日 時 |
平成24年6月5日(火) |
場 所 |
丸紅東京本社16階講堂 |
講 師 |
谷内 正太郎氏
(外務省顧問、前外務事務次官、早稲田大学日米研究所教授、
慶応義塾大学大学院SDM研究科客員教授、東京大学教養学部非常勤講師) |
谷内氏は約120名の会員を前に、永年に亘る、外交官としてのご経験を踏まえつつ、現下の国際情勢と日本外交の目指すべき姿などにつき、歯切れのよい口調で、質疑応答を含め、予定の1時間半を越えて熱心にお話しくださいました。以下はその骨子です。
新しいパワーバランスが形成されつつある。具体的には、
- 軍事的には、米国という圧倒的なハイパーパワーによる一極体制、経済的には、米、欧、中、日、印の多極構造、更に、従来と異なってきているのは国の枠を越えた主体による活動があること(例としてグローバル企業、テロリスト、ハッカーetc.)。
- 米国の国際的地位の相対的地位の低下と新興大国の台頭。特に協争型(協力+競争)とも呼ぶべき米中間のパワートランジション。
- アジアへの重点シフト(アジア太平洋時代の到来)。その具体的な表れとしては、(1)世界の経済成長センターがアジアにシフトしつつあること(貿易規模やGDPなどで見ても非常に重みを増している)、(2)中国の台頭と海洋進出、(3)米国のアジア回帰(「太平洋国家としてのアメリカ」という基本認識)などが挙げられる。
- グローバル・イシューの拡散と深刻化(核、国際テロ、資源エネルギー、環境etc.)。
- ソーシャル・ネットワーク・サービスの拡大と深化(3.11の折のトモダチ作戦参加の米兵や各国救援隊からの携帯メールなどによる日本・日本人に対する賞賛、良いイメージの伝播、逆に先の中国での対日暴力デモの急速な広がりなどもその正・負両面の例)。
以上のような状況の中で、資源に乏しく、右肩上がりの経済ではなくなっている日本外交の課題としては、
- 戦略的外交を目指す(国益と国際公益両面の追求)。
- 「スマート・パワー」(ハーバード大学ジョセフ・ナイ教授)の追求。具体的にはアメリカのNational Security Council の如き全日本の叡智を集めた、省などの枠に捕らわれない国家戦略本部が必要。
- 突破口を開く努力(時代の閉塞性の打破)の必要。
- グローバル時代に於いて日本の国力(依然として世界第三位の経済力)に相応しい行動・役割としてリーダーシップ(ルールメーカー)を目指すこと。
- 「自由で開かれた国際秩序」(具体的には、海洋秩序、国際貿易・経済秩序など)の構築を目指すこと。
- 「東アジア共同体」の理念は50-100年の長期的観点では正しいが、日米同盟の拡大と深化があくまでも最重要で日本の外交の柱であり、基本であるべき。日米安保条約は、「ただ乗り論」などの不公平感のない、双務的、対等なものに改正の必要がある。
アジア太平洋時代の日本外交の、その他の重要な課題として、
1. 中国の台頭…21世紀最大の外交課題と言ってよい。具体的には、
- 世界第二位の経済大国(2027年には米国を追い抜くとも)軍事大国になっている。
- これまでの大陸国家(ランド・パワー)の海洋進出、「海洋国土」の拡大。(これまでチベット、ウイグル、台湾に使っていた「核心的利益」論を南シナ海、東シナ海にも適用している。海軍力増強、最終的には米国との太平洋の折半を目論む?)
- 傷ついた「超大国」の復活という意識。歴史的には世界最大のパワーのアヘン戦争以来の屈辱、元々下に見ていた日本に蹂躙された屈辱などが下地にあり、対外強硬策にも繋がる。
- 中国は今のままでは、国益追求に急のあまり、世界のリーダーに必要とされる求心力が出てこない。他を引きつける普遍的な理想、価値観が欠如。
- 中国との外交で必要なのは、engagement(関与)とhedging(保険)。排除するのではなく、自由で開かれた国として世界秩序に関与させるように働きかけることと、そのための保険としての防衛力の拡充、日米同盟の強化など。
2. 対ロ外交。
- 双頭体制からプーチン体制に。今後、大統領を最長2期、12年できる。戦略的、地政学的思考を持つ、強力なリーダー。安定志向のロシア国民の支持のもとでの長期政権たり得る。
- 北方領土問題は、このプーチンの時代に解決の要あるが、ことは、4島か2島かという問題ではない。長期的な利害関係を描く大きなdealの一環として解決を図り、平和条約を締結する。そのためには、日本側にも長期安定政権が必須。北方領土問題の鍵はその意味で、むしろ日本側にある。
3. 朝鮮半島問題。
- 金正恩体制への移行。混乱にならず移行した。世襲の方が大番頭が引き継ぐなどよりも既得権の維持など、混乱なくスムーズに行く面がある。
- 北朝鮮の存在は、東アジア地域の不安定要因であるが、関係各国にとって必ずしもマイナスばかりではない。例えば中国に取っては直に韓国(その背後にある米国)に接しない緩衝地域、韓国に取っても性急な統一は、大変なコスト負担になるなど。
- 六者協議体制、日米韓の協力必要だが、竹島問題、「慰安婦」問題につき、韓国のこのところの対日強硬姿勢のため現在、良い関係とは言えず懸念材料。
(文責:朱牟田)