行事報告

2025年02月25日 行事報告

2025年2月度関東地区社友会月例会

 丸紅基金設立50周年を記念して広報部とタイアップし、2月度月例会を開催致しました。講師には有森裕子氏をお招きしまして「よろこびを力に ~スポーツの力~」をテーマに講演いただきました。


日 時 2025年2月3日(月)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  有森 裕子 氏
(女子マラソンオリンピックメダリスト、NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」代表理事、日本陸上競技連盟 副理事)
演 題 よろこびを力に ~スポーツの力~

丸紅基金からの冒頭挨拶


本日は丸紅社友会の月例会で、丸紅基金設立50周年を記念して有森裕子さんをお招きし、社会貢献活動についてお話を伺います。1974年に設立された丸紅基金は、これまでに累計3,044件、総額52.5億円を寄付し、2024年度からは支援金を年間1億円から3億円に増額、一件当たりの支援上限も200万円から300万円に引き上げました。社会情勢に応じた支援に注力し、生活困窮者の支援や子供食堂などのフードバンク活動、障害がある方の施設での作業環境改善などさまざまなニーズに応えています。これらの支援に対して多くの受益者の方から沢山の感謝の声が寄せられています。資金は丸紅の社員、役員および社友の皆さまからの100円クラブを通じた寄付と同額の会社のマッチング寄付で成り立っています。しかし資金繰りは厳しい状況で引き続き皆さまのご支援をお願いいたします。社会貢献活動への無関心が多い中、本日は有森さんのお話を通じて、社会貢献への興味を持っていただければ幸いです。

有森裕子氏の講演


<カンボジアとの関わり>


実は昨日カンボジアから帰国しました。1996年のアトランタオリンピックでメダルを獲得して以来、カンボジアとの繋がりがあります。その頃はスポーツで生計を立てるのが難しく、スポーツを通じた社会活動や海外での活動に余裕を持って取り組むことはできませんでした。しかし、マラソンは性別、年齢、国籍に関係なく、全員が同じ条件で競えるポーツであり、社会的メッセージを伝える強力な手段になり得ます。1996年のアトランタオリンピックの後、カンボジアで社会貢献を目的としたマラソンへの参加を勧められ、カンボジアの困難な歴史を知った上で、アンコールで開催された国際ハーフマラソンに参加しました。このマラソンは対人地雷撲滅、HIV防止、被災者支援を目的としており、私の社会貢献活動のスタートであり、カンボジアとの深い関わりの始まりでした。

初めてカンボジアを訪れた際、空港に弾丸の跡が残り、ホテルは最低限の設備しかなく、水道水は茶色でした。この経験から、基本的な生活条件で生きることの大切さを学びました。1996年のアンコールハーフマラソンでは、参加者のほとんどが日本人ランナーで、カンボジア人の参加費は無料でした。カンボジアではポル・ポト政権以降、教育体系が崩壊し、スポーツ教育も存在せず、子供たちの健康状態も良くありませんでした。私たちは物資を持参し、子供たちに配りましたが、その時の状況は心を痛めるものでした。スポーツを通じて伝えられることの意味を見出すのが難しい状況でした。

翌年、政治危機にもかかわらず、アンコールワット国際ハーフマラソンに再度参加しました。多くの人が参加を断る中、何か意味ある行動をしたいという思いから参加を決めました。第2回目の大会では、子供たちが前年に受け取った物を身につけて参加する姿が見られ、子供たちの生きる意欲と希望に満ちた視線を見て、二度目の参加の大きな意義を感じました。この経験から、マラソンが人々の生活を向上させる力があること、そしてスポーツが大切な生きる手段の一つであることを実感しました。

<スポーツNGO ハート・オブ・ゴールド>

これが、スポーツを通じた国際活動「スポーツ NGO ハート・オブ・ゴールド」への参加に繋がりました。1998年にこの団体の代表として活動を始め、カンボジアを中心にスポーツを通した支援を展開しました。マラソン大会や日本語教室の開設などさまざまな活動を通じて、現地のニーズと支援の方法を学びました。活動を通じて、物資提供だけでなく、人材育成の重要性が明らかになりました。教育がその基盤となり、特にスポーツ教育が心身の健全な発達に貢献することを理解しました。この理念のもと、カンボジアで5年間青少年スポーツ祭を実施し、子供たちと教育者にスポーツを通じた教育を提供しました。このプロジェクトは、子供たちの健全な成長を目的とし、カンボジアの学校教育にスポーツを組み込むきっかけとなりました。この取り組みはカンボジアの教育スポーツ青年スポーツ省と共に、小学校の体育指導要領の作成にも繋がりました。私たちは、筑波大学やJICAと協力し、カンボジアで初の小学校体育指導要領を作成しました。この取り組みは小学校から始まり、中学校、高校まで拡大し、指導要領を作成し、モデル校で体育の授業が行われるようになりました。私たちは、スポーツが人々の健康や生きる意欲を促進することを重視しており、カンボジアの人々や活動に関わる全ての人と共に、限られた資源の中で最大限に努力しています。



