行事報告

2012年10月05日 行事報告

関西地区10月度月例会

日 時 平成24年10月5日(金)
場 所 丸紅大阪支社2階講堂
講 師 河田惠昭氏(関西大学理事・社会安全学部長・教授 工学博士
      阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長)
演 題 「南海トラフ巨大地震と近畿地方の減災対策」

 8月29日(水)政府は駿河湾から日向灘の「南海トラフ」を震源域とするマグニチュード(M)9.1の最大級の地震が起きた場合、最悪32万人の死者が出るとのショッキングな被害想定を公表した。この想定を内閣府の作業部会主査としてまとめられたのが河田惠昭先生です。本日はまさにこの旬の話題、南海トラフ地震について河田先生より直にお話を頂くことになりました。題して「南海トラフ巨大地震と近畿地方の防災対策」です。


大阪の特殊性、危険度


 大阪にはゼロメートル地帯が広く、また綿織物工業などで地下水を汲み上げた結果、過去50年間で最大2.8mメートルも地盤沈下した地域もある。地震による津波は淀川を時速30~40kmで上って来るが、堂島川や土佐堀から溢れた津波が地盤の低い梅田、新大阪、堂島など広範囲にわたり浸水する恐れがある。丸紅のロケーションも決して安心できる位置ではありません。(さらにNHKのMEGAQUAKEⅡ番組、巨大地震シナリオが放映され道頓堀川を津波が遡るのを見て背筋が寒くなった。)
 さらに、大阪地下鉄は浸水対策がなされておらず、また、地下鉄のネットワークが全体に大阪平野を水平に広がり一旦浸水すると地下鉄経由でどんどん浸水が広がる恐れもある。
 このように大阪は震災に対し大いに脆弱性がある。まずこのことを各人がしっかり認識し、災害は他人事と思わないことが大切です。


南海トラフ巨大地震


 政府は2003年に東海、東南海、南海地震が3連動した場合の被害想定を出していた。しかし、今回東日本大震災を踏まえ3連動地震より大規模なM9級を想定、南海トラフ巨大地震と呼んで区別した。以下比較すると次のようになる。


地震名 阪神・淡路 東日本 2003想定 南海トラフ
規模(M) 7.3 9.0 8.8 9.1
死者・不明 6,434 19,000 25,000 320,000
被害総額(兆円) 9 16.9 81 200-300

 最大死者数は静岡県が11万人とトップだが、和歌山県8万、三重県4万人超と多く、大阪府は7,800人(10位)と予測。地震発生後2時間で津波がくるが、瀬戸内海にも約2時間30分で全域が津波被害に遭遇。満潮、干潮が6時間ごとに起こるので6時間は油断できない。
 一方、人的被害のみならず、大阪は孤立化、電気、ガス、セキュリテイシステムが不能となり治安問題も発生してくる。南海トラフ地震被害地域では港湾、高速道路などのインフラ被害も莫大なものになるが、さらに日本の52%のシエアーを占める医薬品の生産にも甚大な影響が出てくる。まさに国難となる日本衰退のシナリオが容易に描けることになる。


巨大地震は起こるのか?


 南海地震は684年以来90-150年周期で8回も発生している。また1707年の宝永地震は連動型地震であり3連動地震が起こる可能性も十分ある。南海トラフでは南から押し寄せるフイリピン海プレートがユーラシアプレレートの下に潜り込んでいるため歴史的に東海、東南海、南海地震が繰り返し発生してきた。潜り込む速度は駿河湾で年間1~2cmだが紀伊半島では4~5cm、日向灘では10cmと富士山を中心に時計回りに円弧を描くように潜っている。津波予測には8つもの変数をもとに計算、それぞれが10通り変化すれば一億通りにもなりその中から代表例を発表しているが予測は難しい。巨大地震はめったに起こらないかもしれないがいつかは必ず起こる。


防災・減災対策の必要性


過去の反省
 過去に地震、津波を経験しているがその経験が忘れられている。一方、逆に過去の経験による思い込みがあり、地震・津波の危険性が軽視され、想定外の地震、津波に対応できてこなかった。また人任せ、他人任せで自分みずから行動する意識が少なかった事や、官庁、自治体の怠慢・緩慢な動きなど反省すべき点が多い。


対策の必要性
 南海トラフ巨大地震が発生した場合、最悪死者32万人の被害想定だが津波からの迅速な避難(津波は逃げるに限る)、避難ビルの確保、避難場所の整備促進、建物の耐震化などの防災対策により最悪死者を6万人に、あるいはそれ以上に減らすことが出来る。今回の被害想定でも、津波による死者が多く、津波対策が重要である。居住地の高台移転、津波を何か所かで制御するための多重防御の考え方も取り入れるべきだろう。
 一方、地震、津波による被害はゼロにはできない。この場合、いかに被害を最小限に食い止めるか、いかに犠牲者を一人でも減らすことが出来るか、また一刻も早く復興させるかが課題となる。いわゆるレジリエンス(resilience)の思考だが、被害に見舞われても速やかに復興、回復できるしなやかさ、粘り強さを持つことが大切になってくる。
 今回の南海トラフ巨大地震の衝撃的な発表は、防災対策の必要性の周知が目的である。また最悪を想定することが減災の出発点である。国、自治体などは責任分担をはっきり決め、戦略的かつ長期的な対策を構築していくことが必要である。


最後に


 南海トラフ巨大地震、それに続く大津波の発生は極めて少ないかもしれない。しかしこのことを絵空事にしてはいけない。想定外にしてはいけない。防災、減災対策は長く地道な対策です。が、あきらめずに防災、減災のため小さな努力の積み重ねが防災・減災力を必ず強くしていきます。“あなたの命を守るのはあなたなのです。”


(文責・東田正夫)


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