日 時 | 平成24年2月16日(木) |
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場 所 | 丸紅東京本社16階講堂 |
講 師 | ピーター・モーガン氏(ADBシニア・アナリスト) |
当日は、ADBのシニア・アナリストであるピーター・モーガン氏にユーロ圏金融危機の背景、及び日本への影響につき、専門的な分析を基に解説をして頂きました。
<欧州の状況>
1. ユーロ危機は急に起こったものではなく、その根はユーロ圏の設立とその基本的な構造にある。
即ち、ECBの設立により、各国の金融政策の独立性は無くなり、財政政策の自由度も制限された。ECBの目的は物価安定とその範囲での経済政策の支援であり、公開市場操作や民間への支援は行うものの、直接各国の政府に資金を提供することは禁じられていた為、“Lender of Last Resort”の機能を持たない。結果として、北部欧州と構造改革の遅れた南部との格差は拡大した。因みに、ギリシャとドイツの経常収支の差は2001年には△6%と+2%だったが、2007年には△15%と+8%になった。
2. その中で、
◎無責任な財政政策で赤字が急拡大したギリシャ
◎民間金融部門が危機に陥ったアイルランド/スペイン/ポルトガル
◎構造改革が不十分なイタリア
等に危機の連鎖が広まった。
3. 2010年5月に第一回ギリシャ支援が行われたが、規模/内容共に問題が多かった為、翌年11月再度の危機を招いた。
今回は、より深刻で、国債残高はGDPの170%に達し、50%のHair cutに迄到った。斯かる状況下、ECBも従来のスタンスを変え、2011年8月から資金量€500bnをもって大型の国債買いオペを始め、現在の処、金利の安定等に効力を示している。
→ 独立性をある程度犠牲にして“Lender of Last Resort”に近付いている。
4. 欧州の状態を纏めると、ギリシャ/ポルトガル→実質的に破綻をしており、政治的なリスクも高まっている。再度のHair cutは避けられないであろう。イタリア/スペイン/アイルランドは政策の信頼性は比較的高く、財政再建は可能と見る。
然し、求められている緊縮財政は経済成長には大きな負担となり、試練は続く。ドイツの本格的な支援がキーとなる。
<日本の状況>
1. 日本は今すぐ危機が来るという状況にはない。
◎債権は殆どが円建てで、債権者も国内
◎Net債務残高はGDPの128%で、Gross残高の218%より小さい
◎国債の純金利コストはGDPの1.6%でOECD 平均より少ない
◎対外純資産がGDPの52%と大きい
2. 但し、経常収支の黒字を維持できるかが焦点となる。
◎現在公的支出はGDPの42%とOECD平均値43.7%より低いものの
◎公的収入の水準はOECD平均の37.0%よりも低い33.2%しかない。
名目GDPの伸び率が低い中、高齢化による公的支出の増加は避けられないので、消費税率のup、社会保障制度の改革は不可避。更に、潜在成長率を引き上げ、財政赤字の暫減を図る事が重要。その意味から、直近の貿易収支の赤字転落は大きな懸念材料となる。