行事報告

2010年06月30日 行事報告

関東地区6月度月例会

日 時 6月30日(水)正午~午後1時半
場 所 東京本社16階講堂
構 師 杉崎重光氏(ゴールドマン・サックス証券(株)副会長、元IMF副専務理事)
演 題 「国際金融危機とBRICs」

 ご出身の大蔵省時代、7年に亘ったIMF副専務理事時代を経て、2007年以降の現職に至るまで、永年に亘り国際金融の第一線で活躍を続けてこられた杉崎氏に、目下、世界の重大な懸念材料である、金融危機の問題を含め、国際金融問題につき幅広く語っていただきました。当日は、115名の社友が集まり、スクリーンに投影される数多くの最新資料を駆使しての同氏の講演に熱心に耳を傾けました。




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< 講演要旨 >
 講演は、「ギリシャ財政危機」、「危機予防のための規制改革論議」、「世界経済を牽引するBRICs」の3つのテーマについて行われました。それぞれのテーマの講演概要は次のとおりです。


(1)ギリシャ財政危機
 欧州経済の概観としてまず欧州内に於ける各国GDPのシェアでみると、独仏英伊の4大国で6割強、それにスペインを含めた5カ国で7割を占め、ギリシャは2%程度という規模である。
 またドイツ国債と各国国債の利回りの差(スプレッド)で見た国債のリスク度をみると、ギリシャのそれが今年に入って急速に高まり、今年5月のユーロ圏諸国とIMFの融資で鎮静化の方向が見られたものの最近はまた高まる傾向もある。ギリシャ以外ではハンガリーのリスクが高く、更にポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアもリスク拡大の傾向が見られ、財政問題は欧州全般にわたっている。財政赤字は各国ともGDP比5%から10%以上の規模の赤字で、中でもギリシャ、アイルランドが突出している。政府債務残高の国際比較では(債務残高のGDP比でみて)200%台の日本を除くとギリシャ、イタリアが130%台と突出しており、先のトロントサミットで日本を除く各国が赤字を2013年までに半減する目標が定められた。(日本の例外扱いは国債の引き受け先の95%が国内であることもプラスに考慮されていよう。) また、労働コストでみるとドイツは安定しているものの南欧諸国を中心に急上昇しており、しかもこれらの国が同一の通貨ユーロを使用していることが欧州経済の問題点のひとつ。
 特に問題の多い、南欧諸国、アイルランド、ハンガリーといった債務国への主要国のエクスポージャーを各国金融機関の投融資残高でみると仏・独が群を抜いており、欧州金融機関の健全性が問われかねない状況。 ギリシャに対しては、ユーロ圏の融資800億ユーロに加えIMFも300億ユーロ合計日本円換算12兆円を上回る規模の融資が決まっており、更に欧州経済問題全般への対策として、EUとユーロ圏各国による金融安定化基金の増額、融資制度の新設による計5千億ユーロの支援、これを補完するIMFからの2,500億ユーロの融資制度が決まっている。これらの対策により、欧州各国の今後3年間の償還のための資金ニーズは補完可能とみられる。


(2)危機予防のための規制改革論議
 米国では、金融規制改革に関する上下両院の法案が一本化され各院での投票プロセスに入った。(連鎖破綻を防ぐたの金融安定監視評議会の設立、破綻処理のルール化、銀行の高リスク業務を制限するボルカー・ルールの導入、デリバティブ取引の透明性確保、消費者保護etc.) 国際的な銀行税の導入をめぐって6月のG20で議論が行われたが、合意に達せず、各国が独自の方法を検討することになった。
 国際的に活動する銀行の自己資本規制(自己資本の質の強化、リスク補足の強化etc.)流動性規制の導入などの規制改革案についてはG20で各国の協力が確認されて、年内には最終的な規制のあり方が決定される。 個別金融機関内でも近年の金融危機につき、効果的なリスク管理手法の必要が再認識されている(リスク管理を経営戦略の根幹の問題として扱う企業文化の確立など)。
ゴールドマン・サックスに於いてもリスク管理に関わる企業文化が確立していいる。金融機関として、リスクをとりこれをコントロールすることが必須であることから、日々の値洗い、迅速で正確なリスク評価、モデル管理といったリスク管理を支える基盤の確立、リスク管理部門の独立性、経営陣がリスクテイク状況につき包括的且つ詳細に理解し、会社として適切なリスク選好を決定すること等々が既に企業文化として確立している。


(3)世界経済を牽引するBRICs
 BRICsという呼称を使い始めたのは、ゴールドマン・サックスであるが、それはブラジル、ロシア、インド、中国が世界経済において重要性を増しつつあることについて早くから注目していたからである。BRICs4か国のここ10年の株価指数の伸びは、それまで世界経済を牽引してきた米国・日本が伸び悩んでいるのと対照的に飛躍的である。 世界経済の成長率に対する寄与度から見ても嘗てのG7諸国にBRICsが取って替わる勢いを示している。中でも中国の躍進が目覚しい。
 小売売り上げについても中国は米国の停滞と対照的に継続的に増加を続けている。 勿論BRICsにもインフレ率の上昇、GDPの伸び率に比し固定投資(設備投資)のウェイトが高く、伸び率が顕著、不動産価格の上昇、各国の政治動向などのリスク要因もあるが、現状で非常に危険とは考えにくい。 今後の見通しとしても、GDPの拡大額ランキングでもBRICs及びそれに続くNEXT11(これもゴールドマンサックスの造語、メキシコ、韓国、トルコ、インドネシア等の11カ国)の台頭が顕著になると見られ、世界経済に対する寄与度もG3(日・米・欧)をBRICsが逆転すると見込まれる。
 国民の富裕化も進み、2020年までにBRICsに暮らす中産階級の総数がG7のそれを上回ると見られるし、2030年までには、世界に於けるBRICsのプレゼンスは一層高まり、トップ10の中にG3のほかにBRICs4カ国が入り、中でも中国がトップを占めると予測されている。 最後に、IMFのガバナンスの問題として、出資割り当てと各国GDPにギャップがある(例えば中国の出資割り当てが2008年で3 .72%に比しGDPのシェアは7.73%) という指摘がなされるが、必ずしも新興国の出資比率を伸ばせばよい、ということではない。
 IMFは金融機関であるから、資金借り入れ国と資金提供国の発言権のバランスや貸付の返済が担保されるようなガバナンス体制の観点も重視すべきであろう。


(文責・朱牟田 静雄)


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