行事報告

2011年10月05日 行事報告

関西地区10月度月例会

日 時 平成23年10月5日(水)
場 所 丸紅㈱大阪支社2階講堂
講 師 宮下規久朗氏
演 題 『西洋美術を読み解く』

 今年は例年に無く全国的に美術展が多く開催されているようです。その年の文化の香りする秋に西洋美術について宮下先生にご講演を頂きました。
 宮下規久朗先生は1963年名古屋市にお生まれになり、東京大学文学部美術史学科をご卒業、同大学院を修了後、兵庫県立近代美術館、東京都現代美術館学芸員を経られて、現在は神戸大学大学院人文学研究科准教授をされておられます。美術史家としても著名でありイタリア美術を始め現代美術や日本近代美術史の専門家としもご活躍されておられます。
 本日は宮下先生に''西洋美術の読み方''と題して如何に美術作品を鑑賞し楽しむかについてお話をして頂きました。概要を以下の通り纏めてご報告させて頂きます。


1. 始めに


 日本には数多くの美術品があり美術展の開催も盛んです。また熟年女性がこれら美術ブームを支えてきたのが現状であり若い人達が余り関心を示さないのは残念なことであります。
 ただ、最近の喜ばしい傾向としてリタイアーした男性が美術館に足を運ぶ機会が増加してきております。


2. 美術鑑賞には知識が大切


 美術作品は単に感性で鑑賞することはもちろん大変結構なことです。しかしどんな美術作品もその背後にある文化や思想を反映しており文化の根本であります。だからこれらに関し少しでも知識や知性を持ち合わせておればもっと面白く楽しむことが出来ます。
 東洋では表意文字の漢字文化であり書(漢字そのもの)や山水などの風景画で代表される東洋の作品は比較的理解し易いのですが一方アルファベットの様に文字が意味を持たない表音文化の西洋では表現したい事を絵画や彫刻を使って表す、すなわち美術が文字の役割を果たしてきたのです。その為西洋美術は単に飾りや見て楽しむというものだけではなくその作品に籠められた〈内なる意味や内容を読み解く〉ことが必要となってきます。


3. 様式の流れ


 さて、美術作品は様式(外見)と主題(内容)に分けて考えることが有効です。
様式とはその作品がどのような色彩、型、素材(油絵、キャンバス等)等で製作されたかすなわち作品の外見であります。また様式には時代様式と個人様式があります。
 西洋史は次の3分法で様式の流れを見ることが出来ます。


  • 古代:ギリシャ・ローマからで人体表現の基本形が成立
  • 中世:キリスト教の強い影響があった。ビザンチンではイコン(聖画像)が発展
  • 近世:ルネサンスから始まる古代美術と自然の再発見。19C以降模索の時代へ

4. 意味・内容(主題)を読み解く


 西洋美術はキリスト教に関係するものが約70%を占めており西洋作品理解にはまずキリスト教に関する知識が必要です。またある抽象的な概念や思想を具体的な事物(象徴)や人物(擬人像)によって表現する寓意等についての基礎的な知識もあわせて大切になってきます。それでは次にそれぞれについてスライドで具体的にお話しましょう。


■ キリスト教と異教の物語(筆者注:数多くのスライド絵画の中から2作のみ抜粋)
レオナルド・ダビンチ《最後の晩餐》
 イエスが処刑される前夜、12人の弟子達と夕食を共にしているイエスが「この中に私を裏切ったものがいる」と告げた場面。登場人物の怒り、不信感などが手振り・身振りではっきり描かれており身振り言語の代表作である。ワイン、パンはキリストの重要な儀式を表現しており以後食事を描くことが西洋美術の重要なテーマになっていく。

フラ・アンジェリコ《受胎告知》
 天使が聖母マリアに神の子を処女懐妊したことを告げる場面。キリストの受難から人類救済にいたる最初の物語として良く描かれたテーマのひとつ。バックに板塀が描かれているがこれは閉じられた庭との意味からマリアが処女であることを表している。
マリアはしばしば水、やかん(水が入っている)等で表現されることがある。また果物はアダムとイブの犯した原罪を意味することが多い。

以上、西洋ではキリストをテーマにした美術作品が圧倒的に多くキリスト教に関する知識が少しでもあればより深く作品を味わうことが出来ます。


■ 様々な寓意、擬人像(筆者注:数多くのスライド絵画の中から2作のみ抜粋)
ヤン・ファン・アイク《アルノルフイーニ夫妻》
 若い男女の結婚儀式を描いた作品。ただこの絵には様々な抽象的な概念・思想が具体的な事物(象徴)で描かれている。例えば足元に描かれた犬は夫への貞節(ちなみに猫は悪魔の使い)を意味し、人物の裸足は神の前にいることを意味する。果物は原罪を、日中なのにシャンデリアの一本灯された火はキリストの加護を表している。男性が不浄の手とされる左手で女性の手を握っているがこれについては色々解釈があり未だに謎多い。この謎解きが又楽しいのですが。

ジャン・フランソワ・ミレー《種まく人》《落穂拾い》
 会場の様子種まく人はミレー作品で最も良く知られた作品。ただ単に農民が種をまいている絵画ではない。種まく人はキリスト自身を、種はキリストの言葉を表現している。また落穂拾いは最下層の貧しい農民が描かれ農民をたたえている。一方この絵は旧約聖書に出てくる「ルツ記」のルツとナオミの生活が重ねられ且つ隠されたテーマであるのである。

以上のように寓意・擬人像(例:真実は裸で、老人と布で時間の経過を、女で欺瞞等を表現する)などの表現方法に関する知識も作品理解には欠かせないものです。


 以上沢山の絵画、彫刻の綺麗なスライドで西洋美術の鑑賞の仕方についてじっくりお話を頂きました。宮下先生によればいくつかの知識でもあればもっと作品が楽しめること、また美術館での作品説明でもこれらの知識が得られること、美術館には夕方行くと空いている等のお得なアドバイスも頂きました。
 宮下先生の本日のお話でちょっと苦手だった西洋美術について何か親しみが持てそうな気分になりました。


(文責/東田正夫)


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