行事報告

2024年11月21日 行事報告

2024年10月度関東地区社友会月例会

 2024年10月16日(水)に開催されました10月度月例会では講師に落語家の三遊亭好青年氏をお招きし、「スウェーデン出身の落語家『三遊亭好青年』から見える日本の伝統芸能『落語』」をテーマに講演いただきました。


日 時 2024年10月16日(水)14時~15時30分
場 所 丸紅本社(竹橋) 3階 大ホール
講 師  落語家 三遊亭好青年 氏
演 題 スウェーデン出身の落語家「三遊亭好青年」から見える日本の伝統芸能「落語」

<スウェーデンについて>


三遊亭好青年と申します。皆さまどうぞよろしくお願い申し上げます。スウェーデン出身で、落語家をしております。
スウェーデンは、ヨーロッパの北部に位置し、冬は非常に寒いですが夏は25度ぐらいで過ごしやすいです。私はウプサラ出身で、この町は首都ストックホルムから少し離れています。この町はウプサラ大聖堂が有名です。スカンジナビア諸国で最大級の教会建築であり、昔、多くのスウェーデン王・王妃の戴冠式が行われました。王様やスウェーデンで有名な植物学者リンネ博士など、著名な方も埋葬されています。スウェーデンといえば、家具の会社やノーベル賞のアルフレド・ノーベル氏、自動車のボルボなどが有名です。またオーロラも有名ですが、冬はとても寒いので冬のオーロラ観光はお勧めしません。

食文化では、世界で一番臭いとされるシュールストレミングが有名です。このニシンの缶詰は非常に強烈な臭いが特徴で、スウェーデン内でも特定の場所での開封が制限されています。また自然が豊かなスウェーデンでは、森でのベリーやきのこ狩りが楽しめます。それと夏の名物としてザリガニパーティーがあり、ザリガニはカニとエビの中間の味わいがありますが、食べ過ぎたせいか現在は絶滅危惧種になっています。スウェーデンの主食はジャガイモで、サーモンと共によく食べられます。万能で安価な食材です。ベリーのジャムと一緒にミートボールもスウェーデン料理として有名です。
また多様な甘いものや面白い食べ物もあります。サンドイッチケーキは意外とおいしいので、機会があればぜひ試してみてください。あとスウェーデンには「フィーカ」という文化があり、これは友人やデート時にカフェでスイーツとコーヒーを楽しむこと、または職場での短い休憩を指します。この休憩文化は、仕事の効率を上げるためにも重要であり非常に大切にされています。
吉祥寺のアルトゴットという素敵なスウェーデン料理レストランでは、年に2回ほど、落語会を開催しています。お客様が、スウェーデン料理を楽しめる落語会やスウェーデンのデザートを楽しめるFIKA落語会です。シェフとのトークやお客様とお話できる時間もあります。ご興味があれば、ぜひいらして下さい。次回は春に予定しています。

スウェーデンの夏にはミッドサマーという祭りがあり、草や花で飾った棒を中心に囲んで踊ります。子供たちは踊りを楽しみ、大人はお酒を楽しむのが一番です。スウェーデンでは、シュナップスというジャガイモから作った強いお酒を小さなグラスで飲み、乾杯の歌を歌います。体には良くないかもしれませんが、一つの楽しみ方です。私はミッドサマーに関する新作落語も作りました。この祭りの夜は魔法の力が強いとされ、若い女性が将来の結婚相手を占う伝統があります。
スウェーデンではクリスマスは家族と過ごす大切な時期で、大晦日の過ごし方は人それぞれです。花火を見ながら新年を迎えるのが慣習で、これは日本の夏の花火とは異なり、冬の暗い夜空で行われます。





<日本との出会い>


落語家になった経緯についてお話しします。
スウェーデンでは、進路を決定、変更する際に、大学を編入したり、大学の専攻を変えることが柔軟にできるため、私は高校の外国語の授業で選択していた日本語をもっと学びたいと思い、軽い気持ちで日本語学では北欧で一番有名とされる国立ストックホルム大学に入学し、日本語を学ぶことにしました。