スポーツ自体に力はなく、人間が健康に生きたいと願い、生きる力をスポーツで育むことに意味があります。オリンピックであれ地域の運動会であれ、スポーツを通じて健康に生きる力を育てることが大切です。これからもスポーツの可能性を探り、社会と共に活動することが私の目標です。知的障害のあるアスリートたちがスポーツを通じて自分の能力を生かし頑張る姿から、障害よりも機会の提供の重要性を学びました。スポーツは、応援され応援することで人が変わり、生きるエネルギーを生み出すことができる手段です。例えば過酷とも言われるマラソンでは、まさに応援によって生き返り、消えてしまいそうな自分の存在意義を感じることができます。応援することで、応援された人も応援した人もポジティブな影響を受け、互いに感謝することができます。このようにスポーツは人々を元気にし、生きるエネルギーを生み出します。なので私は人が生きるにあたって大切であろうスポーツを通じた活動を続けます。今年もアンコールワットで開催される第30回記念大会を盛り上げていきたいと思います。

話は変わりますが、今年久しぶりに東京で開催される世界陸上に注目しています。東京での開催は私が国際的な大会参加としてデビューした1991年以来で、その時に丸紅の産業医である山澤先生とのご縁ができました。また、聴覚障害者の為の大会であるデフリンピックにも触れたいと思います。デフリンピックは聴覚障害者にスポーツの機会を提供し彼らの能力を社会に示す重要な場であり、日本での世界大会開催は初めてです。11月に東京で開催されるデフリンピックでは、ボランティアも募集しています。

<スポーツとの出会い>


岡山県で生まれた私は、赤ちゃんの時におしめ替えで異常に泣く子でした。母がある新聞の投稿欄を読み、その原因が股関節脱臼であることに気づき、病院で早期に適切な治療を受けたため、深刻な障害を避けることができました。半年間足に矯正バンドをはめて治療を受けた私は、生まれながらにランナーになる才能を持っていたわけではなく、両親は私が普通に歩いて遊べることだけを願っていました。治療後も継続的な注意が必要で、体育の授業などで順位付けされることが好きではありませんでした。最初に入った手芸クラブでは競争がなく心地よかったですが、自信がなく他人との比較で傷ついていました。しかしある時、体育の先生に励まされ「お前の持っているものはお前だけの最高の武器だ」と教えられ、自分独自の価値を意識するようになりました。これが自己肯定感を高めるきっかけとなりました。人と違うことは必ずしも悪いことではないと理解し、その先生が顧問を務める陸上クラブに入りました。速くは走れなかったものの、努力することで周りから応援されその応援がパフォーマンス向上に繋がりました。この経験で努力と応援の大切さを学んだんだと思います。中学の運動会で800メートル走に出場し優勝するなど困難への挑戦が私の原動力となりました。大人になると応援したりされたりする機会はあまりないかもしれませんが、スポーツを通じて前談でお話をさせていただいた応援の重要性も伝えたいと思っています。

【 質 疑 応 答 】


<質問1>
ユニバース副会長として、NCAAをモデルにした日本の大学スポーツ協会の現状について、特に人気スポーツの利権構造の改善可能性に興味があります。


<回答1>
ユニバースはNCAAの日本版として設立されましたが、大学スポーツのシステムや収益構造の違いにより、NCAAと同様の運営は難しい状況にあります。多くの大学が参加していない現状は、収益の取り扱いに対する懸念が影響しているようです。私は、学生スポーツが安心して行える環境作りに貢献し、ユニバースの取り組みをより多くの人に理解してもらうことが重要だと考えています。ユニバースの活動を通じて、大学スポーツが未来を担う人材育成に重要であること、そして大学生に投資し、彼らが希望を持てる環境を作ることの必要性を実感しました。この取り組みに関心を持ち、支援していただけることを願っています。

<質問2>
若いアスリートの海外への思い、若いアスリートの海外での活躍をどう捉えていますか。


<回答2>
現代の若いアスリートたちは、海外で活動する機会が増え、プロや国際競技に参加する選手は高い意識を持っています。「ヒーローズ」プロジェクトのような、アスリートの社会貢献を支援する取り組みがあり、海外で教える日本人アスリートもいます。経済的な課題はありますが、海外で活躍し社会に貢献するアスリートの増加を目指しています。





<質問3>
現役時代、プレッシャーをどのように乗り越えられましたか。


<回答3>
プレッシャーは主に自分自身からのものと捉え、自分が自分に望むことを達成できた時には自分を褒めるようにしています。プレッシャーやスランプを自分の言葉遣いやイメージでコントロールし、ネガティブな言葉を使わず、自分自身を見失わないよう努めています。自分自身との戦いであり、全てを自分の責任で受け止めています。長嶋監督が以前おっしゃられてましたが、プレッシャーを感じることは他者から期待されている証拠であり、注目され関心を持たれることは価値があると捉えています。他者からの関心を積極的に受け入れ、それを自分の力に変えることが大切だと考えています。

<質問4>
ランニング・ジョギングを続けています。友人からウォーキングへの切り替えを勧められましたが、その点についてのご意見を伺いたいです。

<回答4>
走ることで得られるメンタル的な満足があるならばゆっくりと走り続けるのも良いですが、健康を考えるとウォーキングや山歩き、水泳がお勧めです。これらは関節への負担が少なく、特に水泳は体への負荷を軽減します。年齢と共に関節への負担が増えるため、穏やかな活動を選ぶことが大切です。腰や足首、股関節を痛めないようにし、骨密度の低下を考慮することが必要です。山登りをすることで膝周りと腰が強化され、ランニングが楽になるかもしれません。


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