行事報告

2010年02月16日 行事報告

関東地区2月度月例会

講演会講演要旨


日 時 平成22年2月16日(火)正午より
場 所 本社16階公堂
講 師 毛里和子氏
早稲田大学政治経済学院教授、同大学現代中国研究所所長、政治学博士
2003年紫綬褒章受賞者
演 題 「China As Number 1 ? ― 大国のパワーとストレス ―」

 現代中国の政治・外交に関する碩学であられる毛里先生は、様々な資料・データをスクリーンに写しだされながら、建国後60年のうち、特に「改革開放」後の後半30年で目覚しい発展を見せ、急速に確立してきた大国としてのパワーの実態と背景、一方で、抱えているストレスや矛盾につき、更には、今後ありるシナリオにまで、約130名の会員を前にわかりやすく歯切れの良い口調で、講演されました。
 今やGDPでは日本に追いつき追い抜きつつある中国が、米国を追い抜くのは早ければ、2026年という試算がある一方、平均寿命、乳児死亡率、1人あたり電力消費量などの経済指標を見ると、大体日本の40年前の水準であることにも触れられ、また、政治的・市民的自由度という点では、依然、日本や韓国の「自由」に比して、全く「不自由」という評価資料もあり、GDPの比較だけでは不充分であることを示唆されました。


 また、中国政治の権力構造は、共産党・国家・解放軍の三位一体となっていてこれが強力に機能していること、政治アクター(演じ手)が農民・労働者から少数の高学歴エリート幹部へ変貌していること、私営企業者が党に吸収されていってred capitalistが増えていること、一方(もはや社会主義ではなく)「官製資本主義」が進んでいる(国有企業の躍進)状況、Fortune誌の世界の大企業の上位に中国国営企業が名前を連ねるようになっている一昔前には考えられなかった現実、高給取りが増えている実態など、中国のここ30年間の変貌につき興味深い事実が次々に示されました。


 昇竜にも例えられる現在の中国のパワーは一方で、拡大する階層間・地域間の格差、社会資本(教育経費・社会保険)の貧弱、鬱屈したマイノリティーグループによる各種の暴動、経済・金融危機や人権圧力など国際的な圧力などといった多くのストレスを抱えており、また、土地の公有制度(ソ連・東欧のように体制が崩壊しない一つの要素でもある)など核心部分で60年間変わっていないところもあることへの言及もありました。


 今後考えられるシナリオとしては、1.民主化(複数政党制など)への道を進む、2.柔らかい一党体制、3.現在の固い一党体制の維持、4.統治能力の衰退から体制の崩壊まで考えられ、どうなるかは予測できないが、中国の政治学者の間でも一層の民主化しか道はない、との主張が出てきていることも事実とのことでした。
 尚、講演後、質問に答えられて、中国は対外的には米国に対して強い憧れと反発を持っているが、まずは米国重視、日本の占める地位はそれに比し低いという冷徹な現実も示されました。


(文責・朱牟田静雄)


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