子供の頃は、セーラームーンやドラゴンボールのスウェーデン語版をテレビで見ていたため、日本に興味を持っていました。留学の期間を含めると、日本に住んで今年で11年目になります。南山大学と中央大学で交換留学を経験し、インテンシブジャパニーズの授業で日本語を集中的に学びました。国際寮での生活や中央大学での学びを通じ徐々に日本語を上達させ、中央大学在学中、スウェーデンでは体験できない日本のサークル文化に興味を持ちました。多様なサークルの中で、偶然落語研究会を見つけ、初めての落語体験をしました。その時すでに、日本語能力試験1級に合格していましたが、噺のスピードがとても速く、言葉の意味は分からないものの面白さを感じ、入部を決めました。外国人が珍しいこのサークルで最初は難しさを感じながらも、次第に落語の面白さに魅了され、続けることを決心しました。その時はまさかこれが人生の分かれ道になるとは思ってもみませんでした。

落語家になることを決心し、師匠を探す過程を経て、三遊亭好楽に弟子入りしました。ご存じのこととは思いますが笑点に出ているピンクの着物の師匠です。手紙で弟子入りを志願し、実際に連絡が来るまでのあいだは不安と期待が混在していました。通常、入門志願者のほとんどは断わられるので諦めていましたが、意外にも電話があり落語の会に来るよう言われました。落語家の仕事は派手ではなく、ひたすら稽古に励むものであると聞かされ、それでもよかったら来なさいと言われました。そして考えた末に落語家を目指すことを決心しました。師匠から三遊亭じゅうべえという名前をいただきました。この名前の由来は十番目の弟子ということらしいですが、多分適当に考えられたのではと疑っています。(笑)このことを師匠に話すと「それは違う。私は適当ではない、いい加減なんだ」と。どこが違うのかわからないんですが。また師匠は人の目を見て弟子を選ぶと言い、私はその目を持っていたと言います。外国人だから目の色が違うと。これも師匠のネタです。


私は、五代目圓楽一門会に所属しています。五代目圓楽は、笑点の司会を務め、顔が馬に似ていると有名だった方です。お正月には、朝、黒紋付きの袴を着て、弟子は師匠の家に正月の挨拶に行き、その後、五代目圓楽一門全員で集まります。寄席では、正月興行が始まり多くのお客様で賑わいます。
最初4年間の前座修行は、伝統的で厳しく、落語のほかに、着物の扱いやお茶出しのタイミングなど、日常的なサポート作業も含まれます。
日本人でも大変苦労しているので、スウェーデン出身として、これらの日本の文化や上下関係に慣れるのは難しいですが、先輩の指示に従うことが重要です。落語界では厳しいルールがあり、初めはそのルールを理解するのが難しいですが、地道に学んでいけば何とかなるものです。
特に、太鼓の叩き方や着物の畳み方など、特有の技術が求められ、着物は次の仕事に行く前に速く丁寧に畳む必要があります。着物を畳む時間には厳しい基準があり、経験のない人には想像もつかないかもしれません。このような厳格な環境で、最初はよく怒られたものです。最初は前座から始め、裏方のお手伝いをしながら落語を学びました。前座の時は生活費を支えてもらえるものの、二ツ目に昇進すると、落語家として自立でき、落語の依頼を引き受けること、そして、自分で落語会を企画することが許されます。また、羽織、袴を着ることも許されます。
真打になると寄席の最後の出番、トリを務めることができ、弟子を持つ権利が得られます。しかし弟子をスカウトする文化がないため、師匠を慕って志願者が来なければ弟子を取ることができません。
今は二ツ目で、後輩ができ、私がお茶の入れ方や着物の畳み方、言葉遣いなどを教える立場になりました。現代的な言い方をする弟弟子には、適切な言葉遣いを指導しています。スウェーデン人である私が教えるのは滑稽に感じられますが、昔ながらのルールに少しずつ慣れてきました。

