダーシャツを取り替えたり、試合前のキャッチボールは基本中の基本なので漫然とこなすのではなく、その日の調子を計る重要なテーマであるとか、所謂「準備」を怠らないことが職人仕事の確信に繋がることを話してくれたそうです。また、米国にいる間のイチロー選手の昼食はカレーかチーズピザだそうですが、これも自分の体調が常と変わりないかをチェックする目的でやっているそうです。ちなみに日本に帰っている時は焼肉か鮨だとのこと。


 一方の小野二郎氏ですが、88歳になる現役のすし職人であり、彼の「すきやばし次郎」はミシュランの三ツ星を6年以上連続して取得しており、その評判は世界的であり、お客の70%以上は海外からといいます。彼は静岡県天竜市の生まれで、8歳の時に割烹旅館へ奉公に出され、下働きをしながら料理の修行をし、生来の左利きは箸を持つ為、また包丁を正しく引く為に右利きに直し、包丁の腕前は16歳の頃が一番だったそうです。その後、徴兵にとられ、終戦後は26歳の時にすし職人として第二の人生をスタートしました。銀座に「すきやばし次郎」を開店したのは30歳の時で、以後完璧な仕事を目指しどこまでも正確に、あくまでも精密に、ひたすら洗練を求めて単調な作業を繰り返し、ついに宝石のような鮨を握る職人芸術を極められました。山本さんはフレンチの巨匠、ジョエル・ロブション氏を初めて次郎に案内した時のことを話して下さいました。いくつか食べた後、ロブション氏が最初に言ったのは「ネタは要らないから握ったシャリだけ食べたい」だったそうです。そして「これだけは絶対真似できない」と言ったそうですが、言われた小野二郎氏も驚いたでしょうね。正に名人が名人を知る瞬間だったのではないでしょうか。「次郎」は基本20貫の「おまかせ」ですが、タコが出た時にロブション氏は「タコはスペインで食べてもゴムのように堅いばかりで味もない。好きではない」と言いつつもつまんだ瞬間、みるみる顔つきが変わり、「うーん、ラングースト(伊勢エビ)の味がする」。それを山本さんが二郎さんに告げると「さすがですね。タコの餌はエビですから。日本人はタコの味って言うだけですけど、恐ろしい方ですね、ロブションさんは・・・」。以来二人は店や料理人が清潔であることに人一倍神経質という点でも意気投合し、お互いの店を行き合う交流を続けているとのことでした。因みに二郎さんは40年来、夏でも外出の時には手袋を決して外さないとのことです。理由はお客さんにシワだらけの汚い手で握った鮨は出せない。同様に顔のシミも駄目と言い、エステにも行くそうです。話を聞いて「次郎」に行きたくなりましたが、3万円ですからねーでした。




(文責:渡辺)


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