日 時 | 2013年10月15日(火) |
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場 所 | 丸紅(株) 大阪支社2階講堂 |
講 師 | 神戸大学学長補佐 久保広正氏 |
演 題 | 「ユーロ危機と世界及び日本経済」 |
1)大学のグローバル化
EUのGDPは世界の23.1%を占め米国を抜いて第一位となっているが、日本では過小評価されているように思う。またグローバルスタンダードは米国が中心と考えられているが、EUでは様々な分野(例えばISO等の環境問題)で規則・規範に関するグローバルスダンダードを生み出している。そこで、現在のEUのグローバル化進展の背景を大学での教育方法を通じて紹介したい。
EUの大学ではERASMUS(European Region Action Scheme for the Mobility of University Students)と呼ぶ欧州全地域で学生の交流を図るシステムが構築されている。大学間で連携を深めて単位互換の協定を結び、単位の標準化・質の保証・学位の標準化を実施している。これにより学びたい学課があれば、英国の大学の学生であってもフランスの大学で自由に履修でき、その単位は自分の大学の単位として認められることになっている。従って、日本と違い学生は大学に入れば何を勉強するか、そのためにはどの大学で学ぶかはっきりした目標を立てている。また、授業についても日本の大学では教授が一方的に授業を行なっているが、欧米では教授が課題を与えてグループディスカッションすることに重点を置いている。相手の意見を聞いた上で自分の意見を主張する訓練を行なうことにより、交渉力を高める教育にもなっている。しかもフランス語やドイツ語ではなくすべて英語での授業であり、学生時代からグローバル化を実施しているのが現状です。
昨今、EUの大学がこのERASMUS制度をアジアとりわけ日本の大学と提携したくてアプローチしてきている。これは日本が先進国同様に生活し易い環境が整っている上に、技術進歩が著しくかつ英語での授業が増加していることによる。しかし、文部科学省の方針との兼ね合いでこれが中々進んでいない。大学の殻に閉じこもるのではなく、多くの留学生を受け入れ、また日本の学生が世界各国で勉学に励み、国際交流を図っていくためには大学の教育制度の見直しが重要となっている。ERASMUS制度の基準に合致した内容・方法・水準の授業ができるように改革して行かねばならない。また、研究内容も一大学では限界があるため、大学毎に得意分野に注力して他大学と連携をとった研究に変え、研究費の有効活用を図って行く必要もある。現在神戸大学ではEUから3人の教授に1年間ゼミを担当してもらったり、共同研究をしたりして少しずつ改革を進めている。また、ベルギーに神戸大学の事務所を開設し、EUの大学との連携を更に進める計画である。
2)ユーロ危機の現状
EU28カ国の内、通貨ユーロを導入しているのは17カ国であり、(1)インフレの抑制 (2)金利の低下(3)財政赤字の削減(GDP比3%以下) (4)政府債務残高の削減(GDP比60%以下)(5)ユーロに対する自国通貨の為替レートの安定化がマーストリヒト基準となっている。2013年まで財政赤字はおおよそ3%で推移していると考えられていたが、ご承知の如くギリシャの政権交代によりこの赤字が実際は15%になっていることが判明したところから欧州通貨危機が表面化し、スペイン・イタリアへと危機は広まった。EU設立当初ムーディーズはじめ格付け機関はEU各国間で財政赤字の調整がなされるので、各国の国債はリスクが小さいと評価していた。そのため、ギリシャはじめ財政が厳しい国が発行した国債でもEU各国はこれを積極的に購入していた。日本では地方財政の安定化を図るため、中央政府が調整機能を果たす制度があるが、EUではそれがなくEU域内で資金の移動が上手く行かず一挙に信用不安が表面化した。ドイツ・フランスを中心として欧州銀行が支援することにより危機は一応乗り越える事ができた。
しかし、これらの国々の財政問題が解決された訳でないので、EUでは財政管理と財政再建を最重要課題として (1)緊急融資:IMF融資と合わせ最大7,500億ユーロの融資可能 (2)恒久的なESM(European Stability Mechanism)を設立して金融監督体制を構築 (3)欧州中央銀行は市場を通じて短期国債を無制限に買取る…経済再建計画実施を前提に (4)新財政協約(違反国には罰則)の締結 (5)銀行同盟構想の発表などの対策を実施した。これらの緊急対策・制度改革で金融市場は一応落ち着いたが、銀行同盟構想・財政同盟構想の行方、さらにドイツ・イタリアはじめ各国の内政混乱の懸念もあり、今のところ小康状態が続くが、今後も紆余曲折があると考えられる。
3)日本経済
アベノミクス(金融政策・財政政策・成長戦略の3本の矢)により日本経済が漸く上向きつつある。今後 人々が充実感を得る豊かな社会作りを目指して、ITを活用した成長・環境保護技術を活かした成長戦略を着実に進める必要がある。財政の持続可能性への疑問から国債価格の低下や長期金利の上昇し、金融不安・国債費の増加を招くような事になれば、ギリシャ・イタリア同様に日本も信用不安に陥ることになるので、消費税率UPによる財政再建への道もしっかりと示さなければならない。
(文責:山口 章)