前座のころは、師匠と共に日本のさまざまな場所を訪れ、座布団と毛氈があれば、落語の高座がどこでもできる便利さを体験しました。
前座から二ツ目に昇格し、好楽の好の字をいただき「好青年」という新しい名前に変わりました。好青年という名を伝えられた後で、辞書で調べてみると英訳はナイスガイでした。意味がわかったときは、スキャンダルは起こせないと思ったものです。
二ツ目昇進の際は、披露目は寄席で行いますので、私の時も両国や亀戸の寄席で口上を行いました。
真打に昇進した際の披露目は、大勢の方が来られるためホテル等の場所でよく行われます。披露目興行も始まります。
修業をつみ、正式に認められ、協会や一門に所属する外国人のプロ落語家は現在、上方落語でカナダ人が2人、江戸落語では私1人です。落語は江戸落語と上方落語に分かれ、それぞれ特徴があります。私は江戸前の芸を目指しています。前座修行はとても厳しいものでしたが、今は多くのことを学ぶことができ、良かったと感じています。

<現在の落語家としての活動>


現在、さまざまな場所で落語を披露しています。全国各地からご依頼を頂き、秋田や新潟、茨城や大阪へも最近は行きました。川越市の古い酒蔵や、スウェーデン大使館、鎌倉の安国論寺、箱根のホテル、ホール、図書館、学校、商店街のお祭りなど、一つ一つ異なる雰囲気の中で落語を披露しています。
特に、私はスウェーデン人として初の落語家なので、スウェーデン大使館主催の建国記念日のイベントでは、毎年ご依頼を頂き、落語を披露しています。一度師匠もイベントで落語を披露してもらったのですが、落語家が大使館で披露することは珍しいため、師匠にとっても、初めての経験だったそうです。大いに賑わいました。

現在、私は噺を100席ほど持っていますが、怪談話「牡丹灯籠」のように侍の言葉を使う噺は特に難しく、苦労しながらもやりがいを感じています。この怪談を含むさまざまな噺を通じて、観客を引き込む雰囲気作りが重要だと学んでいます。親子向けの落語では、子供にも分かりやすい噺を選ぶことが大切です。さまざまな場所で落語の高座を行い、英語での披露もしています。落語は日本特有の芸能ですが海外の方にも理解できる面白さがあります。特に夫婦の喧嘩や泥棒の話など、共通のテーマは国際的にも理解しやすいです。しかし、言葉遊びの翻訳は難しく、「隣に囲いができたってよ」「へぇー」、これは翻訳できません。そのような部分はカットしてストーリーの面白さを伝えることに努めています。文化の違いから漫才のようなユーモアは理解しづらいこともありますが、落語の普遍的なテーマは幅広い観客に受け入れられています。「時そば」という有名な落語の噺では、蕎麦を食べる仕草を扇子で表現しますが、海外の観客にも理解できるようにするためには説明が必要です。日本では食事時に音を立てることが美味しく食べていると受け取られますが、欧米では食べる時に音を立てることが食事のマナーとして好まれないため、この文化的な違いを説明する必要があることは難しいです。このような点を考慮しながら、翻訳と説明を行っています。さまざまな場所で高座を行っており、学校や大学でも披露しています。相手に合わせた噺を選び、特に子供向けの会では、小学生の反応が年齢によって異なることが面白いと感じました。3年生は素直に笑い、4年生は周りを気にしながら笑い、5年生はそれを乗り越えて笑うようになりました。さまざまな仕事を受け、講演会やイベントの司会も行っています。スカイツリーのソラマチでの打ち水イベントなど、昔からの習慣を紹介する機会もあります。


イベントの司会を先輩と務め、英語で通訳しながら楽しく不思議な体験をしました。また、師匠と共に笑点に出演する経験もあり、テレビで話すことに徐々に慣れてきましたが、プロデューサーに厳しい目で見られる中で面白いことを言わねばと思うと、出演するときは毎回かなり緊張します。またNHKワールドで「My Job in JAPAN」という番組のナレーションと司会を務め、日本でさまざまな仕事をしている外国人を紹介しました。私が一番不思議な仕事をしているんですけどね。日本人の間接的な表現に困惑する外国人のエピソードや、居酒屋の外国人店長の話など、文化の違いが面白いと感じました。ナレーションでは日本語の発音や外来語の使い方に苦労し、英語のSDGsの日本語読みなどが修正されました。
また英語には自信があったのですが、今回はNHKのナレーションのため、アナウンサーのようにはっきりと話すように等、英語もイギリス人コーチによる厳しい指導を受け、油断できないと感じました。
講演を行う場合は、最後に質問コーナーを設けています。日本では質問をすることに恥ずかしさを感じる傾向があり、最初の質問者が現れるまで時間がかかりますが、一人が勇気を出して質問すると、次々に質問が出ます。他の国ではすぐに複数の質問が出るのに対し、日本では最初の質問が難しいようです。

私は日本とスウェーデンの文化の違い、SDGsについての落語も作っています。日本のリサイクルの丁寧さを例に挙げ、環境問題への取り組みを紹介しましたが、ビニール袋が有料になったことも話題にしました。日本とスウェーデンでのビニール袋の価格の違いや(スウェーデンでは100円程度に対し日本は5円程度)、それが「お客様とのゴエン」という言葉に掛けて、落語のオチにしています。
SDGsは難しいトピックですので、笑いを取りながらこのようなテーマの噺を作ることは難しいものです。古典落語は、一般的に、色々な落語家によって時を経て受け継がれていくため、特に口伝であるからこそ少しずつ噺を変えたり、変わったりして、新しいアイディアが取り入れられ進化しています。このような噺と勝負するため、自分で新しい噺をつくるのは、より難しくなります。
また、言葉遊びも、外国語では難しいです。日本のお笑いにはボケとツッコミが必須ですが、欧米では、ボケのみでツッコミがない等、さまざまなお笑いの形があります。日本の形は、外国人には新鮮にうつりますが、文化の違いで受け取り方が異なることもあります。古典落語には今では受け入れられないブラックユーモアやNGワードが含まれており、文化の時代ギャップを感じさせます。私はスウェーデン人として、日本語で古典落語を学びつつ、自分なりの落語を見つけたいと思っています。日本では落語を見たことがない若い方も多く、ましてスウェーデン人が落語を披露することはとても珍しいのですが、この伝統芸能をより多くの方に楽しんでいただけるよう工夫しながら国内外で、落語を披露していきたいと思います。落語を現代に合わせて少し変化させるか、師匠方から教えて頂いた噺をそのまま披露するかは、これから考えていきたいと思いますがどちらにせよ、この日本の伝統芸能を世界に広めることを目指しています。
これでプレゼンテーションを終え質問コーナーへ移りますので、質問があれば歓迎します。スウェーデン語での感謝を表し、「Tack sa mycket!」と申し上げます。長い話を聞いていただき、ありがとうございました。

<質疑応答>

<質問1>
ご両親は好青年さんの仕事に対してどのようにご理解されていますか。

<回答1>
そうですね。落語はもちろん知らないのですが、伝統的な一人芝居をやっているということで、好きなことをやっていいよという感じです。


<質問2>
落語の中で好きな話を二、三挙げていただけますか。


<回答2>
いろいろ好きですが、今一番のお気に入りは「宿屋の仇討」「たらちね」「牡丹灯籠」です。





<質問3>
これからもずっと日本で暮らしていく予定ですか。


<回答3>
私はまだ真打になるまで、あと5年はかかりますし、やはり落語は日本の伝統芸能ですので、日本をベースにやっていくつもりです。
今後も海外に落語を広めるため、海外での落語会もご依頼があれば行きますし、自分でもヨーロッパを中心に企画して、ホール等で落語会を開催していきたいと思っています。

<質問4>
笑点メンバーは二ツ目でもなれるのですか。

<回答4>
昔は二ツ目の若手も出ていましたが、その若手が現在、うちの師匠の年代になられています。
簡単には出られません。出演を求められれば出たいです。BSで放送されている笑点若手大喜利には、時々ご依頼を頂き出演することがあるので、機会がありましたらご覧いただけると嬉しいです。

<質問5>
好楽師匠の後を継ぐことを目指されますか。

<回答5>
うちの​師匠はまだまだやめないと思います。何れにせよおそらく私ではないと思います。

<質問6>
期待しています。いつか笑点でお会いできることを楽しみにしています。

<回答6>
はい、頑張ります。


行事情報トップページへ